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侵略者《インベーダー》 10

 立体駐車場ではアラウを中心とするノアズアークの戦力が邪魔をしており、ガイノス軍は絶賛苦戦状態が続いていた。

 異能を持って戦う者達は少数ながら犠牲が出始め、立体駐車場で戦っている部隊は少しずつではあるが異能との戦いに慣れ始めており、そんな中にレクターがアラウと戦う為に突っ込んでいこうとしている。

 そんな中、平面駐車場ではイザークが戦いに介入しており、炎の強烈な一撃が立体駐車場まで届こうとしていた。

 不安な気持ちで平面駐車場の方へと振り向くと、平面駐車場ではこれ以上被害が出ないようにとソラが奮闘している姿が見える。

 ソラの元へと戻りたいという気持ちが心の奥から昇ってくるが、それをグッと抑えて立体駐車場へと入っていく。


 三階建ての立体駐車場は病院と並列する形で作られており、ソラ曰く昔はここに古い公民館があったそうだが、学校の近くに移築されたことで空き地になってしまった。

 そこを病院側が購入し立体駐車場を造ったのだが、その際に少々強引立地条件故に建物がL字型になっている。

 二階が激戦区になっており、上に登りたいノアズアークと阻止したいガイノス軍でぶつかり合っており、一回から上へと昇っていこうとするレクターが二階への坂を上っていくと真正面からアラウの素早い二撃がレクターを襲う。


 腕を十字にして攻撃を受け止め、そのまま視界が若干塞がった状態で遅れたカウンターを決めようと右足を伸ばすが、一歩遅くアラウは少し離れ場所に立っていた。


鬱陶(うっとう)しい。あなたの所為でイザークに殺されかけた。あなたの所為だ」

「何の話?」


 レクターは意味の分からないキレ方に首を傾げる。

 イザークはその性格上に失敗した人間に対して容赦ない攻撃を浴びせ、アラウはそれを長年恐れてきた。


「あなたは知らないから言えるのよ………あの殺人衝動が本気で怒ったら誰も手を付けられない」

「? だったら逃げればいいんじゃない?」


 レクターにはアラウの物言いに疑問があった。

 そこまで怖いのなら逃げればいいのではと思うだけだし、それをしない理由がよく分からなかったが、アラウがイザークを強烈に恐れていることはよく理解できる。


 瞳からは恐怖を感じており、素早く動くうえで邪魔にならない程度の質素な服の裾からは微かにだが青あざのようなモノが見えたからだ。

 恐らくここにいる殆ど物は脅されてここにいるに違いないというのがレクターの結論で、それ故にソラの方が少しだけ気になってしまった。


(確かにあのイザークっていう人は少し変わった人だなって思ったけど、そんなに強烈な人なんだ……)


 しかし、不安にはあるが案外レクターはソラが勝つという理屈の無い確信が存在した。

 ソラが負けるはずがないという確信。

 相性が良いとかいう理屈でもなく、レクターにはソラが負ける姿がまるで想像できなかった。


「どれだけイザークという人が強くてもソラには勝てないよ。そして、アンタも俺には勝てない」


 アラウは恐怖半分、レクターの物言いに怒りが半分の表情を浮かべ、鋭い睨みと歪んだままの表情が目の前から消え、レクターは反射的にしゃがみ込み右横から来るストレートパンチを回避し、そのままアラウの顎先目掛けてケリを決める。

 アラウは攻撃事態は逸らす事で深刻なダメージは阻止したが、それ以上に精神面に来たダメージの方が強かった。


 初めて自分の移動速度に肉体で割り込んできた人間、イザークでも肉体速度に直接追いつけるわけじゃない。

 イザークの場合炎を操る能力故に基本アラウと相性がいいし、それでも自分と似たような異能に出会ったことがあるが、それでも単純な速度に追いつける人間はいなかった。

 それでも、目の前にいたレクターはアラウの攻撃速度に追いついた。

 前の戦いの時もあと一歩と言う所でアラウは離脱することになったが、あのまま続けていたら追いつかれたのではと思っていた矢先の戦い。


(私が油断していただけ、本気を出せばこの少年が私に追いつけるはずがない……!)


 アラウは周囲を回りながらレクターの隙を見つけ出そうとするが、レクターはそんなアラウを挑発するかのように無防備な姿をさらし出す。

 全身の力を脱力させ、ただ立っているような状況にアラウは怒りを見せる。


(ば、馬鹿にして!!)


 フェイントを何度も仕掛けながら止めにと強烈な一撃がレクターの後頭部目掛けて突っ込んでいくが、それ以上にジャストタイミングでレクターは振り返り、アラウの顔面目掛けて力一杯の一撃を叩き込んだ。


 アラウはレクターの最大の一撃を受け切る直前まで思考し続けた。

 どうすればこの状況を打開する手段があるのだろうと、しかし、いくら考え得ても何も答えなど出てこなかった。

 鼻先に当たりそうになっているレクターの右拳、最後の瞬間まで何故自分が負けたのか分からなかった。



 レクターは最初っからアラウとの戦いの置いて単純なスピード勝負で勝てないとアッサリ結論を出していた。

 だからこその魔導機。

 瞬発的な速度だけならアラウと同じぐらい引き出せる。

 一瞬の勝負に全てを賭けると決め、レクターはその上でどうすれば自分の拳をアラウに叩き込むことができるかと必死で考えた。


「無理じゃない?」


 そう考えた時、レクターはアラウが攻撃してから思考し行動したのでは遅い。

 だからこその反射神経でのみ行動する。

 全身の神経を研ぎ澄ませ、攻撃が来たと感じた方向に何も考えず一撃を叩き込む。


「ど、どうして………?」

「だって単純なスピードで勝てないもん。だからこそ反射神経だけで攻撃する為に瞬発的に速度を上げる起動式を自動で発動できるようにソラにチューニングアップしてもらった。勝てたし」


 アラウは考えられ無いほどの衝撃を受けた。

 人は攻撃されていると考えればむしろ思考してしまうが、それを放棄することは難しい。

 ましてや反射神経に全てを賭ける何て思考の全てを放棄している事と同じ、ましてや相手は目に見えないほどの速度で戦う人間。

 思考の全てを投げ出し、ただ反射神経の攻撃を繰り出すために脱力して待ち構える。


 あの時レクターが挑発していたように見えたのは、なるべく考えないで済むようにと態度から全てを投げ出していたからだった。


「怖いって考えた時に人間は咄嗟に単純な行動に走りがちだってソラが言っていたから、さっきの話の中であなたが怖いって話をしていたから多分ストレートに殴ってくるって思ったんだ」


 イザークを恐れるあまりの行動が仇になった。

 一瞬の速度で負けてしまったアラウ、彼女は薄れゆく意識の中そっと目を閉じた。



 イリーナは奈美と共にヴァースが幽閉されている部屋の中へと入っていく。

 病室の中は質素にできており、真ん中にベット一台とその周囲に様々な薬品は入った点滴が並んでおり、その全てはヴァースの両腕へと集まっている。


「ヴァース………ごめんね」

「イリーナ!」

「私の話をよく聞いて。あなたはイザークに騙されている。私は自分の意思で逃げ出したの。イザークは本当は私達の事なんて考えていない。あの時、私はそれに気が付いた。でも、あなたを守る為なんだって黙ってきた。でも……ごめんね」


 涙を流し俯いているイリーナ、ヴァースは動かしにくくなっている自らの右腕を何とか動かし、ベットにうずくまっているように見えるイリーナの頭を優しく撫でる。

 イリーナがヴァースの方を向くとそこには微笑んでいるヴァースが居た。


「ヨ、ヨカッタ」

「ご、御免ね。本当の事を言えばあなたが傷つくって思って、でも、怖かったの。イザークから早く逃げたいって。でも、あなたを巻き込めばあなたが死ぬんじゃないかって……」


 イリーナは何度も何度も謝りながらベットを涙で濡らしていく。


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