侵略者《インベーダー》 8
家の屋根から屋根へと飛んで移動している姿を見られると一体いつの時代の忍者なのかと思われるかもしれないが、魔導機と同等の力を発揮できる俺はこのくらいの身体能力は存在する。
ていうか召喚した星屑の鎧のマントにくっついているエアロードは自分で飛んで欲しい。
「自分で飛べよ! お前跳べるだろ」
「何故無駄に体力を消耗する選択肢を選ばなければならない」
「お前の理屈だろ!? 俺の体力は消耗するぞ」
「たかがこれぐらいの大きさに体力が大幅に消耗するわけでもない」
こいつ意地でも動かないつもりなのだろう。
どうやら俺が諦めるしかなさそうだ。
目の前に見えてきた十階建ての雑居ビルにも見える建物、その壁に張り付き屋上へと向かって走っていく。
病院一帯は高い建物が多く、雑居ビルの屋上からなら病院が見えるかもしれない。
屋上へと辿り着き病院の方へと顔を向けると、モクモクと炎が見えて来て、その下では五階建ての病院一帯でガイノス軍の戦闘が始まっている。
市民の非難が行われているが、その影響もあってあまり状況が芳しくないようだ。
エアロードが別の方向へと目線を向けている事に気が付き、俺もその方向へと目線を向けるとシャドウバイヤが小さな体で病院の方へと見守っているのが分かる。
「行くつもりか?」
「ああ、俺も戦いに参加しないと」
「あのイザークという男もそうだが、今のお前の力では体力を大きく消耗するだけだと思うぞ」
「でも今更どうしようもないだろう? 俺があのイザークという男との相性が悪いという事は分かっているさ」
炎を作り出し操る能力を持つイザーク、正直遠距離から攻撃され続ければ俺に勝ち目は薄くなる。
こちらは剣一本で攻撃を捌き切らなければならない。
あちらが油断をしているあの状況だったからこそ前の戦いは有利に戦えたが、今回はこちらが相手の懐に突っ込んでいくパターンだ、向こうは俺が来ていない事にも既に気が付いているだろうし、このまま突っ込んでいけばこちらが不利になる事は確実だ。
「私と契約しろ。単純な戦闘能力の高いだけのエアロードと違い多彩な魔導を使いこなす私ならあいつらとも戦えるだろう」
「おい! 私が先に目を付けているんだぞ!」
「複数の契約を行ってはいけないというルールはないはずだし、前例が無いわけでもないだろう? それにもうお前は契約をしているんだ関係の無い話だ」
エアロードが「グヌヌ」と悔しそうにしているが、俺としてはどうして俺と契約をしたいのかが分からない。
「どうして俺と契約をしたい? エアロードは馬鹿だからだけど、お前は賢いよな? どうしてなんだ?」
エアロードが先ほどから俺達の間でぎゃあこらと五月蠅いが、俺はそんなエアロードを無視して真直ぐにシャドウバイヤの真っ黒な瞳を見つめる。
「私は人間を多く見てきた。正直言えば私は人間と竜を対等な存在として見てきたことは無い。しかし、竜もまた愚かと思っているし、人間の浅はかさもまた知っている。だが、お前の家族を見てきた。お前の家族は……変わっている」
変わっているといわれると「ム!」と思ってしまうが、マスクで表情が隠れているはずなので分からないだろうが、シャドウバイヤはただ俺の方だけを見る。
「初めて会う存在に簡単に手を指し伸ばし、食べ物を当てようとする。お前達の目を見れば分かる。お前達は命に同情心を持っては接しない。他の人間とはまるで違うようだ。私はある時より人間を信じない事と決めた。だが、お前達の真直ぐさに免じてもう一度信じてみよう」
「お前の期待に答えられると思っていないし、お前が何を信じて何を知りたいのかなんて分からない。でも、お前の期待に答える為に努力しよう!」
お互いに手を重ねエアロードの時と同じように契約すると、俺の中にシャドウバイヤの力が流れ込んでくるのがはっきりと分かった。
「目を瞑れ。イメージしろ。お前の中に流れ込んできた力を発揮できるイメージを。私は影。影は形を変える。日の光と立ち振る舞いによって形を変え、私の力は時として陰に潜むことも、影を操る事もできる」
本来は竜の欠片を継承した時にイメージするのだろうが、俺の場合はエアロードが三年ほど前に受け取った『風』の力と三十九人がイメージした力が反映されたらしい。
今回は俺が自分で力の形をイメージしなくてはいけない。
そして俺は今朝の事を思い出した。
同じ部屋のレクターが今朝テレビで見ていたCMに出ていたゲームの告知、そこに登場していた四つの剣を操る騎士を思い出してしまった。
そのイメージがシャドウバイヤが与える力を融合し、結果そのまま黒い騎士として完成した。
緑星剣の色は変わらないのに、両肩に二本左手に一本装備している剣は緑星剣と違い黒い色をしている。
「「何故それをイメージした?」」
「レクターが今朝騒いでいたのを思い出したんだ!! 仕方ないだろ!?」
エアロードとシャドウバイヤが同時に疑問声を発し、俺はそれに対していいわけのような事を発する。
その後ハッキリと分かるほどの大きな爆発音が聞こえてきたのでそちらの方を見ると、病院から大きな炎が立ち上っている。
「行ってくる!」
「「行って来い! 私達はここで見ている」」
俺は心の中で「この役立たずめ!!」と騒ぎ出したい気持ちになるが、そんな気持ちをぐっとこらえてから病院へと走っていく。
病院は多くく分けて二つの建物に分けられており、手術や重篤患者何度に使われる建物と内科などで使われる建物の二つ。
現在重篤患者などで使われる建物と立体駐車場から火の手が上がっている。
どこから侵入された?
そう考えたときに俺は一つだけ心当たりがあった。
俺達が病院に侵入した際に使われた地下通路、もしあの時に既に侵入されていたとしたら?
可能性が無いわけじゃない。
俺達の行動が原因なのかもしれないと考えると直ぐにでも行動を起こす必要がある。
しかし落ち着いて行動しなければ意味が無いだろう。
火災は立体駐車場から起きており、そこにも多くのガイノス兵が集まっており、ノアズアークの異能の前に苦戦を強いられている。
俺も加勢しなければと中央玄関前に広がる駐車場で戦うレクターの前まで一気に走っていく。
ミサイルが複数の弾丸のような形に変貌して襲い掛かってくるが、更にそこから細かく分かれていく。
「まずい! 下にはガイノス兵の人達が!! ガイノス流剣術応用技! 日切り舞!」
落下中に体を捻り続けて剣撃で弾丸を撃ち落としていく、しかし一本の剣でそれがかなうわけがない。
しかし、そんな時だからこその四つの剣、両肩に装備している日本の剣が空を舞い回転しながらシールドとして弾丸を落としていく。
「レクター! 立体駐車場の方が深刻みたいだ! そっちに向かって行ってくれ!」
「ソラ!? その装備どうしたの!?」
「それより立体駐車場に行け! この前の黒人の女性が暴れ回っている」
レクターが黙って頷きながら立体駐車場へと走っていくのを見付けると、病院の屋上にあるヘリポートに人影を見つけ出した。
平面駐車場には別のノアズアークの戦力が広がっており、正直俺も守りに専念する必要がある。
「ガーランドさん! 屋上に行ってください! 此処の守りは俺がします!」
「………任せてもいいのか?」
「勿論! 剣を散開して防御に専念しろ!」
地面に落ち立ち、アスファルトを走り回りながらノアズアークの部隊に向かって走っていく姿をガーランドは見守ると病院の屋上めざして俺より早く走っていく。
あの速度だ。
俺には無いあの速度。
俺より大きいのに俺以上に速いあの速度、ショッピングモールの戦いの時もガーランドさんは俺達より早く民間人を遠く避難させていた。
俺にあの速度があればあの時に捕まえられたかもしれない。
悔しいけど……俺より遥かに強い。
俺には祖の背中すら見せてもらえない。