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侵略者《インベーダー》 4

 何故こんな珍妙なパーティーでノアズアークの本拠地かもしれない場所に向かう事になったのだろう?

 ガーランドを班長に進む新しい班、班長の座をガーランドに取られて正直嬉しくないという気持ちと、面倒な役職から解放された気持ちが両立している。

 それが表情に出ていたのか、後ろの方でふてくされていた俺にジュリに話しかけてきた。


「面白くない? そんな顔している」

「どうなんだろうな。複雑な気持ちだ。あれだけ班長みたいな役職から解放されたがっていたくせに、いざしなくても良くなるとふてくされている自分がいるんだ」

「ガーランドさんが班長になったからが理由?」

「どうなんだろうな………心がざわつくんだ」


 どうしてなのか分からない。

 でも、心がザワザワしてしまうのは何故なのだろうかと、ガーランドに対して何故俺はこんなにも面白く感じないのだろう。

 そんなに俺が器量の狭い人間だったのかと疑問に思うと同時に、俺が最初の時からガーランドの事が苦手……嫌い……?

 こんなにも意味の分からない感情を俺は心に抱いてしまうのだろうと思っていると、ジュリが俺の顔を覗き込んできた。

 驚いて一歩引くとジュリは微笑んでから俺の心をまるで覗き込むようなことを言う。


「ソラ君はガーランドさんが凄いって思う? 戦い方とか………戦う信念のようなモノに」

「俺が? まさか………」

「そうかな? 同族嫌悪っていうのならソラ君は自分を嫌うよね? でも、ソラ君は自分が嫌いなら改善しようとするでしょ? でも、しないという事は私は同族嫌悪は無いと思っているの」


 ジュリが一歩引き満面の笑みに近いような表情を見せる。

 こういう時のジュリが俺の心を読んでいるときのジュリである。


「ソラ君は自分じゃ勝てないって思っている人って初めて出会ったんじゃない?」

「そんなこと無いだろ。父さんだって勝てると思わないよ」

「勝てる部分はあるでしょ? ソラ君の方が大人びているし、それにアベルさんは普段は結構油断することの方が多いイメージだし、ぱっと見は強そうに見えないしね」


 結構ひどい事を言うが、実際その通りだと思うので困ったものである。


「でもガーランドさんはそういうイメージからは程遠いし、初対面でも強いって感じる人は多いから。どれだけ武術に精通していない人でもはっきり強いって分かる人って本当にすごいもんね。私も新聞で見た時強いって分かったの」

「そりゃあ俺でも分かるぐらいだしな」


 初めて会った時にもはっきり分かった圧のようなモノ、体中で感じたが同時にそれ以外によく分からない感情が生まれたのは事実なんだ。


「憧れたんじゃない? ソラ君はガーランドさんが凄いって思って、その後に知ったんじゃない? ガーランドさんがどれだけ凄いのか。でも、ソラ君は知らないふりをした……認めたくなかったんでしょ? そんな時に都合のいい状況になったから、ソラ君は逃げた」


 俺は逃げた。

 勝てないと悟ったから、知らないと見なかった振りをしてから俺は頭の中に残る違和感だけが俺に気持ちの悪い感情を与える。


「俺が逃げた?」

「違う? ソラ君って皆が思う以上に自分の中に色々と詰め込んじゃうタイプだからね。自分の中に入れてそのままにしちゃったんじゃない?」

「分からないんだ。どうして俺がこんな感情になってしまったんだろうっていつも考えるんだ。本当はよく分からないんだ………」

「これから時間を掛けてゆっくりと向かい合えばいいよ」


 奈美やレクターからの質問攻めに答えながら周囲に気を配る徹底ぶり、ある意味軍人の鏡だろう。

 他愛ない会話をしながらも何気なく周囲に気を配る事は俺にはまだできそうにない。


 俺はガーランドを追い越しながら振り返る。


「ねえ……ガーランドさん。ノアズアークが拠点にいる可能性ってどのぐらいあると思う?」


 奈美とレクターとガーランドさんが俺の言葉に引っ掛かる何かを感じたようで首を傾げていたが、ジュリがすかさず「どうなんですか?」と尋ねる事で誤魔化してくれる。


「そうだな。十%あれば良い方だろうな。まあ、個人で言えば万が一も無いとは思うがな」

「まあ、イリーナに情報がバレている場所に残る人間なんていやしないか……」

「そう言う事だ。手掛かりがあれば位でいいとは思うが、念の為に戦闘する気構えをしておいけばいい」


 しかし、この時別方向で問題が既に起きていた事は誰も知らなかった。



 その問題が表面化したのはノアズアークの拠点にしていた場所に辿り着いてからだった。


 古くひび割れた建物と草木が建物中を包むような状況、俺にとっては懐かしいその場所に俺達がどうやって辿り着いたのかというと、ガーランドさんが道の途中に広がっていた土砂を剣の一振りで吹っ飛ばしてくれたからだ。

 なんというか………次元が違う人だなと思う。


「こんな所で遊んでいたのか? 危なっかしい」

「昔はここまでじゃないと………いや、ここ数年でひどくなるとは思わないから前からこんな感じだったのかもしれないな。でも、昔はこの辺で遊び場なんて限られていたからここは秘密基地位の気持ちだったんだ。ほら、レクターが奈美と一緒にワクワクしながら建物の中へと入っていく」

「敵がいるかもしれないと分かっていないのか?」

「理解してないのかもね」


 俺はガーランドさんと一緒に施設の門跡を潜り、施設の敷地内へと足を延ばす。

 すると俺達の後ろでエアロードと一緒に歩いていたジュリが左右に目を向ける。


「でも、身を隠すには丁度いい場所ですね。木々が周囲からの目くらましになるし、敷地内に入った侵入者は建物の中からなら分かりますから」


 確かにと黙って頷く。

 町まで程よい距離感で身を隠すにはこの辺は山と木々が邪魔をしている。


「人の気はなさそうだけど……エアロードは感じるのか?」

「いや……人はいない。遺体ならあるみたいだがな」


 その声とほぼ同時に中から奈美の悲鳴が聞こえてくる。

 俺達が声のする方へと走っていくと、三つの建物の真ん中一階に五つの自衛隊員と思われる遺体が転がっていた。

 ガーランドが遺体の状況を確認しつつ、俺とレクターがそれを手伝い、ジュリが奈美を抱きしめて落ち着かせる。


「自衛隊員………だね。でも、殺され方が酷い」

「だね。切り傷はともかくとして……焼き殺されたような痕が酷い。これってあの時の?」


 レクターが俺の方に確認を取ってくるので黙って頷く。

 真っ赤な髪をした男の仕業だろう。


「彼女曰く名前は『イザーク』というらしく、残忍で人殺しを楽しむような男なんだそうだ。いざ戦うのならお前達は遠慮はいらんぞ」

「ガーランドはノアズアークについてはどのぐらい知っているわけ?」

「お前達よりは多少ぐらいだな。何せ事前情報が多いわけじゃない」

「でも、自衛隊員が捕まっているって事は自衛隊は事前情報が多そうだ。最も、それをこちらに告げたくない事情があるんだろうけれど」


 俺がそう言っているとガーランドが何か考えたようなそぶりを見せた。


「もしかしたら呪詛の鐘の足取りを誰も知らないのか?」

「どうして?」

「もし自衛隊が知っているならとっくに見つけているだろうし、ノアズアークに情報がバレるか今頃自衛隊の基地が襲撃されていてもおかしくない。実際の所周囲は何も行動に起こそうとしない。という事は呪詛の鐘は誰も行方を知らない可能性が高い」

「なるほど……だったら完全に紛失したんじゃない?」

「可能性は高いな………しかし、私は完全に紛失したわけじゃないと踏んでいるが」

「何で? これだけ探しても見つからないんならもう……」

「ならどうして自衛隊は独自に探し出そうとする? 完全に紛失して、全く手掛かりが無いのなら手当たり次第に探そうとするだろう。だが、実際ノアズアークはここに来て、自衛隊がこの街に展開している。これは『この町に呪詛の鐘がある』と言っているようなものだ。彼らにはあるんだ。呪詛の鐘の手がかりがな」


 この町に呪詛の鐘があるかもしれない。

 何故そう思うのかと考えたときに俺は何故か『バス事件』を思い出していた。


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