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侵略者《インベーダー》 3

 病院の敷地内にある古い倉庫の中に辿り着き、倉庫のドアをゆっくり開けて外に人がいないことを確認してから出ていく。

 病院に侵入するというどこか後ろめたい感情とは裏腹に、俺達(ジュリを除く)メンバーはドキドキしながら病院の裏口から入り込む。

 問題はイリーナの部屋を見つけ出す事である。

 大きな病院だから一つ一つの部屋を探し回っていると時間が掛かってしまうし、だからと言って誰かに聞けば通報される可能性が高い。

 そんな時だからこそエアロードの役目なのではと思い頼み込むと、物凄くめんどくさそうな顔をされてしまった。

 しつこく頼み込んでようやく調べる気になったらしく、ため息を吐きながらも調べ始めた。


「捜索系の力は苦手なのだが、まあいい」


 羽を大きく揺らしながら目を瞑り瞑想するように探し始め、一分後には目を開いて勝手に移動し始める。

 ついて行き初めて三分の場所にあった東館と呼ばれる建物の二階端にその部屋はあった。


 奈美が生き急いでドアをノックして返事を待たずに部屋の中へと入っていく。

 そこで俺は部屋の中から別の人の気配を感じ取り、ドアを開ける奈美とほぼ同時に腕を伸ばした。

 しかし、一歩遅く大きく開いたドアの向こう側に大きなガイノス軍の青い軍服を見付けた。

 オールバックにしてあるその黒髪、大きな肩幅椅子に座っている為背丈が分かりにくいが俺やレクターよりかなり背が高い事は容易に予想できる。

 というか、その後姿だけでも俺の苦手な人なのだと一発で理解させてくれた。

 悲鳴を上げそうになる俺の口をレクターが一瞬で押さえ、奈美は見知らぬ人を前に人見知りスキルを最大値まで使い、ジュリが社交性抜群の笑顔でガーランドに向かい合う。


「ガーランドさん。いらっしゃっていたんですね?」

「ああ。む? 何故お前達がここにいる? 確か今日一日は誰も居れないようにと言っておいたはずだが?」


 さあ、ここでどうやって説明したものかとジュリがほんの刹那の時間で思考した。


「地下道から侵入しました。念の為に警備を増員しておいた方が良いかと思います」


 馬鹿正直に教えてくれるジュリ、ガーランドは俺達の方を見て大きなため息を吐き出した。


「全く。バレる前に帰るんだぞ。サポートする人間の身にもなれ。何か用事でもあったのか?」

「はい。奈美ちゃん」


 ジュリは奈美を連れて部屋の中へと入っていき、病院着を着ているイリーナと対面し始めた。

 俺とレクターは一歩離れた所で見守っていると、話の邪魔をしないためにかガーランドが近づいて来るので、俺はエアロードを盾にすることにした。


「私を盾にするんじゃない」


 エアロードが不満げな顔をしているが、俺としては知ったことではない。

 ガーランドがどこか悲しそうな顔をしたような気がするがきっと気のせいだろう。


「で? 本当の所何をしに来たんだ? まさか妹の為にここまで頑張ってきたわけじゃあるまい」


 門番の対応に苛立ったといえばどんな顔をされるだろうかと一瞬だけ想像した。

 まあ、言わないけれど。


「イリーナからノアズアークの情報を貰おうと、それよりそっちこそ何をしに来たわけ? 本国の防衛要員じゃないの?」


 ガーランドが今何をしているのかなんて特に父さんから聞かなかったが、てっきり本国での防衛要員だと思っていた。


「そんなものはサクト一人で十分だ。そんな事よりアベル一人に任せておくことが問題だろうという判断だ。私はサポート要員兼補充要員で先ほど到着した。目的は……お前達と同じだ」


 本当かね………まあ嘘を言う人間じゃないと思うのだが、問題があるとするなら……。


「こんな所に来てもいいわけ? 子供達の相手をしてやった方が良いんじゃない? 子供からの評価低いって聞いたけど」


 俺が嫌味タップリに言うと、ガーランドの事だから静かに怒りそうな気がしたが、特にそういう感じでもなく、逸らしていた顔をガーランドの方に向けると、少しだけ俯きながら黙り込んでいた。

 レクターとエアロードが俺の耳もとまで近づいてくる。


「言い過ぎじゃない? ガーランドさん落ち込んでるよ」

「お前はそんなにこの男が嫌いなのか?」

「い、いや嫌いっていう訳じゃないが………苦手ってだけだよ。まあ、辺りが強いっていうのはまあ…」


 俺が何か謝るべきなのかもしれないと考えてガーランドに「すいませんでした」と頭を下げる。


「…………お前達はこれからノアズアークを探しに行くんだったな」

「まあ………そうだけど」

「だったらついて行こう」


 驚きを通り越して心臓が飛び出るのではというほどの衝撃を受け、俺の顔が固まったまま動きそうにない。

 何故かレクターははしゃぎ回っていると、エアロードはもうめんどくさそうと表情で語っている。


「ちょ、ちょっと待って! 仕事はどうするんだ?」

「書類仕事や指示仕事位アベルでもできるだろ。ていうかそれぐらい真面目にしてもらわなくては困る」

「だったら。サポート要員はどうするんだ」

「その仕事がノアズアークの捜索と壊滅、そして呪詛の鐘捜索及び破壊だ。この中で一番接点が強そうなお前達のサポートは仕事に入ると思うが?」

「う!? だったら…」


 頭の中で必死に反論材料を絞り出そうとするが、これといった反論要素が見つからない。


「それに……子供達だけで危険な場所に連れていけば私の誇りが傷つく。世の為人の為だ。子供は国の宝だ。お前達が成長し私達の意思を受け継いでいってくれればいいんだ。お前達を守る事が軍人の役目だ」

「軍人の役目は戦うことは無いの?」

「一番は守る事だ。守る為に戦うんだ」


 反論できる材料何てどこにも見つからなかったんだ。

 そうだ………こう言う所が苦手だったんだ。



 ガーランドが参加することになった際に、俺は昨日家から取ってきた海の昔の写真を見せた。


「確かに似ているな……特にこの一番古い写真は似ている」

「やっぱりそうですか。アベルさんは「知らない」の一点張りで」


 ジュリがため息交じりに言っているが、本当になんの役にも立たない人だった。


「あいつは俺の子供が生まれていた時期は丁度荒れていた時期だからな。だから知らなかったんだろう」

「そういえば十六年前の事件の後だったんでしたね」

「そうだ。一番上の娘が私を嫌うようになったのもそのころからだな」


 大方父親が弟の危篤時に変えてこなかったからというのが理由なのだろうが、確かにあまり褒められた理由じゃあない。

 戦時下中でも帝国政府は最前線に向かい兵士に、家族が危篤中は休暇が取れていただろう。


「お前達……この話は私達の中で秘密にしておいて欲しい」

「わ、分かりました」

「取り敢えず彼女から聞いた目的地まで急いで移動することにしようか」


 現在俺達は病院から離れてイリーナが告げた俺や奈美が幼い頃に遊び場にしていた場所へと向かっていた。

 俺はどうも気に食わなかった。

 俺達と一緒に移動するぐらいならそれ以外の生徒のサポートでもすればいいのにと思ってしまうが、奈美を含めて俺とエアロード以外は賛同の意思を示しているので反論しがたい。


「ソラ。お前があの男を嫌がっている理由がなんとなくわかった気がするな。あの男はお前にそっくりだ」

「似てないぞ。全然違うじゃないか」

「そう言う事じゃない。気持ちというか精神的な事だ。同族嫌悪というのだったか? お前の母親がそう言っていただろう? お前は近いんだと思うぞ。馬鹿な私でもよく分かる。誰かの為に尽くしたいと思うお前の理想に近い。お前………「()()()()」と思っているんじゃないのか?」


 何故だろう。

 エアロードに言われた「勝てない」という言葉が俺の心に深く突き刺さり、動揺で俺は言葉を失ったような状況に陥ってしまう。


「お前は勝てない。お前はそんなあの男に憧れたのではないのか? 勝てないと初めて悟った相手だからこそ、お前はあの男から距離を置くんだ。お前はあの男を直視すれば勝てないという真実を突きつけられるから」


 そうなのだろうか?

 俺は心の中でそんな事を考えていたのだろうか?

 本当の所で俺にはよく分からなかった。


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