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帰郷 8

 母さんとマリアのいる実家まで帰ってくると、縁側でエアロードが緊張感を無くす感じでお菓子を貪っており、それを皆で残念な表情で見守る。

 母さんは父さんが付いて来ていない事に疑問を抱いたが、俺が「仕事で向こうにいる」とだけ言うと納得した。

 道のりの途中で俺は奈美に三年間の事を、奈美はああなった理由を教えてくれたの間ではよかったが、イリーナは父さんが一旦預かる事になったと知ったあたりで奈美の機嫌は悪くなる。

 面倒なので適当に流しておき、帰ってきてからは取り敢えずガイノス軍の人達がやってくるまで家の前で待機し、そのままホテルまで帰る事になった

 家に一人で置いて帰れば奈美が余計な事しかしない気がしたし、今回の一件で奈美が襲われる可能性が浮上した以上はホテルで匿う必要がある。

 という理由で俺は中庭から縁側に向かう途中で吠える声が鼓膜を振動し、横から決められるタックルを回避した。


「ゴン。お前な………学習能力の無い」


 袴着家の飼い犬であるゴンは三年ぶりの再会にタックルで決めてくれるのだが、それ以上に俺は心の中で「またか」と思わせてくれた。

 というのもハウスから出てきたのなら右からではなく、左側から来るべきであるし、体中には草木が体中にくっついている。


「お前………リードを外して裏山まで遊びに行っていたな?」


 ゴンは首輪につけている紐を外す癖がある。

 それも器用に前足を使って外すのだが、下手をすると散歩の途中でも外して逃げ出そうとする。

 そして勝手に帰ってくるのだからたまらない。

 何度母さんが保健所に連絡を取って来たのか。


「ソラ君の家のペット?」


 そう言いながら柴犬であるゴンの毛並みを片手で味わいながら楽しそうに撫でるジュリ、母さんが微笑みながら怒りを現し、ゴンはそんな母さんの表情を見たのか怯えた様子で黙って座り始めた。

 そして、ついでに怒られた奈美もその隣で座り始める。


 俺達は行ったん無視して、冷蔵庫から適当なアイスとお菓子棚から新しいお菓子をみんなにふるまう。

 そんな中マリアが大きなため息を吐き出した。


「全くお主らは。行く先にこんなトラブルに見舞われておるのかの?」

「大体こんな感じだ。でも、あの連中一体なにもなんだろうな? 父さんは知っているのか…、マリアは知っていたのか? この国にいるテロリストの存在」

「それも今日の夕方に報告を受けるはずじゃが、おそらくお主らが戦った相手は『ノアズアーク』と呼ばれるテロリストじゃろうて。ここ三年で恐ろしい速度で勢力を拡大しており、各国政府が『ミュータント』と呼ばれている特殊な力を持っておる人間を集めているのが特徴じゃ」

「要するに異能持ちが集まっているわけだ。でも、それこそ政府がきちんと管理しておけばいい事だろうに」

「異世界の存在自体政府が正式に認めたのも最近じゃ、それ故に三年間ミュータントの存在も隠されてきた。中には非合法で非情な実験もあったと聞いておる。それ故にミュータントは政府を恨む傾向が強い」

「そう言った連中がノアズアークみたいな組織に集まっているってわけだ。なら日本政府の狙いはガイノス帝国にノアズアークの相手をさせることか……」


 いい加減ガイノス帝国はキレてもいいと思う。

 日本政府もそうだが、いい加減西暦世界の各国政府は一回滅びる程度がちょうどいいのかもしれない気がする。


「めったな事言わないでね? ちょっと怖いよ」


 ジュリから突っ込まれてしまう。

 まあ、少し不謹慎だったかもしれないが、少なくとも三年前のバス事件に日本政府が関わっているはずなのだ。

 ゲートはどちらかから開ける必要があるが、この場合日本側から開けなければ向こう側に辿り着けない。

 間違いなくこっち側に工作員がいるのは間違いない話だし、そういう意味ではもしかしたら俺は日本という国を疑っているのかもしれない。


「エアロードは随分大人しい………? 一人増えてる?」


 俺の一声にレクターとマリアとジュリが一斉にエアロードの方へと向くと、そこにはエアロードとそっくりの黒い竜がエアロードとお菓子の取り合いをしている。

 ポテトチップスを袋ごと奪い合いをしており、俺達は見慣れぬ竜に目をパチクリさせていた。


「シャドウバイヤ! 貴様突然影から現れたかと思えば、いきなり私のお菓子を奪うんじゃない」

「お前のお菓子では無いだろう。それにお前より早くこの家にきているのだ」

「そうだとしてもお前がこのお菓子の所有権を奪う事などありえない!」


 どうやら黒い竜は『シャドウバイヤ』というらしく、どこに隠れていたのか突然現れてエアロードが食べていたお菓子を横取りしている最中らしい。



「私はシャドウバイヤだ。お前がソラだな。聖竜から情報共有をしている身だ。お前と逢うのは初めましてだな」

「ああ、少なくとも三年間で出会ったことはまるでない」

「今はこの家に居候させてもらっている。お前達が一旦家から出るのなら私も出る事にしよう。暇だからこの世界にいるだけだしな」


 エアロードが小声で「暇なら帰ればいいだろう」と呟いていたが、その全てを無視してシャドウバイヤはポテトチップスを口の中に放り込む。


 ガイノス帝国軍の人達を目的の場所までおおよその道案内をし、その後皆と一緒に一旦ホテルまで帰宅する頃には夕方になっていた。

 食堂に集められた生徒一同はその場で『ノアズアーク』の存在を聞かされたが、俺とレクターが先に交戦しているという情報は流石に伏せられる。


 その後夕食は各自調達が言い渡されたので俺達は駅前から出ていって、商店街にある

和食を提供する食事処へと六人で入っていった。

 六人とは俺、ジュリ、奈美、レクター、エアロードとシャドウバイヤの六人。

 父さんは軍の仕事、母さんはご近所さんに電話をしたりホテルのお手伝い、マリアは教職員の仕事をしており、この六人で食事の席を取る事になった。


「天ぷらざるそばセットを六個」


 簡単に注文しつつ、俺とレクターで季節外れのおでんを取りに行く。

 というのもここに入った時からおでんがお店の真ん中に置かれており、レクター達の興味を引いていた。

 奈美はすっかりジュリに懐いており、今では『ジュリお姉ちゃん』と甘えている。


「そういえば奈美、聞いておきたいことがあったんだ。お前が知る限りで良いから中学閉校の理由みたいな話を教えてくれないか?」

「え? うん。でも私も万理お姉ちゃんから聞いた話だし、万理お姉ちゃんは当時お母さんが病死したり、お祖母ちゃんとお祖父ちゃんに引き取ってもらうのに忙しかったから間接にしか知らないはずだよ」

「それでもいいんだ」

「うん。えっと………最初はお兄ちゃん達が居なくなっても授業は普通に行われていたはずだよ。万理お姉ちゃんも少し落ち込み気味だったけどそれでも通えていたもん。でも、夏休みの中かな? 夏休み前かな? 警察がやってきてバス事故には学生が関わっているんじゃないかって捜査が始まったんだけど、その一か月後ぐらいに一人の学生が自殺したの。なんでも虐められていたみたいで、そこから誰が虐めたのかって疑心暗鬼や、この中にバス事故を起こした犯人がいるって疑い始めたみたいですごいギクシャクしていたみたいだよ」


 まあ、そういう状況だと分からないでもないが、そこからどうやって集団自殺みたいな状態にたどり着いたのかが分からなかった。


「警察が調べるとドンドン自殺する生徒が増えたり、その内虐めていた主犯の生徒すら自殺しちゃって、多分夏休み後だったはずだけど、同学年の全校生徒が集め荒れて集団裁判みたいなことをしたみたい。それで………」


 奈美が物凄く言いずらそうにしている。

 その内決心を固めたのか意を決したかのように口を開いた。


「………裁判に参加していた生徒の殆どが遺体で発見されたの。唯一生き残ったのは当時体調不良で病院に入院していた万理お姉ちゃんと、裁判に参加していた『王島聡』って人だけ。それ以外は皆………」


 当時裁判で何があったのか、それがどんな決着を迎えたのか俺は気になりながらも食事をする意欲すら無くなっていた。


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