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帰郷 4

 昼食を済ませて教師陣から『呪詛の鐘』と呼ばれる呪術の存在と、その捜索を命じられた士官学生は各々好きな班編成を組むようにと半分投げ出される。

 その会話の最中に後ろで書類仕事をしていた父さんがこれでもかと物欲しそうな目で見てくるし、それが鬱陶しいと思っていたら母さんが現れて興奮するしで忙しい。

 結局慣れたレクターとジュリの三人で組むことにしたまではいいが、そこにマリアが参加することになるとは思わなかった。

 こういう場所でもウルベクト家を支える事が彼女の仕事らしいので無視はできないし、と考えていると父さんが参加したいと鬱陶しかったりする。

 父さんが折れないので部下の人が折れて終了すると、母さんまで参加するというからこれまた面倒。

 結果からすると大人数での行動になってしまった。


「なんでこんなことに?」

「お前の父親が悪いのではないのか? さっきから鬱陶しかったぞ。全く三年前に会った時はあんな男だとは思わなかった」

「ギャップあるだろ。なれると鬱陶しいと感じるだけで終わるよ。エアロードも一緒に暮らすことになるんだからそのうち慣れる」

「慣れたくない」


 エアロードと二人でそんなやり取りをしながら皆の準備を待っていると、エレベーターからレクターが降りてきた。


「何を取りに行ったんだ?」

「武器! ソラと違って体内に収納できないから……」

「その言い分だと誤解されるからやめてくれ。粒子状になっているだけだから、俺の体内に収納されているわけじゃない」

「? それで言うとどこでも姿を現すことができるわけじゃないの?」

「別段体内に収納していたとしてもどこでも出せるわけじゃないけどな。まあ、逆に言うと竜の欠片の特性上『特殊な力が効かない』からそういう阻害は受けないけどな」


 エアロードが俺の頭の上で大きな欠伸を掻き、その後にジュリと合流する。


「ジュリは呪詛の鐘については知っているのか?」

「うん。でも参考資料程度の知識だよ。確かその鐘の音を聞いてしまった他人を強制的に命令できる力だとか。でも、強靭な精神力を持つ人間には聞きずらいって書いてあったよ」

「どの程度か気になるよな? それって学生だけで捜索しても大乗なのかって疑問だけど」

「ソラ君がいるから大丈夫だって踏んだんじゃない」


 随分と期待されたものだな。

 その辺の士官学生にそんな期待をされても困る。


「父さんにでもやらせろよ。あれでも異能の耐性はある程度はあるはずだろ?」

「でも……ソラ君ほどじゃないし」

「ていうかアベルさんって幼いから意外と引っ掛かるんじゃない?」


 レクターからそう言われてしまうと反論する術がない。

 確かに変な所で幼いので意外と簡単に洗脳されそうな気がする。


「そういうのはガーランドさんの方が意外としっかりしているよね! 俺の憧れだな」

「あの人のどの辺に憧れる要素があるのかが分からないけれど。まあ、確かに強靭な精神力って言われると確かにそういうイメージがあるな」

「? そう言う事が分かるんならガーランドさんの憧れる場所も分かるんじゃない?」


 ジュリからそう言われるとふと考え込んでしまう。

 そういえばなんでだ?

 でもなんとなくあの人嫌いなんだよな……いや違うな嫌いなんじゃない苦手なんだ。


「苦手なんだよな。でもそう言われてしまうとなんでなんだろうな」

「? 昔崖に落とされそうになったからじゃないの?」

「そうなんだけど……今思うとそこまであの時の事を気にしているわけじゃないし……なんでだろう」


 はっきり聞かれると困る話だ。

 でも俺はあの人が気に入らないのは確かだ。

 どこか苦手で………まるでこの感情は……?


「ソラ君は嫉妬をしているの?」

「え? 俺があの人に? どの部分に嫉妬を?」

「なんていうか、ソラ君とガーランドさんってなんかこう……似ているんだよね。そんな嫌そうな顔しなくても。外見とかの話じゃなくて、こう気持ちの問題というか」


 歯切れの悪いジュリに俺は首を傾げてみる。

 しかし、答える前に父さんと母さんとマリアが降りてきた。

 メンバーが揃った所で街中へとかり出す中、俺は父さんに「俺とガーランドって似てる?」と尋ねる。

 すると父さんはものすごい嫌そうな顔をしていた。

 多分さっきの俺が同じ顔だったに違いない。


「何故そのような話になったのじゃ?」

「それがジュリが気持ちみたいな面で似ているって」


 ジュリはさっきから心に抱く気持ちをどうやって言葉にするのかで悩んでいる。


「俺はジュリが言いたい事分かるよ。ソラとガーランドさんの似ている面。うわぁ……嫌そうな顔。しかも親子そろって」


 レクターですらそんな感想を抱くのか………何なんだろうか俺とガーランドの似ている面。

 俺と父さんはレクターを問い詰める。


「だってソラって誰かを助けようと必死になるでしょ? 時に自分の身を顧みないし」

「失敬な! 否定しないけれど」

「そこだって。ガーランドさんもそういう部分があるし、気持ちというか誇りというかそういう部分が似ているんだって!」


 ううむ。

 否定しずらい部分があるが、俺にはそういう部分が想像できない。

 なんて考えていると母さんが俺と父さんにとどめを刺した。


「ならソラがその人を嫌がっている理由は同族嫌悪ね」


 俺と父さんが固まってしまい、他の皆が納得したみたいな表情をしている。


「その人に興味があるわ。写真ってないのかしら?」

「ありますよ。えっと……この人です」

「うむ。儂も見るのは初めてじゃの」


 女性陣だけで盛り上がっており、レクターとエアロードに関しては俺の頭の上でお菓子の取り合いをしてる真っ最中。

 しかし、母さんだけはその写真を見てふと思案顔をする。


「海君のご両親にそっくりね」

「ああ、そういうと海の両親の写真を見た事があるけど……でも痩せてなかった?」

「病気だったからよ。でも、昔はお父さんと一緒に剣道場に通っていたのよ。病気で亡くなるまで私は良く通っていたわ」


 今の海の両親が酷いって印象だから特にそう思うのかもしれないが、どうにも酷いというイメージ。


「ソラは今のご両親のイメージが強いからそう思うだけじゃないかしら?」

「そうかもしれないけど」


 この辺は二人だけの会話だ。

 しかし、こうなると海とガーランドに繋がりがあるかもしれないという想像が出てきた。


「ねえ父さん。海の写真をあとで渡すからガーランドに渡してみてくれない? って父さんは?」

「アベルさんならあそこで呆けているけど? ソラ君がお母様と会話しているときもずっと呆けていたよ」

「復活しろ!」

「あら? ソラ。私海君の写真持ち歩いていないけど、あなた今持っているの?」

「え? 母さん持ってないの?」

「どうして私が海君の写真を常に持ち歩いていないといけないのかしら?」


 そう言われると反論の余地はない。


「家にあるかな?」

「あるわよ。前に奈美が剣道の試合に言った時に海君が表彰状を持った姿を撮ったとおもうし」

「え? 海って大会で優勝したのか? 全国?」

「県大会よ。全国は一回戦で敗退したのよ。調子も悪かったみたいだし」


 海は精神的な問題で体調が変動するので恐らく両親から何か嫌な目にあったのかもしれない。

 しかし、県大会優勝か。

 随分成長したみたいだな。


「高校もいい所から推薦が来ているんじゃない?」

「いいえ、あの子その辺は迷っているみたいよ。奈美や万理ちゃんと離れ離れになるのが辛いって思っているみたいだし、今の剣道場だって気に入っているみたいだしね。でもご両親とは離れて暮らしたって思っているみたいだし」

「まあ両親と離れて暮らすなら他県に行くぐらいしないと無理だな」


 海とガーランドが世界は挟んだ実の親子……可能性だけならないわけじゃない。よく考えたらガーランドと父さんに繋がりがあるのなら、こっちの父さんも同じような繋がりがあると考えた方が良いだろうし。

 どのみちこれも俺が仲裁をしなくてはいけない話なのかもしれなかった。


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