大学攻防戦 3
倉庫エリアの中へ入っていく為に排気口の出入り口は小さな排気口、その排気口に入るにあたりミニスカートのケビンさんを前に突き出すわけにはいかない。
そういうわけで俺はエアロードを前面に押し出し、真ん中に俺でその後ろにケビンさんを引き連れながら小さく屈みながら進むことにした。
「何故私が前なのだ?お前が最前線を進めばよかろうに」
「細かい事を気にするな。最前線を歩くのは一番小柄なお前の役目だろうに」
「ちょっと待て。それを言い出したら私の本当の大きさになったらお前が一番小さい事になるだろうに」
「今………俺の事をなんて言った?」
俺の前を歩いて進むエアロードに向かってドスの聞いた目をエアロードに向けるが、エアロードは突然震え始める。
きっとこの排気口が寒いのだろう。
「さて……さっさと前に進むとするか」
素直に前に進んで行くと排気口の出入り口が光と共に見えてきた。
どうやら出入り口である排気口の小さな柵、その柵から薄暗い廊下とその薄暗さを紛らわせるには少々足りない電気の光が視界に入ってくる。
少々の眩しさが俺の視界が明るく照らされ、廊下が確かに誰もいない廊下がそこに姿を現した。
「誰もいないようだな。エアロード、左右に伸びている廊下の先に人はいるのか?」
「いや、誰もいない。ふむ………この階層には人はいないようだな」
「おそらく拉致をするメンバーをギリギリまで絞っているのでしょう。倉庫エリアと言っても誰もこないわけでは無いでしょう?」
「そうだな。だからこそギリギリまで人数を絞る必要がある。問題はこの倉庫エリアのどこにいるのかという事です」
エアロードが先に廊下に、その後に俺とケビンさんが飛び降りて廊下に身を出す。
俺とケビンさんが左右に体を向け、警戒心を最大まで高めて神経を研ぎ澄ますのだが、確かにエアロード言う通りこの場所には誰もいないようだ。
「ここは倉庫エリアの廊下のようですね。上階か下階のどちらかでしょう」
「エアロード。上の階に人はいるのか?」
「いいや。下の階になら人は多数いるようだな。多分ジェノバとかいう博士も下の階だろう」
「なら下の階へと向かうための階段を捜しましょう」
そう言って左に歩き出すケビンの右腕を俺は掴んで一旦引き留める。
「何故引き留めるんですか?」
「適当に探していたら時間が掛かり過ぎるだろ?エアロードなら下の階への道を風の流れで下の階への道が分かる」
そう言いながら俺はケビンさんの右腕を掴みながらエアロードの進む先へと進んで行く。
エアロードの案内先へと歩く為に右足を前に踏み出した。
「………分かりました。取り敢えずその腕を話してくれませんか?」
「済まない」
白銀の髪をジッと見つめていると俺はどうしてもあの秘書を思い出す。
「なあ、あの外相と一緒に歩いていた秘書とケビンさんの髪の色が全く同じですけど。あの人は?」
「多分この世界の私の親類に当たるのでしょう。顔立ちが違いますから………」
俺は「そうか……」とだけ言ってケビンさんの右腕をそっと放す。
後ろを振り返り、右側の廊下をそっと見つめる。
後ろからつけられているような気がするのだが、しかし後ろには誰にもいない。
「どうしましたか?」
「いや………何でもない」
外相は非常に苛立っていた。
総理から与えられた依頼はこの大学内に保管されている『ある島』に関する記述を抹消する事、その役目を秘書に与えたいたのだが、先ほどから秘書が姿を消したまま一時間以上が経過している。
そんな中、外相は理事長室でコーヒーを飲みながら苛立ちをマグカップにぶつけようとしていた。
目の前にいる理事長は額に汗を滲ませ、スーツのボタンがはち切れそうなほど大きな腹を前面に押し出しながら対面のソファに腰を掛けている。
額の汗を灰色のハンカチで拭いながら苛立ちを向けられたことへの焦りしか感じていない。
「それで?資料室の資料は全部消滅させたんだろうな?総理はあの資料が奴らの手に渡る事だけは避けたがっていたぞ」
「も、もちろんですよ。総理の言いつけ通り、あの島に関する資料は完全に抹消する為今懸命に作業にかかっております」
「今だと!? 指示があったのは一週間前だぞ!この街には『星屑の英雄』いたんだ!もし……!もしあの男の手にでも資料が渡れば!!」
「わ、分かっております!ですから……!」
「それに!この街には……あの『英雄』までが」
外相の表情が大きく歪み、震えている両手を必死で収める。
「クソ!なんで私だけがこんな貧乏くじばかり!!」
苛立ちを目の前の長テーブルにぶつけ、その反動で理事長は大きく怯えを見せる。
「だ、大丈夫ですよ。全部うまくいきます」
「フン。だと良いがな………」
腕を組んでソファにどっしり腰を落とし、理事長は安心顔で取り敢えずため息を吐く。
理事長の指示通り資料室のデータの抹消をしているのはこの大学の教師の一人だった。
資料室にある『ある島』に関する記述を探し出し、それを机の上に一つずつ置いてはまた探し出すという作業をひたすら繰り返している。
「全く、なんで私がこんな作業をしなければいけないんだ」
ブツクサと文句を言いながら資料を探し出し、資料の1つに手を伸ばした瞬間の事である。
真っ赤な髪をなびかせる一人の男性が教師の探していた資料を掴んでいた。
「やっぱりあの外相は『ドラファルト島』の資料を抹消しようとしていたのか」
「き、君!どうやってこの場所に入ったんだ?」
真っ赤な髪の男は腰に差している剣を抜き出し、教師の腹目掛けて思いっきり剣を刺す。
教師の目が大きく開き、腹に突き刺さった剣には男の血が流れ出る。
真っ赤な男は腹に突き刺した剣を抜き取り、血を周囲にまき散らしながら剣から血を吹き飛ばす。
資料室の本棚や白い壁に血がまき散らされ、赤髪の男は鋭い目つきで目の前に溜まっている資料を腰のポケットの中に入れる。
「この資料室で最後だ。せっかく星屑の英雄を倉庫フロアに追いやっているんだ。今のうちにやるべきことをやっておかないとな」
一緒に持ってきた手持ち型の皮で出来た鞄、その鍵を開けて中を開く。
アメリカ合衆国から入手したプラスチック爆弾の起爆装置を操作しながら、赤髪の男性は腕時計を確認しながら携帯から掛かってくる着信を待っていた。
「時間が掛かっているのかな?あの外相が逃げる前にこちらから仕掛けたいんだけど……」
腕時計を確認しながらテーブルに腰掛けて携帯を確認しているが、携帯の画面に『ファード』と書かれた名前で着信で掛かってきた。
「どうした?まだ爆弾を起動しないのか?」
「それが問題発生だ。星屑の英雄を付けていたメメが見つかったそうだ。どうする?作戦を引き延ばすか?」
「いや駄目だ。今ここで奴を殺さなければあの男がいつ表舞台に姿を現すのか分からないだろ。せっかく奴がここに来ると分かったんだ。資料を手に入れただけでは効果が薄いんだ!どうせ奴の事だどこかに逃げるだけだ」
「ではどうする?作戦を今直ぐ開始するか?」
「いや……少し様子を見る。ジェノバがどう出るのかが気になる。あのジェノバ博士と少し交渉をしてみたいしな」
「分かった。ジェノバ博士の安否が確認できたらそっちに連絡を入れる。では……ギル」
ギルと呼ばれた赤髪の男は爆弾の起爆ボタンを握りしめながら資料室から出ていき、資料室に鍵をかけて一旦資料室から逃げ出す。
誰にも見つからないようにその場から立ち去り、染みが付いている白い廊下を歩いて一分の場所にある外へのドアを潜る。