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摩天楼の戦い 3

 俺が剣でファンドの胴体は切断しようと全身の力を絞り出していると、剣先に何か堅い物が引っかかる感触を得た。

 引っ掛かる感触とほぼ同時にファンドが大きな悲鳴な咆哮をあげ、俺を引きはがそうと抵抗を始める。

 それを阻止しようとサクトさんやデリアさんやレクターが四方から一斉攻撃を始めるが、それを振り払うように上空へと飛翔していった。

 俺はそれから離すまいと胴体に突き刺さった緑星剣から手を離さないが、緑星剣がグラグラし始め、俺自身も落ちそうになる。

 最後にファンドは上空で立ち止まり俺の体を振り払う。


 ここまで追い詰めたのにという悔しい想いで目の前にいるファンドに睨みつけるが、ファンドはそんな事とはお構いなしに俺の方へと突っ込んで来ようとする。

 俺は何とか回避しようと試みるが、それを先回りで読み切ったファンド。

 剣で攻撃を受け切れるかと心配していると、それ以上の速さで俺の体が『何か』によって連れ去られてしまう。


「久しいな少年」

「ふ、風竜? どうしてここに?」

「聖竜から事前の情報共有が有ったのでな。さてはて……木竜が復活していたと聞いていたが、まだ五割と言った所か」


 木竜という聞きなれない竜の名前が今のファンドなのだと理解はできたが、同時になんでここにいるのかという疑問に答えてもらっていない気がする。

 そういえば前に機竜から風竜は馬鹿だと聞いた気がするので、説明が出来ないのだと理解することにした。


「五割……? まだここから強くなるのか?」

「完全体になると流石に私でも勝ち目はないぞ。しかし、ここで勝つ為にはお前が核を破壊する必要がある」

「核………さっき引っ掛かった堅い奴か。でも再生力が高すぎて切り裂こうと思うと結構苦戦するんだ。連続攻撃で削り切れば何とか行けるかもしれないけど……その間に抵抗されたら意味が無いし」

「なら一つだけ方法がある」


 風竜からコソコソとアイディアが俺の元へとやってくるが、俺としてはやったことの無い戦闘方法なので心配だ。


「大丈夫なのか?」

「私が戦闘に参加するからそこは心配するな。問題は作戦の要はお前という事だ、お前が失敗すれば全てが終わるんだぞ」

「そこはうまくやって見せるさ」


 風竜は木竜からの攻撃を掻い潜りそのまま下まで落下していった。



 レクターやジュリ達は上へと消えていったソラを心配したが、予想以上の存在が揉みくちゃの状態で落ちてきた。


「ソラが竜になった!?」


 斜め上の解釈をするレクターに他全員が唖然とするが、それを一括で無視してジュリが叫んだ。


「エアロードさん! ソラ君は?」

「今上で待機している。お前達とにかくこの木竜を抑えて欲しい。一番の隙を作ってそこをソラが一気に叩く」


 エアロードが両手に風の塊を想像し、そこから斬撃という形で木竜に放つと、それを木竜は羽で受け止めるが羽が切断されてしまう。

 攻撃力なら他の竜に負ける事は決してない風竜エアロード、羽が切れて浮遊しきれない木竜を真上からレクターが五連撃の打撃攻撃を叩きつけ地面まで落下させる。

 木竜が咆哮を上げながらレクターを睨みつけ、羽を再生させてレクターに襲い掛かり、エアロードは両手に風の剣を想像して木竜に切りつける。


「一撃! 黎明牙突(れいめいがとつ)!」


 サクトが全身に気合を入れた状態で左側から攻撃を叩きつけると、レイピアとは思えない様な衝撃音が響き渡り、木竜の左側にクレーターが出来る。

 正確には出来たように見えるほどの衝撃が一撃で、かつ一瞬で襲い掛かる。


 そこから負けじとデリアがハルバートを振り回しながらビルの間を何度も跳躍し、そこから複数箇所にほぼ同時一撃攻撃を叩き込む。


「ヘルモード……砂激地獄(さげきじごく)!」


 木竜がさらに悲鳴を上げ、その状態でレクターが一番重たい一撃を下から顎目掛けてアッパーを決め、エアロードは風の槍で木竜を拘束する。


「今だソラ!」


 ソラが真上からものすごい速度で落ちてくる。



「ラウンズ! コンビネーションアタック!」


 三十九の騎士人形を召喚し、木竜目掛けて一気に突っ込んでいくが木竜は口を大きく開けて俺めがけてブレスをお見舞いしようとする。

 避けている暇は無いし、そんな事をしているともうチャンスはやってこないだろう。


「ソラ君! そのまま突っ込んで!」


 ジュリの声がはっきりと俺の耳に届き、信頼してそのまま防ぐこともせず一気に突っ込む。

 すると木竜は口をパクパクさせ始める。


 呼吸が出来ていないんだ。

 ジュリ、レクター、サクトさん、デリアさん、エアロード、父さん、ガーランド。

 皆が居たからこの一撃を放つことが出来るんだ。


「俺達の全て……ここに来た理由をこの一撃に掛ける!!」


 連続三十九連撃を叩き込み、俺は最後の一撃を突っ込む際視界に確かに写った小さな植物の種を捕らえた。

 小さな種に今までで最大の一撃を叩き込んだ。

 種に刺さりそうなギリギリの所で俺は体重と重力を活用して叩き込もうとする。

 こうしている間も再生しようとしており、三十九の騎士人形が妨害していき、俺は咆哮を上げて名一杯力を込めて剣を深く突き刺す。


 カリンという音と共に種が真っ二つになるのだが、空間全てにまばゆい光が包んでいった。



 ここはどこだろう?

 色とりどりの花畑と古い建物が目立つ街並み、人口は少なく恐らくどれだけ頑張っても百人いくか行かないかの人口だろう。


 なんというかここが帝国領土なのだといわれたら信じられない様な思いである。

 しかし、雰囲気がなんとなく故郷に似ているような気がするが、それはこの寂しさがそうさせるのだろうか?


「ファンド? 本当に帝都に行くのかい?」


 ファンドという名前で俺は振り返ると、そこには一人の老婆と俺より年下の少年が歩いていた風景がある。


「うん。祖母ちゃんには悪いけどやっぱり帝国国民としては軍人を目指したいんだ」

「だけどねぇ……帝都は辺境出身者を疎むって聞いたよ」

「だからこそだよ。俺達みたいな辺境出身者でもやれるって戦場で証明して見せるんだ」


 まるでやる気に満ち溢れ、活力とこれから広がる新しい世界に希望を見出しているかのような瞳が特徴の少年と、そんな少年を心配しているお婆さん。


「嫌になったら帰ってくるんだよ」

「大丈夫だって。お祖母ちゃんは心配性だな………見ててよ! 俺が新聞のトップを飾って見せる! そうすれば祖母ちゃんだって俺の事を誇らしくなるよ!」

「そうかい? じゃあ期待しているね」


 その優しい微笑み。

 しかし、場面は一転し帝都の街並みが見えるマンションの一室、新聞には『ガイノス帝国三将またしても戦場に勝利を呼び込む』と大々的に書かれている。


「クソ! また三将……俺の方が年上なのに、俺だって戦果を示しているのに………何で認められないんだ?」


 ファンドの悔しそうな表情と自らの士官服を破りそうな怒り。


「ファンド! 俺達の故郷が共和国の焼き討ちにあったと!」


 またしても場面が変わり、今度はファンドの故郷が映し出される………燃え盛り焼け落ちそうになっている故郷と、共和国兵の遺体が握りしめている一つの鐘。


「………何で近くのガイノス軍は動いてくれないんだ? そんなに辺境の地に生きる者達はどうでもいいのか? そんなに首都に生まれる事が大事なのかぁ!?」


 怒りと憎しみを顔全体で現し、雄たけびを上げながら呪詛の鐘を握りしめる。


「祖母ちゃん……俺は変えてみせるよ!」


 間違っている。

 ファンドのお婆さんは決してそんな事を願っていたわけじゃない。

 誇らしい孫で会って欲しかったんだ。

 決してガイノス軍が動かなかったわけじゃないだろう。

 戦時下中でほぼ全ての軍は最前線に送り込まれていたはずだし、もし民間人が被害に遭っていたのなら一番にガーランドが駆け付けたのではないのか?


「共和国も………帝国も俺がのっとって見せる。そうすれば祖母ちゃんも苦しまなくて済むんだ!」


「そんなの間違っている!」


 つい叫んでいた。


「お前は間違っている。お前は戦果を重要視し、お婆さんに自分の戦果を示そうとしたんだろ? でもお婆さんはお前の心配をしていたはずだ! お前がそんな風に誰かを恨み、誰かに憎しみを向けるような人生を望んでいないはずだ!」

「うるさい! お祖母ちゃんを救えなかった国に興味なんて無いんだ! お祖母ちゃんを苦しめた共和国何て滅びれば良いんだ!」


「駄目だよ……ファンド」


 優しい微笑みと共にお婆さんはファンドの目の前に現れ、ゆっくりとファンドに近づいていく。


「嬉しかったんだよ。小さな記事だったけどあんたが元気にやっていてくれたことが。頑張ったね。私に安心させてくれようと思ったんだろ?」

「お、お祖母ちゃん………」

「もういいんだよ。誰も恨まなくて、誰も憎まなくていいんだ。私はそんな事をお前に望んでいないよ」

「いいの? 俺は……この国を許しても」

「良いんだよ。頑張ったね。こっちおいで…………」

「お祖母ちゃん!! ごめんよ! 救いに行けなくてごめんなさい!」

「良いんだ。良いんだよ………ありがとね。ほんとに……強くなったね」


 二人は抱き合いながら光の粒子になって消えていき、そこには小さな種だけが残った。


「「ありがとう……」」


 二人の感謝の言葉が俺の心に突き抜けていき、俺はその種を緑星剣で真っ二つにする。

 空間が淡い光で包まれていった。


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