大学攻防戦 2
ジェノバ博士がどこかに隔離されており、最悪殺される危機に陥っている事は最悪の事態であるとして、しかしその情報を事前に得ることが出来たのは幸運だったといえるだろう。
この場合、博士がどこに隔離されてその居場所をどうやって絞り込むのかであるが。
残念であるが俺達はただの学生、戦闘のプロフェッショナルではあっても、捜査のプロではない。
しかし、警察が入りこめば間違いなく相手は博士を殺して証拠隠滅を図ろうとする。
結局の所で大学内に隠されていると進言したのはアメリカのエージェントであるケビンさんだったりする。
「大学内であると断定できます。この海都オーフェンスは水路と陸路で構成されており、町の中心部である場所は車での移動は禁止です。ですので荷物を移動させる際もそのほとんどが船での移動手段になります。しかし、ガイノス帝国軍の巡回が強まっている現在船で拉致するのは現実的ではありません」
ケビンさんはそう断言するのだが、俺達としては素直に話を聞くしかない。話を聞いてから行動する手順を考える。
ジェノバ博士が管理している水生動物の飼育場奥。
ジェノバ博士の机の前で話し合う事になったわけだ。
「歩きで拉致できる範囲には限りがあり、大学構内から出るためには警備員が管理している正門を通るしかありません。その上大学内に席を置く者は誰でもIDカードが発行されているそうです。このIDカード、私達のようなゲストにも仮のIDカードが配布されています」
そう言いながら俺達はお互いにぶら下げているネームカードを見る。
このネームカードには恐らく大学内でのGPS機能を持っているのだろうし、最低限の居場所はこれで把握できるのだろう。
「しかし、このシステムは常に発揮されているわけでは無いでしょう。恐らく非常事態だと判断された際に使われるシステム。出なければ警備員を買収する必要が出てきます。しかし、もし警備員を買収したのなら私達が入場した時点で手が打たれていたはず。なのにもかかわらず私達は問題なく大学内に入れた。これは、警備員を買収していないという結果といえます」
そうだろう。
しかし、ここで俺達が警備員に非常事態だからと問いただせば最悪警備員どころか多くの大学生や教職員が無くなる可能性すら出来るわけだ。
「ええ、ですので私達は独自に動きジェノバ博士を救出する必要性があります。しかし、犯人が大学構内にいると仮定するとしてこの大学内はあまりにも広すぎる。ある程度探す際の範囲を絞る必要があるでしょう」
ジュリが紙で来た立体地図を机の上に広げ、俺達は立体地図を前に少しだけ黙り込んだ。
ケビンさんがまず大学の東部分を潰して見せた。
「ここは大学の資料室や理事長室など重要な部屋が集まっています。この場所は特にセキュリティが高くいくら金を詰まれようが死体が運ばれれば大学生や教師が目撃されれば最悪ガイノス兵に介入される事でしょう。それは最悪避けたいはずです。特に今回の一件が海洋同盟の外相が関わっているのなら」
それはそうだろう。ガイノス兵に言い訳をするにもまさか外相自らが他国で殺人を命令した何てどんな言い訳を用意しても不可能だろう。
このガイノス帝国はそんな優しい心の持ち主ではない。
最悪国内で起きた問題はいくら他国が関わろうが、自らの手で裁くというのがやり方である。
「となるなら比較的人が少ない場所を目指すはずですが、警備室のある南もあり得ないと踏むべきですね。となると西やこの北という事になります。しかし、ここまで私達は西を経緯して北へと辿り着きました。現在の居場所はおそらく北西と言ったあたりでしょう」
そう言いながら彼女は俺達の居場所を指で指す。
「今あの男は西区から東区の方へと移動して行きました。という事はジェノバ博士は西にいると想定した方が良いでしょう。そして、西で一番怪しい場所は……この倉庫フロアになりますね」
倉庫フロア。
二階建ての大規模フロア、横にも大きく下手をすれば東京ドームとほとんど同じ大きさを持っているようにも思える。
ここは先ほど通ってきた道には無かった場所だ。少し入り組んだ場所にあるこの場所は専用の船が出入りできるようになっている。恐らく遺体はその船から外に運び出し、適当な場所で放り出すつもりなのだろう。
「ええ、そう考えた方が妥当ですね。この場所は遺体を運び込むにも、怪しまれず仕事をこなすにも十分な場所になります。警備員が気づく前に我々も動くべきですが、最低でもここに人を一人置いておくべきでしょう。ここは仮にもジェノバ博士の研究室です。例の外相がここに戻ってきてもおかしくは無い」
「ならここは私はレクター君で守ります。ソラ君とケビンさんはジェノバ博士の救出へ向かってください」
若干レクターが文句がありそうな表情をしていたが、セキュリティの強い場所に俺やレクターは弱い。
それに外相がこの場所に姿を現せばジュリなら良い言い訳をしてくれるかもしれないし、レクターなら最悪武力で解決して逃げられるだろう。
「分かりました。ソラさん。あなたはどうですか?」
「俺も構わない。むしろ少数で動いた方が良い。賑やかなレクターが潜入には向かないしな」
再びレクターが不満げな表情をするのだが、どうやら話を半部ぐらいしか聞いていない今の自分が話介入しても反論できる自身が無いと踏んだんだろう。
潜入部隊が決定されると俺とケビンさんはこっそりと倉庫フロアへと向かうためにドアをゆっくり開けた。
バルバルの低いうねり声を上げている。
俺は今回星屑の鎧を使わない方針で行くことにした。
あれは戦闘には十分な戦力でも、潜入するには音が鳴って潜入にはまるで向いていない。
そう思った時、近接戦闘用の緑星剣だけでは不十分だと感じ、何か武器が無いのかと想像した時、ケビンさんがミニスカートの名から一丁の拳銃とマガジンを確認している姿を目撃したからだ。
王島聡を思い出した。
王島聡は剣と拳銃を装備して戦っていたはずだ。
お前を参考にするわけじゃないけれど、右手に緑星剣を左に魔導銃を創造する。
風を弾丸に変え、風邪の弾丸を射出するこの魔導銃。
俺達の目の前に大きな倉庫フロアが広がっており、その出入り口のすぐ横のコンテナ置き場に身を隠している。
さすがにこの大きな鉄のドアから入るほど馬鹿ではない。
監視カメラを避けながらここまで来たのだが、問題はここからである。
「ここから先は独自に隠しカメラや赤外線センサーなどがあるはずです。問題はどうやってここから先に進むのかという事です」
「表の出入り口はカメラと赤外線が設置されているし、他の出入り口があるかは今エアロードが確認している最中だ」
エアロードが少し前にこの周辺を調査している最中である。
「ここから少しコンテナの間を行く先に今は使われていない排気口がある事が分かった。先の方まで進んでみたが特に何もないことが分かった。コンテナを昇って降りてを繰り返した先にその排気口がある。人では簡単には見つからないだろう」
なるほど。確かにそんな複雑な場所にある様な場所にある排気口ならバレずに倉庫フロアの中へと入れそうだ。
「ではそこまで案内してください。出来るだけ迅速に動く必要があるでしょう」
「エアロード……案内を頼む」
俺たち二人はエアロードの後ろについて行く形でコンテナの隙間を更に奥へと進んで行く。
複雑に積まれたコンテナの上へと昇っていき、更に奥にある小さな隙間に落ちていく。
更にコンテナに隠れた小さな小さな通路が見えてくると、その奥へと更に足を進めていく。なるべく音を出さないようにしながら進んだ先にそれはあった。
確かに周囲をコンテナに隠された排気口であるが、この排気口がどうして今まで見つからないのかがよく分かる。
上にも下にも左右にもコンテナ隠れたこの場所は人目につかないにもほどがある。
「行こう……この先にジェノバ博士がいるはずだ」