表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
139/1088

真実 2

 レクター達は地下水道の中へと入っていき、薄暗い水道の中にある電灯をつける為に作業員が複数人掛で作業しており、レクターはそれを後ろから面白くなさそうな顔をしていた。

 デリア共々不完全燃焼であり、先ほどの黒帽子の少女と戦う事もできなければ、大して役にも立たなかったという感覚がレクターの不満を加速させた。

 戦いに対してストイックになるつもりも無いレクターであるが、それでも戦力としてついてきているのに何の役にも立てないというのは少しばかり不満である。

 デリアのように切り返しも良くないレクター、ソラのように魔導の才能があるわけでもないレクターにとって、武術の才能だけが全てだったからだ。

 幼い頃から決して裕福とは言えない家柄で、旧市街地で代々肉屋を経営している家柄であり、兄妹も多いという事もありレクターは押さな頃から家に金を入れる為軍を志望するようになった。


 高い武器を買わなくても訓練ができるという理由からレクターは武術だけを指南してきた。

 師範代からも「お前は一点だけを極める事を考えろ、その先はその時だ」と教わり、五歳の頃から武術を習い始め、彼は一年で習得するという速さを見せた。

 レクターにとって一つの才能を極めるというのは決して難しくない。

 むしろ幼い頃から最前線で戦う兵士達や英雄の姿をテレビで学んできたレクター、カッコイイ大人たちの武術を真似をしていくうちに武術の完全習得へと至った。


 その速度は師範代すらも驚き、ドン引きしてしまうほどの速度だった。


 そんなレクターは幼いころからある夢があった。


 アックス・ガーランドに師弟関係を結んでもらう事であるが、アックス・ガーランドは昔から弟子を取らない珍しい武人であることでも有名で、どれだけ才能のある人間でも決して頷かない人間でもある。


「ねえ………俺を弟子にしてよぉ」

「言っただろ? 私は弟子を取るつもりはない………それに取りたい相手は一人に絞っている」

「ソラでしょ? もう聞いたよぉ………でも、ソラはそもそも師弟関係を結ぶかどうかも分かんないじゃん」

「その時はその時だ。私とは縁が無かったというだけの話だ」


 レクターがソラと出会ってからガーランドで出会う機会は多くなり、昔から何度もお願いをしているが決まって同じ文句で返される。


「お前は私に習うよりサクトに習った方が良いぞ。ああいう技の方が性に合う」

「サクトさんがすごいっていうのは分かるけど、英雄の手で教わりたいの」

「サクトだって英雄だぞ。女だという理由で冷遇されているし、あの歳で、あの実績で本来であれば中将どころか要塞や本部の総司令官に抜擢されてもおかしくは無い。基本女は軍の中でも冷遇される傾向が強いし、それでも負けじとここまで来たんだ。お前のように叩き上げる事が特に奴には相性がいい」

「ガーランドさんはそうじゃないの?」

「…………違う。私は生まれた時から軍以外の道は存在しなかった。ガーランド家は私の兄妹の代まではそうだった。ガーランド家に生まれた男子はどんな子であれ軍に行く事は当たり前だった」


 ガーランド家とは元来よりそういう家系であり、ガーランドが当主についてからは考えが変わってきているが、代々長男が当主となり、息子たちは全員軍の将官クラスに抜擢されることが多い。


「お前と私とでは相性が悪い。諦めろ」


 レクターは頬を膨らませてしまうが、内心はソラが羨ましかった。

 こんな英雄に教えてもらうチャンスがあるという事は名誉なことだと、だからこそ知りたいと思った。

 ソラがそこまでしてガーランドを嫌がる理由を。


「ねえ、なんでソラはそこまでしてガーランドさんを嫌がるの?」


 アベルが聞き耳を立て始める。


「前に言っていたでしょ? 崖下に突き落とそうとしたって」

「そうだけど……武術に教えを受ける人間なら度胸試しぐらい受けるでしょ?」


 ガーランドはボソボソと喋り始めるが、全員が聞き取れずに「もう一度」と問い返すと先ほどより声のボリュームを少しだけ上げる。


「………手を滑らせて本当に落としかけたから……」


「「「なんていう事をするんだ!?」」」


 その場にいる全員から総ツッコミを受けたガーランド、ガーランドから言い訳が飛んできた。


「ち、違うぞ。落とすつもりは無かったんだ。ただ………ソラが予想以上に抵抗するから手が滑りかけたというか………少し下に落ちかけたというか」


 必死になって言い訳をするガーランドを全員が白い目で見ていた。


「あっ………点いた」


 明かりが点灯し、地下水道がその姿を現した。

 薄暗くもどことなく広がる壮大な水道を前にレクターは息を漏らした。


「すごい………こんな空間があったんだ」

「ここは昔と変わらないわね……」



 目を覚ましたという感覚が俺にはまるでなかったが、目を覚まして直ぐに俺は立ち上がっていたことに違和感を覚え、後ろを振り返るとジュリが心配した顔をしていた。


「だ、大丈夫? いきなり立ち上がって」

「俺いきなり立ち上がったのか? 全く記憶にないが」


 というより立ち上がる前の記憶が正直曖昧であり、確か黒い騎士と戦っていた事は覚えているが、その後竜みたいなのを出してしまい……?

 駄目だ。

 そこで記憶が終わっている。


「皆は? どこにもいなんだけど」


 旧劇場の中は閑散としており、向こうの単語で言えば閑古鳥が鳴くという奴である。

 実際人が俺とジュリしかいないというのは寂しいという状況を越えている気がする。


「皆だったらもう地下水道に降りたよ。ソラ君気を失っていたから」

「何? そうか………俺達も追いかけた方が良いのかね?」

「でもソラ君…大丈夫なの? 疲れ切っていたみたいだし、疲労が溜まっているんだろ? て皆が言っていたよ」

「? むしろ体が軽いな。絶好調と言ってもいいかも」


 飛び跳ねてみたり、柔軟運動をしてみせるとジュリは不安そうな表情から、不思議そうな表情へと変貌させる。


「ソラ君が大丈夫ならいいけど………でも、出ていったのは三十分前だよ? さすがに目的地に追いついていないとしても、もう今から走っても追いつかないんじゃないかな?」

「そっか………結構寝ていたんだな」


(ソラ君………何か様子が変)


「何か外が騒がしくないか?」

「え? 革新派の防衛線が近いからそう聞えるんじゃないかな?」


 俺は首を傾げながらもどうしても外の様子が気になってしまい、走って東区側へと出ていって走ってすぐの場所にある大通りでは機械人形と言ってもいい兵器が行く手を阻み、多くの兵士たちが一点に集まっていくのが見えた。


「ジュリがここにいてくれ。誰かあそこにいるような気がするんだ」

「え? うん………でもソラ君だけで大丈夫? アベルさん達………は無理でもサクトさんに連絡を取った方が良いんじゃないかな?」

「なら、ジュリはサクトさんに連絡を取ってくれないか? 女性が一瞬だけ見えた気がするんだ。俺は彼女を救い出して見せる」


 俺は駆け出しながら鎧を召喚し、緑星剣を右手に騎士人形目掛けて剣を振り下ろす。

 何故なのかはまるで分からなかったが、今なら鉄でも切れそうな気がしてしまった。


 実際俺の剣はウルズナイトと呼ばれている人型兵器の片手を切断していた。


 多くの人が俺の方に視線を移す中、なんとなく俺にはこの人たちに負ける姿を想像できなかった。


 あの戦い以降体が異様に軽く感じ、まるで枷を外したような感覚を得ている。

 体の底から力が溢れてきて、今すぐにでも体を動かしたいという感じが満たしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ