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南区攻防戦 11

 ソラと堆虎の出会いは意外と浅く中学に上がってからの出会いである。

 偶々同じクラスで席が近いという事もあり話すようになったのがきっかけで、隆介共々話すようになったが、最初は大した話が出来たわけじゃない。

 というのもソラ自身は他人に対して距離を大きく開けており、堆虎も人見知りをしていたため話をしていても中々心の距離が開くことは無かった。


 林間学校での夜の事、ソラは近くの丘の上までこっそりと下宿先を抜け出し星空でも見に来ていた。

 家族と離れて過ごすという事は当時でもなれず、夜な夜な眠れない日々を過ごしており、雲一つない夜空だけあって外で眺めてみたら綺麗なのではと考えての行動だった。


 そんな中堆虎と鉢合わせになってしまった本当に偶然だったが、共犯者を得た気持ちになった二人はこっそりと近くの丘の上まで歩いていった。


「いつも持っているよな?」

「え? 何の話? どれどれ?」

「その握りしめているお守りだよ。それ手作りだよな? お母さんが作ってくれたのか?」

「うん。無事に帰ってきますようにって………」


 ソラは堆虎に「いいお母さんだな」と笑顔で返した。


「ソラ君のお母さんはどんな人?」

「う~ん………優しくて勘が鋭い人? なんというか良くも悪くもおっとりしている人だけど、怒ると滅茶苦茶怖い」

「いいお母さんだね」

「一緒にいると面倒なだけだよ」

「そんなこと言ったら駄目だよ。ソラ君の事を大事にしているんだと思うし」


 それはソラもよく分かっている。

 女手一つでソラや奈美を育ててきた人だし、どんな時だって不満を決して言わずいつでもおっとりとしているような人だったからソラはよく分かっていた。


「流れ星が流れた来たらソラ君は何を願うの?」

「何だ急に?」

「この星空だもん流れ星ぐらい流れてきそうじゃない?」


 ソラは星空を眺めながら一考する。


「………また来れますように?」

「じゃあ私も………また来れますように」



 ソラは目を覚ますような感覚と同時にまるで暴れ回る緑色の竜の頭部を見た。

 竜は黒い騎士に威嚇を放ち、今にも周囲に襲い掛かろうとしているが、それよりも早く騎士人形が竜に襲い掛かるが、竜はそんな騎士人形次々と食べ始める。

 まるで野菜でも食べるように大きな口を開いては噛み砕き、また襲い掛かってくる騎士人形を食べていく。


 二十体はいたはずの騎士人形をすべて食べきったころには黒い騎士はその場から離脱しており、竜はソラの怒りの矛先を求めてさまよっていた。

 ソラ自身は操作ができておらず、半自動で動き回る竜に困惑していた。


 心の中では「止まれ!」と念じているがまるで動きが止まらないどころか、むしろ誰に構わず襲い掛かろうとする。

 すると、竜はジュリの方をじっと見つめ始める。

 その見つめる先の物体に検討を付けたソラは片手で魔導機を外し、それを竜の近く目掛けて投げつけた。

 竜はまるで餌を貰った犬のようにそれを空中で食べていく。


 その隙にソラに近づいたアベルはソラの両腕を力強くつかむ。


「呼吸を整えて落ち着け、魔導や呪術に関わる力を無差別に襲っているような状態だ。力が無制限に出ている。このままではお前が力尽きるか、この場にいるほぼ全部の魔導機を襲うまで止まらんぞ」

「や、やってるよ! でも、でも止まらないんだ!」

「まず落ち着け。こういう状況こそ落ち着くことが大切だ。そうやって追い詰められるほど慌てるのは私と同じでお前の悪い癖だ」


 アベルの言う通り深呼吸をして意識を落ち着かせ、竜を取り込むようなイメージを持つソラ。

 ソラの想いに答えるように竜は緑星剣へと戻っていく。

 ソラは落ち着いた途端眠気が襲い掛かり、意識を切り離されていった。



 ファンドはある場所から持ち出された一つの種が入った小箱を部下から受け取った。


「これが例の? 間違いないのか?」

「間違いありません。生贄も用意してあります」


 ファンドは小箱の蓋を開けて中身を確かめる。

 中にはクッションに包まれたように小さな植物の種が一つだけ入っており、ファンドはそれを取り出して自らが持っている透明な筒に入れてしまう。


「原初の種。皇光歴の世界において原初の呪術の1つとも言われており、これを飲み込んだ者は永遠を得るとも言われている」


 ファンドはこれを手に入れた時点で自らのうちに勝てるという確信が生まれ、悪そうな微笑みを浮かべていた。


「先ほど例の騎士が帰ってきました。どうやら作戦は失敗したようです。生贄の場所までもう時間がありません。今すぐに実行しなければ」

「そうだな。主戦派と保守派はどうしている?」

「どうやら夜にでも動くつもりのようですね。保守派はともかく主戦派は十六年前の事件を中立派に知られたくないという側面があるはずです。それと………現場に第三皇女を見たという話が上がっています」

「何? 彼女がこの場に来ているのか?」

「分かりません。あくまでも噂話ですので」


 ファンドは「まずいな」という言葉を飲み込んだ。


(代々皇帝一家は因果律(いんがりつ)に関わる異能を持っている。これの所為で事件などから身を守る事が出来る。皇帝襲撃事件が失敗に終わるだろうとは思っていたが、まさか第三皇女がこの場にきているとは。下手をするとこの種を見られた可能性もある)


「どういたしますか?」

「探し出して傷を決してつけずに私の元まで連れて来い。もしかしたらこの原初の種を知られた可能性すらある」

「分かりました。近くの部隊に直ぐに連絡を取ります。それと………生贄の場への侵入者のリストに『アックス・ガーランド』と『アベル・ウルベクト』入っていました」


(あの二人か………さすがに一度に二人を相手にするのはマズイな。まあ、やりようはある)


「その二人は私が直接相手にする。それより、その中にサクトはいなかったんだな?」

「はい。彼女は陽動に出ているようですね」

「らしい役割だなよし! これから出る。お前達は作戦通りに動け」


 ファンドは軍本部の屋上にあるヘリポートに急ぎ、そこに止まっている飛空艇へと足を延ばす。

 飛空艇前には黒い騎士が佇んでいた。


「君には失望した。まさかまともに任務を一つも困す事が出来ないとはな。これからの作戦で挽回しろ」


 黒い騎士は黙って頷くとファンドの後から飛空艇に乗り込んだ。

 飛空艇は目的地目掛けて東区のビル群を駆け抜けていった。



 長く黒い髪とあどけなさが残るが高貴さを感じさせる顔立ち、動きやすくそれでいて豪華な装飾が施された服を着た女性こそ第三皇女レイナである。

 レイナは物陰から帝都の東区の通りを覗き込む、ビルの間に歩き回る人型の兵器である『ウルズナイト』を前にしり込みそうになるが、彼女としてはここで逃げるわけにもいない。


「原初の種。お父様から聞いたことがあります。周囲にいる人間を生贄に力を増していくという呪術の種。まさか帝城掃除の際に外に出す習慣を利用されるなんて」


 本来危険な呪術は帝城で厳重に管理され、軍でも中に入る事は叶わないが、今年は帝城の大掃除の年という事もあり東区の『呪術管理局』に預けられていた。


「中立派の皆さんに教えなければ………ですが」


 ここを突破しなければ南区に向かう事は出来ない。

 ゴミ箱の影に隠れて物陰からうかがう彼女、実際この状況で怯えて竦みそうになっている彼女の体。

 雨が降っているわけでも、風が強いわけでもない。

 肌寒い空気がそうさせるわけでもないのに、レイナの体は小刻みに震えている。


 帝城で育ったレイナにとって銃を見るという環境が存在しなかったし、そもそも初めての帝都がこんな形になるとは思わなかった。


「私がしなきゃ………皆さんが死んでしまう」


 自らを鼓舞し勇気を持って最初の一歩を踏み出した。


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