南区攻防戦 9
ガイノス帝国立士官学院の裏門を潜ろうと路地を移動していると、裏門の近くに士官学生が警戒態勢で立っていた。
学生に話を聞くと帝都内のクーデターに置いて士官学院は政府側、要するに中立派についているらしく俺達を問題なく受けれてくれ、俺達はこの帝都内で起きている問題を帝都の地図上で確認することが出来た。
「ねえ、そこの女学生さん。この争いが終わったら私と少しお茶会しないかしら?」
「そこの戦闘狂さん。ナンパしていないで早く話に混じってくださいね」
「ならなら! 俺と行かない?」
「レクター! お前まで参加しない! この人を参考にナンパを試みるな!」
何で俺がツッコミをしなくてはいけないんだ?
面倒だが話を進めておくことにし、俺は目の前にモニター付きのテーブルの電源を付け、モニターに帝都周辺の地図を映し出す。
そこから現在起きている詳細な情報を重ねてみるとおおよその状況が把握できた。
「どうやら東区は完全に封鎖されてしまったみたいだし、どうやら革新派もウルズナイトという兵器を持ち出して市街地戦にもつれ込んでいるみたいだな」
「ガーランドさんは市民の避難に時間食っていて進撃が出来ずにいるみたいだし、アベルさんも東区への進行の足掛かりが無いような状況みたいだね」
俺とジュリだけでも頭にたたきいれる為、廊下でナンパしている二人を無視して話を進める。
「ウルズナイトはやばいな。こういう障害物の多い場所は戦車以上に機動力があるから有利だし、実際中立派の戦力を少数ながら抑えている」
「でも、やっぱり数に限りがあるし、この状況が続けばいずれは中立派が他の勢力に手を借りる可能性が高いから長期戦は出来ないよ。補給の問題だって存在するし」
「だけど、東からの出入り口は『主戦派』と『保守派』が押さえているし、北と南は中立派が押さえているはずだもんね」
革新派はこの状況から勝つ見込みがあるという事になる。
正直最初の作戦が失敗した段階で作戦はおおよそ失敗ではないのか?
しかし、そんな事なら作戦を実行に移さないだろう。
「備えがあると思った方が良いのか、それともこれからが作戦の本題になるのか? だな」
「うん。東区の人を人質にしているといってもそれも時間に限りがあるだろうし、それこそ中立派は打開策を考えている最中だろうけど…」
「問題はどうやって東区にある人質の集めら場所に向かうかだけど……!? そこまでだ! デリアさんそのジュリの胸目掛けて伸ばしている右手を収めなさい。でなければこの緑星剣が貴方の両腕を切り落とす」
ジュリが驚いた素振りで後ろを振り返り、そのまま一旦距離を取る。
デリアさんが舌打ちをしながら離れていくジュリを物寂しそうに見ているが、この人に寂しいとかいう感情とは無縁なので心配しない。
「その話なんだけど」
「今なんでもないかのように話に入ろうとしました? ジュリの胸を鷲掴みしようとしたくせに」
「旧市街地にある地下水道を通って侵入出来るんじゃないかしら? ていうかアベルさん達ならそう考えると思うわよ」
「無視っすか………まあいいですけど。それより地下水道って何です?」
まるで聞いたことの無い単語を前に俺は首を傾げてジュリを見る。
「旧市街地には昔の名残が残っていてそれが地下に今でも張り巡らされているの。川から引いた水を町中に引くためにって掘られた場所が残っているはずだよ。たしかに……あれなら東区に侵入する場所ぐらいなら残ってるかもしれないですね」
「でしょ? まあ、敵も同じことを考えるかもしれないけれどね。その辺も作戦に組んでるでしょ? 取り敢えず一番近い場所に行ってみる?」
「知っているんですか?」
「ええ、学生時代に中を一通り見たことがあるからね。あそこは薄暗くて模擬戦をするにはうってつけの場所だからね」
そう言ってデリアさんは南区と東区の境目辺りにあるドーム状の建物を指さした。
「ここは数年前に倒産した旧劇場跡地、ここの劇場内に地下への出入り口が隠されていたの。昔ここで変な音がするって調査していた際に見つけてね。当時はお化けの仕業って問題だったのよ」
「でも近いって言っても旧壁を挟むから結果ら見て遠くならない?」
「昔の出入り口だから塞いでいる場所も多いのよ。ほとんどの住宅は塞いでいるはずだし、商店街なんかでも塞いでいるはずよ。だからこういう廃墟みたいな場所にしか残っていないはず。ここが一番近い場所よ」
結構距離があるので歩いていくとかなり時間を喰いそうだが、それ以外の方法を知らない為ここは歩いていくことにした。
すると、ここでようやく話に戻ってきたレクターがある場所を指を指した。
「ここに旧壁を超える為に造られたトンネルがあるよ。と言っても歩いて超える為に造られた歩道だけど」
「歩道? 見たこと無いぞ」
「そりゃあそうだよ。階段で降りる場所にある上、看板とか無いからぱっと見は分からないし」
「なんでお前はそんな場所を知っているんだ?」
「昔の遊び場だもん。こういう秘密基地にしそうな場所を探索しなかった?」
そういえば昔故郷の裏山に秘密基地を作った記憶がある。
人の事を言えないのであえて何も言わない。
「なら道案内は頼んでもいいんだよな?」
レクターの元気の良い「勿論!」という言葉を怪しむ俺がいた。
レクターの言う通り目的の場所には地下への階段が旧壁に寄り添うように地下への階段がある。
それは良いのだがなんというか薄暗い路地の先、それでなくても高い建物に挟まれる形で存在しているためそれでなくても怪しい場所なのに怪しさが倍増していた。
ここが旧壁を歩いて越える場所なのだと教わらなければ絶対入ろうとしない場所だ。
「な、なんか怖いね」
「なら私の胸の中にいらっしゃい。私はいつでもウェルカムよ」
「ジュリそっちに行けば変質者に襲われるから俺が手でも握ろうか?」
「うん。お願い」
デリアさんの舌打ちを再び耳にした俺、なんか忌々しいみたいな目で見られている気がするがこれをこれでもかと無視する。
しかし、確かにこれは少しばかりお化けが出てもおかしくなさそうな場所。
日本に存在すれば七不思議にでも登場しそうな雰囲気を醸し出し、そこに空気を読まないことで有名なレクターが突き進もうとする。
「行かないの? ここを降りればすぐだよ」
「本当に着くんだろうな? ここを降りて異世界に辿り着くとか嫌だぞ」
これ以上別の異世界を見て回るとかしたくないので最初のうちに明言しておく。
この世界が西暦世界との共通点が多い世界で本当に良かった。
言葉が通じない、文化はまるで違う、人間がいない場所とか言われたら本当に自殺できる自信すらある。
というか生きていけない。
「帰れるなら万事解決じゃない?」
「そういう意味じゃないし、たとえ帰れたとしても万事解決できないだろ? お前達はどうするつもりだ? 言っておくがうちの家は大きくないぞ」
「い、良いから行かない? ここでこうしていくのが怖い」
ジュリが本気で怯えているし、後ろではデリアさんが今にも襲いそうになっているのでここはなるべく早めに前に進むことにした。
階段を下りながら俺は心の中で「革新派とぶつかりませんように」と願っていると数少ない電灯だけが並ぶ寂しい地下道に出た。
取り敢えず誰かが襲い掛かってくるという状況だけはなさそうで、俺達はまっすぐな道をひたすら前に進んで行く。
「取り敢えずデリアさんは襲いそうだから前に言ってください。普通に後ろから興奮したみたいな呼吸音が怖いんで」
「しょうがないわね。まあいいわ。ジュリちゃんが私の後ろを怯えながら進んでいると思うと興奮できるものね」
何も言えねえぇ。
この人本当に駄目だ………何とかしないと。