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南区攻防戦 5

 ガイノス帝国軍本部は帝都東区の新市街地に存在し、現在はクーデター中という事もあり非常態勢が敷かれていた。

 しかし、予想以上にアベル達『中立派』が各地に散って戦っているため、思う以上に戦いが有利になっていないというのが現状だった。

 総司令であるファンドは苛立ちを机にぶつけ、ボサボサの髪をむしる様な勢いでかき始める。

 実際万全と言ってもいい体制で戦いを挑み、結果まるで押せていないこの状況。

 ファンド自身の目的を言えば彼は決して負けていはいない。

 東区に移動しているある『禁呪術』を回収し、使用するという目的上、東区を占拠できていないこの状況は決して悪くは無かった。


「『原初(げんしょ)の種』の確保はまだなのか?」

「申し訳ありません。どこに隠されているのかは皇族関係者でなければ分からないので、現在しらみつぶしに探しています。それと南区が予想以上に押されているという情報です」

「あそこは万全の構えで挑んでいたはずだろ!」

「それが士官学生が動いているらしく、実際士官学校は既に民間人の避難場所として機能し、周囲は士官学生が守りに入っているとのことです」

「クソ! どいつもこいつも。では皇帝も無事なのか?」

「はい。特に昨日報告されたという鎧の人物が妨害に入ったとのことで。恐らくは例の『竜の欠片』の継承者だろうと」

「この為の模造品(もぞうひん)だったはずだ! 模造品はどうしている!?」

「例の少年と交戦中でしたが、予想以上に成長が早く手に負えない状況です」


 苛立ちを机に再びぶつけるファンド。


「クソ! 何のために異世界から運び出したと思っている? そもそもあの少年が私の用意したルートを通らなかったのが問題だ」

「それについて調べた結果ですが……要因は大きく分けて二つと予想されます。一つは聖竜が関わっている。二つ目は彼自身の問題です」

「フン。間違いなく聖竜が関わっているだろう。実際、あの少年が見つかったと報告する前に皇族からあの少年を丁重に保護しろと言われたんだからな」

「ええ、ですから間違いなく聖竜が関わっていると思われますが、その場合ですと我々のクーデターも事前に知っていた可能性が」


 ファンドは俯きながら頭を巡らせる。


「だったら事前に阻止したがるはずだ。少なくとも皇族はそうするし、中立派はこんな無駄な戦いは政治上不利になると分かっているからな」

「でしたら………」

「どうせ竜様からすれば我々人間のやる事なんて興味すらないという事だろう。忌々しい事だ」


 ファンドは内心「どうせクーデターは始まったばかり」と状況を軽く見ていた。



 バイクで追いかけるアベルと、軍用車で追いかけるガーランドの両名は新市街地の都市高速へと乗り物を進め、相手は大型トラックを二台と前方に高級外車のような乗り物一台という状況で逃げていた。

 拘束に入ってすぐ、大型トラックの荷台が大きく開いていき中から見たことも無い兵器が姿を現した。


 四つの足にはタイヤのような物が大量についており、それが全体を支えており、上半分はまるで人間の上半身のように見え、右手にはガトリングの砲台が、左手はエネルギーシールドを装備している。

 背中にはエネルギーランチャーとミサイルパックも見えており、アベルは独り言で「移動する火薬庫だな」と呟いていた。


 背中のランチャーがアベルとガーランドの間に照準を向け、二人は照射とほぼ同時に左右に逃げる。

 二人の後方が崩れていくのを見て背筋に嫌な汗を掻いてしまう。

 アベルはバイクの速度を上げていき、真横から足を切りつけようとするが、兵器は右手のガトリングをアベルの方へと向けて容赦なく打ち付けてくる。

 アベルはなるべく攻撃を左右に回避し、当たりそうな攻撃をエネルギーシールドで受け止めて凌ぐが、これでは前に進めない。

 ガーランドは大剣を召喚し、それを兵器の足元目掛けてブーメランのように投げつける。

 しかし、それをシールドで弾き更に移動速度を上げていく兵器に落ち着く。


「アベル。これ以上距離を取られると一方的な戦いにあるぞ。そのバイクで一気に近づけないか?」

「速度は出るが、近づこうとするとあのガトリングとミサイルが邪魔をする。まずはあの兵器を何とかするべきだな」


 ガーランドは追加の戦力を寄越すようにと連絡を出したときだった。兵器はミサイルを前方の足場目掛けて射出した。

 足場がドンドン崩れていき、アベルはバイクで大きく飛べるが、車体が大きな軍用車は飛べそうになかった。

 ガーランドはドアを大きく開け、車の天井から跳躍するとアベルの乗るバイクに乗り込む。


「重量オーバーだ」

「警告は出ていないだろ。それよりここで逃がしたくない」

「速度が落ちているのは事実だ。さっきも言ったが速度を上げるとあのガトリングが邪魔をするし、後ろに下がればランチャーが邪魔をする」

「面倒な性能をしているな。できから見れば技術大国が絡んでいそうだな。それも一年や二年じゃないだろう」

「ああ、おそらく戦時中から対共和国ようにと用意していたのもクーデターの為に持ち出したんだろ。去ってしまったもう一台のトラックの中身が心配だが」

「全くの同じだとは思いたくないな」


 それはそれでゾッとする話だと二人は思った。

 高速で移動と機動力があり、中距離から遠距離までの攻撃手段があり、その上大きいというメリットがある。

 戦時中ならと二人は思っていますが、同時に戦場に残された民間人が負傷者をまるで考えないこの兵器を忌々しくも思う。


「ガーランドは反対する兵器だな」

「受け付けられないな。人の手が入って初めて戦いになる。人の手が入らない戦いはただの虐殺だ」


 ガーランドはアベルの背に足を載せ、アベルはその行動に「おい!」と突っ込むがガーランドはまるで聞かないふりをし、一気に跳躍する。

 兵器はシールドで弾こうと試みるが、ガーランドはシールドを足場にしてしまう。

 兵器はガトリングの照準をガーランドの方に向けるのだが、これでアベルが自由になり兵器の右足を切り裂く。

 体勢を大きく大きく崩された兵器のエネルギーが集まっている中央部分に思いっきり大剣で切り裂くと、兵器は最後の悪あがきとばかりにミサイルとランチャーの乱れ撃ちで周囲に被害を出す。

 すると、近くのビルに取り残されていた少女と母親が外に曝け出され、今にも落ちそうになってしまう。


「アベル!」

「こっちにこい!」


 アベルは大剣を召喚し、ガーランドは大剣に乗る。

 足場が崩れていき、不安定な場所でアベルは思いっきりガーランドを二人の親子の元へと投げ飛ばす。

 しかし、まだ距離が足りないと判断したアベルは兵器のシールドを切り裂いてそれをガーランドの元へと吹き飛ばす。

 魔導機を使って一旦空中で制止し、落下する前にシールドを足場にして再び跳躍。

 二人の親子を両手で抱いてから、建物中へと入っていく。


 アベルは崩れる足場から何とか逃げ出そうとアクセルを全開にし、何とか逃げ出したときには敵に逃げられたところだった。

 バイクをいったん止め、ガーランド方を見るとガーランドは二人の親子を連れて下の階へと移動して行く最中。


 アベルは大きく息を吐き出しふと視界を泳がせてみると、少しだけ遠くの空に一台の軍用ヘリが区画間列車の走る場所へと移動するのが見えた。


「あれも見たことが無いタイプだな。区画間列車が動いているのか?」


 そう思って区画間列車の方を見ると、東区と南区のど真ん中で列車が脱線し旧市街地方面へと落ちているのが見えた。

 

 そしてチラッとソラ達と一緒にこの街にいない女性が見えた気がした。


「あれは………デリアか? どうしてあいつがこの街にいる?」

「私達が呼んだのだよ」


 アベルが顔を向けた先には初老の男性が立っていた。


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