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南区攻防戦 4

 お互いに一旦距離を取りながらふと先ほど倒した兵士たちの方を見ると、まるで何事もなかったかのように、まるでゾンビが起き上がるかのような気持ち悪い起き方をする。

 俺が切りつけた傷だけは治りが遅いが、レクターの打撃攻撃なんかはあっという間に治っているところを見るとテラと同じ薬剤が使われていると思われた。

 俺が本気で切れば殺す事もできるが、この黒い鎧を相手にしながらあの兵士達全員を相手にすることは出来ないし、レクターも今は目の前の状況で精一杯だ。

 父さんの方やガーランドの方を見てみると向こうもドンドン起き上がる無限の兵相手に苦戦を強いられている。

 それもそうだろう。

 一撃で死ぬのならまだ相手が楽だが、殺しても治ってまた戦いを挑むのは持久戦にすらならないだろう。


 十人の兵士が俺達の方へと迫ってこようとしているが、相手をするわけにもいかないし、かといって無視をすれば最悪このまま皇帝陛下の元まで行きかねない。


 頭の思考回路を焼き切れるほど回転させるが、まるで解決策が見いだせない。


「向こうを見ているほど君は私達の戦いは退屈か?」

「な訳ないだろ!」


 俺は俺に向かって振り下ろされる剣の一撃を真後ろに逃げ、切り返しで横なぎに剣を振ってみるが牽制にすらならず体を後ろに引くことで回避した黒い鎧は剣を振り上げる。

 俺はその攻撃をギリギリで回避し黒い鎧を蹴り飛ばして一旦距離を取る。

 一撃で仕留めるにはこの技しかない。


 俺は剣を後ろに少し引くタイミングで向こうも全く同じ動作を取る。

 俺の頭の中で「まさか?」という想いを振り払い、俺と黒い鎧はほぼ同時に剣を前に突き出した。


「「刺殺の束!!」」


 エメラルドグリーンの剣の束とどす黒い剣の束がど真ん中でぶつかり合い、粉々になっていく剣の欠片が周囲に飛び散るが、俺の心はとてつもない衝撃が襲い掛かった。

 この『刺殺の束』は『竜の欠片』が持っている技の一つ、少なくともその辺の奴が扱える技じゃないはずだ。

 なのにこの黒い鎧は俺に向かって刺殺の束を使用した。

 何よりも動揺していたのは皇帝陛下自身だった。


「ど、どうして君が扱うんだ!? そこにいるソラ君が扱うのならともかく!」

「私達の技だからだ」

「ありえない。その技は『竜の欠片』だけが扱う技だ。『魔導』と枠組みされる力は例外なく一つだけだ! 全く同じ魔導なんて存在しない。『竜の欠片』は其処にいるソラ君だけだ」


 皇帝陛下はやはり俺が『竜の欠片』を継承していることを知っていたのか。

 しかし、今の皇帝陛下の発言ではっきりした。

 この黒い鎧は『竜の欠片』を模してはいても、本物ではないという事になる。


 ならこの黒い鎧は一体何者で、どうして同じような力を振るう事が出来るのか?


「なら異能なのだろう」

「異能はありえない。異能はそんなにはっきりと形としての発言しない。これにも例外はありえない」

「なら似た力が存在したというだけだ。それに貴方は少々楽観的過ぎるようだ。こうして狙われているというのに」


 皇帝陛下に対する態度として果たして正解なのかどうかは疑問だが、皇帝陛下はいたって平然としており、どことなく安心感すら感じる。


「私は信じているからね。私の国で戦う者達はこの程度の苦難など退けてくれると。私が狼狽えて周囲に迷惑をかけるわけにもいかないんだ。ガイノス帝国の顔はこの程度の苦難で慌てたりしない」


 ただ守られるだけじゃない。

 こういう非常だからこそ、皇帝自身が堂々とすることで周囲に落ち着けというアピールになる。

 この人は政治にかかわる事もできず、戦う事も許されていない。

 だからこそ、こういう時こそ国のトップとしての態度が示される。

 皇帝として、何よりガイノス帝国の顔としてここで狼狽えたり、ここで戦う者達に背を向けて逃げたりしない。

 だからこそ、この人は慕われるのだ。


「お前達と違うんだよ。この人は決して罪から逃げたり、戦いから顔を背けたりしない。だからこそ慕われている。だから………俺も負けられないんだ」


 この人に背を向けている以上、この人を守る必要がある。

 迫りくる十人の兵士全員に刺殺の束を伸ばそうと自分のイメージを頭の中に抱き、その通りに刃を増やしていく。

 体力が無くなっていくのが分かるが、だからと言ってもここで俺が倒れるわけにはいかない。

 分散していく束は一人、二人と巻き込んでいくが、十人全員は流石に無理だったのか、他の八人が攻撃を掻い潜り何とか皇帝陛下に近づこうとする。


 無駄なのか? 駄目だったのか?

 そう持っていた時八人の体が物凄い衝撃と共にまるで竜巻にでも巻き込まれたかのような一撃で吹っ飛んでいく。


「ソラ君は無駄じゃなかったわよ。あなたがジュリちゃんを私の元に向かわせ、あなたが時間を稼いでくれたから間に合ったのよ」

「その通りだ。お前はもう少し胸を張れ。お前が士官学生を救援に向かわせてくれたから私達が間に合った」

「ソラ。お前はよくやった。今は敵への攻撃に集中しろ。イメージを分散させるな。全身の力を無駄なく衝撃を受け流す事に費やすんだ」


 父さんが俺の両手に優しく触れ、周囲の敵をガーランドとサクトさんが相手をしてくれている。

 無駄じゃなかったんだ。

 駄目じゃなかった。

 あの時選んだ選択は決して間違いじゃなかった。


 心が安心していき体中から力が溢れ出ていく俺は雄たけびを上げながら前へと押し出していく。


 すると、俺達の周りをスモッグ弾が俺達の視界を塞いでいき、刺殺の束をロケットランチャーが粉砕することで戦闘が中断してしまう。


「アベル! 追いかけるぞ! サクトはここで負傷者の手当、俺部隊は救助活動を続けろ!」

「ソラ、バイクどうしたんだ?」

「ジュリ! バイクは?」

「ここにあるよ」


 ジュリがバイクを持ってきてくれたタイミングで父さんはバイクに乗り込んでいき、そのまま立ち去っていく。

 視界が晴れていきようやく状況が分かっていくと、レクターが「あ!」と声を上げる。

 レクターが指を指した方向には中央駅の出入り口があり、本来であれば多くの人でごった返しているが今は静けさすら感じさせるほどに人がいない。

 しかし、そんな中で二つの人影が駅の中へと入っていくのが見えた。


「レクター追うぞ!」

「待ってソラ君! 私も行く」

「ジュリはここにいるんだ。守り切れる自信が無い」

「足手まといにならない。本当に足手まといになったら大人しく引くから」

「…………絶対に前に出るなよ?」


 ジュリは黙って頷き、急いであの二人を追いかけていく俺達。

 駅の中へと入っていきどっちに言ったのかと駅員に話しかけると、区画間列車の方へと移動した人影を見たという話を聞き、俺達はエレベーターのスイッチを押して上へと上がる。


「区画間列車何て何に使うつもりなん………だ?」


 俺は絶句してしまった。

 この区画間列車のホーム行のエレベーターは途中から周囲をガラス板で見回す事が出来、旧壁の真上に作られた線路へと向かう事が出来る。

 だから、旧市街だけならある程度の高さで見回す事が出来た。


 旧市街地のあちらこちらから火の手が上がっており、よく見ると戦闘の炎だとはっきり出来る。


「何だよ………これ」

「クーデターだって。軍の『革新派』が東区を占拠して南区と北区の境で戦闘が始まっているみたいなの。それに合わせて『主戦派』と『保守派』も動き出したみたい」

「へ? なにこれ!? 帝都で戦争でもすんの?」


 レクターの驚いた声がエレベーターの中に響き渡り、俺も急いで携帯で情報を検索する。

 そこには確かにまるで帝都で戦争をするのではないのかと思わせるほどの映像が流れていた。


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