大学攻防戦 1
この海都には大きな大学が二つ、中規模の大学が二つ存在しており合計で四つの大学の内、唯一海洋同盟とのかかわりを持つ大学が今目の前に。
近代的な造りをしている四階建ての複雑な造りをした建物なのだが、どことなくアメリカや日本でよくある形の大学。
しかし、中庭のように自然が存在しないのが特徴だろう。
その前で合流した俺とケビン、ジュリとレクター以下竜二人にケビンを紹介した。
「で、こっちがケビンさん。今回の調査で俺達に協力する為にアメリカ政府からやって来たエージェントだそうだ。それでこっちからジュリエッタ、レクターです。そしてこの後ろの竜がエアロードとシャドウバイヤという名前です」
「よろしくお願いします。皆さんの戦い方も参考にさせてもらいます」
レクターが気持ち悪い照れ方をしているがそれを一切無視して俺達は取り敢えず大学内に足を踏み入れようとする。
「ケビンさんって綺麗な白銀の髪をしているんですね。とっても綺麗」
ジュリの誉め言葉を前になれていないのか、顔を真っ赤にしながら照れくさそうに前髪を弄り始めるケビン。
「あ、ありがとうございます。これは母譲りなのです……」
「そうなんですか?いいなぁ………」
確かに綺麗な白銀の髪は時折風に揺れ太陽の光を名一杯反射している。
大学構内に入り込む為に出入り口の警備員に俺はあらかじめ父さんから借りておいた大学へ入る為に必要なカードを提出する。
「ガイノス帝国軍から要請で『バル』の調査要請を持ってきました。大学構内へ入る事を許可を貰いに来ました」
「話は既に聞いております。ではこのネームカードを首に下げて構内に入ってください。ペットに関しては必要ありません」
俺の後ろでエアロードとシャドウバイヤが文句を言っているようだが、一切無視を貫き通し、俺は警備員がからネームカードを四人分受け取りそれぞれに配布してから構内へと入っていく。
真新しい建物が続ており、水路が無い分歩きやすいと感じるのだが、どうにも先ほどから続ていたレンガ造りの建物が無くなるので違和感しかない。
「先ほどの話を聞く限りですと面会するまで時間があるのでありませんか?」
「む?そういえばそうだよ!早く来る必要なかったじゃん!水上オペラを見てからでよかったのに!」
「そんな時間があるわけないだろ!!適当に構内をウロウロしていればいいだろ」
そんなことを言いながら俺達は室内に入るのではなく、まず周辺から歩いて回る事にした。
木々の一つでも植えれば景観が良くなるとおもうのだが、奇妙に人工的な建物が目立つ。
なんて思って歩いて十分が経った時、目の前に大きなビニールハウスが見えてきた。
『海水動物養殖場』
そう書かれた看板をじっと見つめて、俺は立ち去ろうとしていた瞬間の出来事だった。
「お邪魔します!」
「おい!何を勝手に入っていくんだ!」
俺の制止を聞かないレクターは勝手にビニールハウスの中へと入っていくのが見て取れ、俺は急いで追いかけながらビニールハウスの中へと入っていく。
別段温かいわけでも無い室内、目の前に海に繋がる水槽が広がっており、その中に首長の水生動物がスイスイと泳いでいる。
「もしかして………これが?」
「ああ、水肉の元になっているっていう肉食動物なんだろうな……確かバルバルって名前だったか?」
そう想い俺はジュリの方をじっと見ると、ジュリとケビンがバルバルに魚の肉をすりつぶして肉団子状にした食べ物を与えて楽しんでいる。
どうやらこの部屋に入った時から既に室内にいた大学生からもらっていたらしい。
「バルバルって触ってOK?」
「えっと……ああ、良いって書いてあるけど?ためしに触ってみれば?」
なんて言ってみるとレクターはためしに頭を撫でようと右手を伸ばすが、バルバルはレクターの手を警戒しているのか低いうねり声をあげてしまった。
「ダメダメ!そんな風にオドオドとして近づいていけば警戒されるだけよ」
元気のいい声が俺達の真後ろから聞こえてきた。
振り返るとそこには黒い髪と元気の良さが前面に現れた顔だちをしている。
「バルバルは相手が警戒すればバルバル自信も警戒してしまうのよ!自信をもって触ってやるしかないのよ!」
「フン!そんな事分かってたし!」
「嘘つけ。絶対に分かっていなかったろ」
ちなみに俺が見た紙にはバルバルの触り方がきちんと書かれていたりする。
「まあ、この子達は私達の手で育てられているからいきなり噛んだりはしないから安心してよね!でも………なんで子供がこんなところにいるわけ?」
「すみません。ある用事で『ジェノバ博士』へと会いに来たんですけどまだ時間があるようでしたので時間を潰していました」
「あ、そうなんだ。ここジェノバ博士の管理している場所の1つよ。ジェノバ博士の管轄は海洋同盟でしか手に入らない植物や金属、この海都オーフェンスで生息しているバルバルの調査だからね」
元気の良い女性は俺の方に向き合いながら顔を近づけてくる。
「私ベルよ!あんた達は誰?」
「俺はソラ。こっちの間抜け面はレクター」
「へぇ……あんたが星屑の英雄さんね。この街でも有名よあんた。でも………残念だったね。ジェノバ博士今さっき出ていったのよねぇ。でも変ね。あんた達がくるって話は聞いてなかったけど」
それは変な話である。
昨日のうちに父さんからジェノバ博士に話が言っているはずだし、それをジェノバ博士は知っているはずなのに……。
「何も言っていませんでしたか?」
「ええ、何も言っていなかったけどね。まあ、直ぐ帰ってくるでしょ。あんた達に会う約束をしていたのならすぐに帰ってくるでしょ。なんならもう少しここにいていいわよ」
そんな話をしていると、ビニールハウスの外で聞いたことのあるキイキイ声を聴いた気がした。
「全く!ここの理事長は頭が固い!直ぐに話をすれば済む話なのに!クソ!昨日からろくなことが無い!こんなろくでもない場所直ぐにでも立ち去りたいところなのに!」
「何よ……あのクソおやじここにきているわけ?」
ベルさんの表情が露骨に歪み、同時に何人かの大学生が舌打ちをする音までが聞えてくる。
「あの人の事知っているんですか?」
「ええ、そりゃね。私の故郷では結構有名な人よ。結構裏話聞くけど……金の力でなんでもできるって本気で信じているようで、実際金の力である島を買い取ろうとしたって聞いたわ」
「え?そんなことできんの?」
「無理だったわよ。でも………ううん。これは噂でしかないし止めておくわ。でも、そんな風に金回りで噂の絶えない男ってことは知っていればいいわ。実際故郷では………海洋同盟でも有名な男よ」
俺はもう一度外を歩く男の方を見る。
苛立ちを隠しきれず地団駄を踏むあの男、一瞬だけこちらを見たような気がするが特に気に掛けた様子もなく、そのまま立ち去っていく。
「全くジェノバの奴め!忌々しい!」
「よろしいのですか?」
「何がだ!? 」
「ジェノバ博士です。あそこで隔離しておけばいずれバレますよ」
「良いんだよ!あの博士が知っている事は我々にとって不利益になる!知っていることを吐かせた後で殺せ!」
苛立ちを誰かにぶつけるようなその声が大学生たちの耳に響き渡った。