南区攻防戦 3
悲鳴を聞いた瞬間に俺とレクターは柵に対して前のめりで広場に鋭い目つきで見つめ、ジュリはその後ろで携帯で情報を収集する。
すると帝城方面と新市街地方面からトラックが十台ほど突っ込んでくるのが見て取れ、そんのトラックの中から小柄な兵士たちがドンドン降りてくる。
「あの数はやばいぞ。直ぐに防衛隊が決壊する」
「ガーランドさんの部隊は市民の避難。アベルさんは敵部隊の対処、サクトさんは見えないけど多分俺達に近い所じゃないかな?」
「皇帝陛下は? ソラ君、レクター君そこから見える?」
「取り敢えず大丈夫だ。でも、このままだと時間の問題だ」
皇帝陛下の周りをがっちりガードしているが、逆に退路を断たれている状況。
父さん以外にも複数の部隊が脱出ルートを確保しようとしているが警察も軍も混乱しておりあまり役に立ってない。
「ジュリはバイクを持ってサクトさんの所にいってくれ! 俺とレクターは皇帝陛下を守る為にここから参加する」
ジュリは黙って頷き俺とレクターは柵から飛び出していき、建物の壁を足場にしてまるで忍者の如く素早く移動して行く。
俺は同時に鎧を召喚し、身を包ませながら一気に建物から広場の公園へと飛び出た。
木々を足場にして一気に光延中央部に降り立つと、人々は混乱の真っただ中で、中には怯えてしゃがみ込む子供、自分の子供を探す母親などとにかく混沌な状態を醸し出している。
しかし、この状況で結構な数の士官学生を見つけ出した。
「士官学生は民間人の避難!!」
俺の叫び声で混乱していた多くの士官学生が動き出し始め、母親と一緒に子供を探したり、中には先頭の余波を受けている者達の救助を試みる者もいる。
俺とレクターは皇帝陛下へと襲おうとする十人の少年兵を見つけ出し、その前に立ちふさがって見せた。
「レクターは五人任せるぞ」
レクターは「お任せあれ」と鞄からナックル型の魔導機を取り出し装備、先ほど壁を駆けていたので足にも魔導機を装備しているのだろう。
四つの魔導機を併用して使いこなす奴なんてこいつぐらいだ。
俺は目の前からアサルトライフルを持って襲い掛かってくる五人をターゲットし、アサルトライフルの弾丸を全弾撃ち落とし、間合いに入り込んで二人をまとめて横なぎに切り裂いた。
レクターは右拳を少年兵の鳩尾に叩き込み、殴った少年兵を足場にして真後ろにいる塀の側頭部目掛けて回し蹴りをお見舞いする。
こっちも見惚れている場合ではない。
相手は全員がアサルトライフル装備、これ以上近づかれると皇帝陛下に被害が出る場合がある。
間合いを詰めて思いっきり蹴り飛ばし、それによって他の二名が動揺している隙に喉元に二連撃を食らわせて、蹴られた奴の側に近づいていき止めの一撃をお見舞いした。
レクターの方も最後の一人を蹴り飛ばしており、俺達は息を整えようとしている最中の事、俺達の視界をスモッグが埋めていき、物陰の向こう側から二つほどの人影が突っ込んできた。
俺は剣で、レクターは拳攻撃を受け止め、お互いに視界が晴れていくと襲撃者の姿が見える。
俺の方は俺の鎧と瓜二つのデザインをしている人物、レクターの方は軽装な服装だが、帽子で目線を隠しており全身は細いがしなやかな筋肉をしている人物。
どっちも性別不明というおまけ情報付き、明らかに他の奴らとは全く違う佇まいをしており、そのうち一人に関しては俺の鎧との共通点が多すぎる。
違いがあるとすれば鎧の色ぐらいだ。
「クンクン………この匂い……相手は女!!」
「お前……変態だと思っていたが」
というかこの状況下で緊張感を無くすことをしないで欲しい、コッチは緊張感を高めているような状況で邪魔しないで欲しい。
相手の女性も帽子越しにも分かるぐらい表情が歪んでいる。
最も相方の鎧はまるで緊張感を崩す事の絶対にしない上、面倒なほどピリピリとした感覚が肌を襲い掛かる。
「どうして俺と同じ鎧を付けている……? どうして………」
「君がいるから私達はここにいるのさ」
「意味の分からないことを言うな!」
俺と鎧の奴はほぼ同時に剣を横に振って一旦距離を取ると、再び接近して縦に振り下ろすが俺の緑星剣とは似ても似つかない禍々しい両刃直剣が俺の剣と空中でぶつかり合う。
鈍い金属がぶつかる音、お互いの鎧についているマスク越しに睨み合う両者。
レクターサイドの方も一旦距離を取り、相手の女性は体勢を低く、足技でレクターに襲い掛かり、レクターはその攻撃を両手だけで捌き切るとそのまま思いっ切り右拳を叩き込もうとする。
しかし、相手の帽子の女性は柔軟な体で攻撃を躱してまた距離を取った。
あのレクターが攻防で討ち漏らすなんて思いもしなかった。
何よりあの女性の体の動かし方、普通ではないとはっきりと理解させてくれるには十分で、関節や筋肉の使い方を持ってもどうも『普通』じゃない感じがする。
「その動かし方………獣人族の女」
だからどうして女だって分かるんだよというツッコミ以上に、「こいつ今なんて言った?」という想いが勝った。
なんて言ったんだ?
獣人族?
嘘だろと思う一方で納得できる話である。
この皇光歴の世界にはいくつか亜人族が存在しており、その中でも獣人族は裏社会で取引されるぐらい貴重な人種。
数年前に帝国と共和国の戦争に対して巻き込まれて国が滅んで以降は、獣人族は世界中に散っている。
俺達も獣人族の『メイちゃん』という女の子を知っており、その子は南区の孤児院に今でも暮らしているし、今でもよく合う間柄だ。
だから俺達は獣人族だからと差別しないし、それに対して口を出すつもりも無いが、その獣人族が俺達の帝国を襲ってくるとなれば話は変わってくる。
何故なら獣人族の国を滅ぼした最終的な要因は帝国だったからだ。
当時獣人族は呪術に手を出しており、国民の大半がおかしくなっていく状況に周辺国だけでは対処できないと帝国に一任された。
獣人族は人間より肉体が強くしなやかで近接戦闘に非常に特化しており、普通に争えば勝てる見込みなど存在しない。
しかし、どん世界でも絶対なんて言葉は存在しないことも無情な真実で、帝国軍の最新鋭の戦車や飛空艇の前に彼らは全滅した。
その生き残りが目の前におり、俺達はある意味警戒態勢を引き上げる。
獣人族が相手なら同い年でも普通に相手をしていても負ける場合があり、気合を引き締める必要があるだろう。
俺の相手はもう雰囲気からしてまるで違う気がするし、俺達はお互いに睨み合う状況を続けていたが先に動いたのは向こう側。
俺の懐に入り込んで来る鎧姿は俺の足元目掛けて剣を振るが、俺はそれを跳躍して回避する。
鎧はそのまま走り去ろうとするが、俺はそれを後ろ側から蹴りで牽制しつつ鎧の背中から斬りかかろうとする。
鎧は俺の方へと振り返り剣で受け止めようと剣を横に構え、俺はそれ目掛けて思いっ切り剣を振り下ろす。
「邪魔をしないで欲しい」
「あの人を襲うなら俺はいくらだって邪魔をする」
「異世界人である君には関係の無い人だろう」
「アンタは関係あるのか?」
「………あるよ。私達は復讐する権利がある。この国で、この世界で温かく呑気に過ごしてきた君には分からないさ。私達の憎しみが」
その言葉はどこか苦しく俺の心に突き刺さってくる上、その痛みに表情を歪ませる。
それは俺が心のどこかでずっと感じていた想い、この国で過ごす中で俺は充実した毎日を、幸せな出来事を感じる度に俺は「これでいいのか?」と思うようになった。
俺は………こんなに幸せでいいのだろうか?