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竜の欠片 3

 俺とヘーラという女性が同時に『刺殺の束』と呼ばれる攻撃を仕掛けると、お互いの武器から金属が次々と現れ、お互いの中心でぶつかり合い砕け合う音が聞こえてくる。

 負けじと両足で踏ん張り押し返そうとするが、奇妙な事に俺が押せているという事に違和感を感じた。

 その正体は深く考えずとも素早く答えとしてやってきた。

 足の負傷が治らないままのこの状況で、俺が押していても反撃できずにいるのだ。

 俺がこのまま押していけば勝てるかもしれないが、ヘーラが何をするのかが分からないこの状況で油断できない。


「ラウンズ」


 ヘーラの体から同じ姿形の騎士が突然俺めがけて近づいてくる。

 これも竜の欠片の能力か?


「ラウンズ!」


 しかし、俺の言葉に全く反応しない。

 俺までの距離まそこまで存在しないので、あと数秒で近づけるだろう。

 出来る事ならこの『刺殺の束』で騎士人形を攻撃したいと願っていると、刺殺の束である剣の塊はいきなり左右にも伸びていき騎士人形を飲み込んで破壊する。

 出来るとイメージすれば出来るという事なのだろうか?

 しかし、言葉に反応しなかった『ラウンズ』とやらは違うようで、まるで感触が無かったというのは少しばかりおかしい。


 このまま押し切るというイメージで剣を握りしめ、俺は力一杯押し切る為全身の体重を使って前へと一歩を踏み出す。

 一歩、一歩と踏み出していき、そのたびに全身に込める力を増していくと最後に何かが砕ける音と共に俺は前へと突っ込んでいく。



 疲弊して立ち上がれないまま白黒の世界で倒れていると、聖竜が俺の顔を覗き込んでくる。


「まさか刺殺の束を横に伸ばすとはな、歴代の竜の欠片の継承者では出来なかった行動だ。やはり君達の一族は『竜の欠片』の中では一番適合率が高いという事になるな」

「でも『ラウンズ』は使えなかったよ」

「勿論だ。あれは使用するのに条件が有る。詳細を教えるつもりはないが、『魂の欠片』が必要なのだ」

「………『魂の欠片』か。それってどんなものなの? 簡単に手に入る?」


 そう質問したところで聖竜が答えるつもりが無いと分かり期待していない顔をする俺、聖竜も答えるつもりの無い顔で返してくれる。

 で、問題はどうやってこの場所から出る事が出来るのかを審議する必要がある。


「どうやってこの場所から出ればいいんだ? 勿論知っているんだよな?」


 聖竜は右手の人差し指をヘーラのいた場所を黙って指さしているので首をそっちに向けたいが、仰向けのままでは首を向ける事が出来ないので面倒だが体を起こすことにした。


「よっこらしょ」


 なんて言いながら顔をそちらに向けるとそこには一輪の花が咲いていた。


「エーファ草という草だ」

「あれは花ですが? 頭おかしくなった? それとも目が悪いの?」

「重要なのは葉の部分が重要なのだ。それに花をつけるのは短い期間だけだ。あれには肉体を強化する特有の効能があり、その反面幻覚などの副作用が存在している。古くからこの草は長年呪術の中心として機能してきた。帝国軍は長年この草の出所を知る為に戦力を使っていたほどだ」

「軍はね………まあ詳しい事は聞かないけど」


 聖竜は知っているみたいな言い方に聞こえたけど、詳しく問いただしても多分はぐらかされるだけだろう。

 それよりその草をどうすればいいのだろうか?


「あれを剣で破壊すればいい。それだけでこの空間は破壊される。だがその前にお前に一つ言っておきたいことがある」


 俺は立ち上がりながら首を傾げる。


「まずは謝罪しておこう。後に謝る事になる。すまなかった。この世界に君を呼んだ原因に私が関わっている。勿論その全てが私の責任ではない。その一分に君自身の責任も含まれている。それは理解して欲しい」


 俺自身がこの世界に来る原因?

 なんで俺がこの世界に来なければいけないのだろうか、それがどうしても思い出せずにいる。


「それはいずれ分かる事だ。今は気にしないでいい。しかし、私達が何もしないでいても君はいずれこの世界に来ていただろう。それだけ、君はこの世界に来る理由がある。そして………明日君に試練が訪れる」


 なんか嫌な言い方をするので俺としてはこの際ハッキリと聞いておきたい。


「何? 何が起きるんだ? はっきり言っておいてくれ」

「明日になれば分かる。明日南駅の広場に行けばな……それ以上に私はこの事件に関わる事はしない。あくまでも君が仲間と共に乗り越える事が重要だ」


 また意味深な喋り方をする。

 もっとヒントになる言い方があると思うし、そういう言い方を選んで欲しい。


「君はきっと私達を恨むだろう。君がこの国を憎むかもしれないが、この国に生きる人間が原因ではないという事だけは分かって欲しい。私や相手を憎んでもいいがこの世界を憎まないでほしい」

「憎まないよ。今でこそ俺はこの世界に愛着があるんだ。それを今更憎んだりできない」

「ならいい。私が言いたいことは明日分かる。明日………君は試練の果てに信じるを知る。三年前の真実と、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 十六年前の事件?

 何の話だ?


 聖竜に問いただそうと思ったが、エーファ草を破壊することを優先した方が良いのだろうと剣でエーファ草を破壊する。

 エーファ草は光の粒子となって姿を消し、白黒の世界にヒビが入り始めるのを俺は焦ったように聖竜の方へと身体を向ける。


「十六年前の事件ってなんだ? それが俺に何の関係があるんだ?」

「時間が無いから知り合いにでも尋ねるといい。ジュリと行ったか? あの少女なら知っていると思うぞ。『北の近郊都市(きんこうとし)襲撃事件(しゅうげきじけん)』を聞いてみるといい。アベルにでもいいが、あいつに話すと一週間は身動きをしなくなるうえ、間違いなく引き籠る」


 それは困る。

 三年ぐらい前だろうか?

 父さんが岩にされてしまった事件が起きた時、人間に戻った時に父さんは太ってしまったのだが、その際ガーランドから『デブ』と言われたことを激しく気にして引き籠ってしまったことがある。

 あの人、打たれ弱く基本は幼い為に簡単に心が折れて引き籠ろうとする。

 一端引き籠ると周囲が困るというループが存在する上、明日事件が起きるのなら今日引き籠ると多くの人が困るので言わない方が良い。


「そろそろ時間だな。今度会うのは事件の後になる。その時は暴言を受け入れるつもりだ。だが………これだけは分かってくれ。決して私の本心では無いと弁明させて欲しい。こうするしかなかったんだ」


 聖竜は最後に力なく絞り出すような声を最後に俺の意識は現実に戻っていく。



 俺は目を覚ますと目の前には細く弱弱しくなり人間に戻ったテラ、周囲からは俺に対して歓声が上がっているのが見て取れた。

 俺はどうすればいいのか混乱していると背中からジュリが抱きついてくるので俺は驚きのままそれを受け入れるしかない。


「大丈夫? 全然帰ってこないから心配したんだよ! 本当に良かった………」


 鎧を寛恕した為にジュリの涙がダイレクトに俺の背中に伝わっていくのが感じてしまい、俺としては困惑の極みだった。


「大丈夫だよ………。でも、ごめん。もう大丈夫だから」


 ジュリは俺の背中から体を離し、ジュリの方へと振り返り笑顔を向ける。

 ジュリも又涙で目を赤く充血させているがそれでも精一杯の笑顔を俺に向けてくれる。


「そうだ………聞きたいことがあるんだ。『十六年前の北の近郊都市襲撃事件』って知っているか?」


 ジュリは驚きの表情になると口元を抑えてしまう。


 何?

 俺何か変な事を聞いたのだろうか?


「それ……アベルさんに聞いたの?」

「いや…違うけど。何? 父さんが関わっているの?」

「…………詳しい話は後で話すけど。アベルさん以外の住民が皆殺しされた事件が北の近郊都市襲撃事件だよ。アベルさんとガーランドさんが当時の傭兵団を壊滅させて終わったって聞いた」


 なるほど。

 そんな事を聞けば父さんは間違いなく引き籠る事になるだろう。

 父さんに聞かなくて本当に良かった。


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