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竜の欠片 2

 ヘーラ・ノームという女性を俺はよく知らないし、今の世の中であんな大きな突撃用のランスを使っている人間なんて聞いたことが無い。

 携帯性が全く存在せず、その上突撃用に特化している分凡庸性が低いランスで、間合いにはいられたら終わってしまうランス装備の中でもこのランスは扱いずらさでも有名だ。

 当時は今以上に前時代的な武器が多い時代だったのだろうし、今扱えば突撃する前に銃撃で死ぬか、回避されて終わりそうな装備だ。

 実際、剣やナックルや斧などが使用頻度の高い近接武器だが、ランスでも突撃用を使用する人間はかなり少ない。

 最もかなり大型のランスを片手で装備していることに驚いたが、よく考えたら竜の欠片で作り出せる装備は重量をコントロールできるはずだ。


「あのランスかなりの重さだぞ。ランスは重量も重要だからな。あえて重さを排除していないはずだ。重さはそのまま強さになるからな。軽さを重要視する武器とは違う。突撃用というだけあり、あの武器は非常に重い」

「あえて重量を残しているって事か、そんな武器を片手で装備している。動いてこないけどこの場所はまだ大丈夫だと考えていいのか?」

「ああ、あと五歩ほど進んだら間違いなく動き出すぞ」


 あと五歩というのはもう大広間の出入り口だろうし、別のルートを探しても大して変わらないと判断して俺は諦めて最初の一歩を踏み出す。

 少しずつ近づいていくうちに相手からの圧が強くなっていくような気がしていき、最後の一歩ではまるで目の前に大きな壁が存在しているような感覚を与えてくれる。

 強い。

 それだけはよく分かる。


 最後の一歩がまるで何キロもあるように感じてしまうが、こうしている間もジュリが危険にさらされていると思うと心苦しさの方が勝る。

 俺は大広間へと足を踏み出すと、ヘーラの顔が俺の方を向き、同時に彼女の顔を隠すマスクが見えたが、あれが俺にも存在しているのだと思う。

 ヘーラはランスを軽々しく持ち上げ、ランスの先をおれの方に向け、右足を半歩後ろに下げると突っ込んできた。

 俺は何も考えず真上にジャンプすると、ヘーラは見えない壁にぶつかってしまう。

 そのまま沈黙していてくれればいいのだが、彼女は壁を走り登っていきそのまま跳躍して俺の背中目掛けて突っ込んでくる。


「マジかよ!? 捻り斬り!」


 空中で体を捻る手段何てこの捻り斬りぐらいしか存在しないが、この技がカッコいいという理由で一番先に覚えてよかったと今になって思った俺だ。

 ランスの突撃攻撃を上手く回避した後、ヘーラはうまく地面に着地。

 俺も同じく着地するのだがヘーラは着地と同時に急停止、すぐさまにUターンして俺めがけて突撃をかましてくる。


 しまった。

 着地したばかりで回避が間に合わない。


 俺は緑星剣の強度を最大まで高め、同時に重量を上昇させることで密度を濃くさせ、剣の腹で攻撃を受け止める。

 しかし、両足の踏ん張りがきかない上、そもそも着地したばかりで準備もままならない状態での防御。

 ヘーラは両足を踏ん張って俺の体を片手で吹っ飛ばした。


 壁に激突した際に肺から空気が全部逃げていき、俺は痛みから悶えそうになる。

 この鎧が無ければ今毎死んでいるところだ。


「ガイノス流剣術………! 居合斬り!!」


 剣をまるで鞘に納めるように左腰まで近づけ、跳躍と同時に無防備になったヘーラの側面から首目掛けて斬りかかる。


 人体急所の中で剣が一番切りつけやすく、かつ狙いやすい場所は首だ。

 銃弾は心臓を狙いやすい場所だし、剣はその分首という事になる。

 下手に胴体を狙っても攻撃の仕方次第では重傷を回避することもできるので、剣での攻撃をする場合はなるべく首、その次に動きを封じるという意味で足を狙う。

 近接戦闘の場合はこの足を奪う事が重要で、足は機動力だけでなく踏ん張る際もこの足にダメージがあるかないかで変わってくる。


 しかし、この場合何故俺が首を狙ったのかというと、長期戦になると俺が負ける事が分かっているし、ランスだけならともかくシールドは厄介だと思ったからだ。

 シールドで受け止める前素早く首を切り落とす。

 しかし、ヘーラは俺の攻撃をシールドのど真ん中で受け止め、攻撃をの軌道を上へとそらす。


「嘘………だろ?」


 ほぼ零コンマの攻撃をシールドのど真ん中で受け止め、それを真上に弾くなんて芸当が簡単にできるとは思えなかったが、ヘーラはそれをいともたやすくやってのけた。

 そのまま間合いまで踏み込んだ俺をランスの側面の丸い部分で叩きつけてくる。

 俺の体が半回転しながらすっ飛んでいき、ヘーラはそのままランスの矛先を俺に向けて突っ込んでくるのが見えた。


 空気を吸え!

 肺に空気を吸い込み、集中しろ!

 何も考えずに攻撃するから弾かれるんだ!


「ガイノス流剣術! (ざん)刹那(せつな)】」


 俺は攻撃を受けるギリギリまで引き付け、ランスを右足で踏みながら跳躍しヘーラの喉元目掛けて剣を横なぎに切りつけるが、あと少しと言う所で俺の攻撃は鎧に阻まれてしまうが、ヘーラの体は正面からやってきた衝撃で転んでしまう。

 俺はうまく着地し、もう一度斬撃を仕掛けようと試みるが、すぐさまヘーラはシールドを自らの喉元に起き防御の構えを取る。


「なら! ガイノス流槍術! 突貫【瞬】」


 回避されないようにガイノス流の流派の中で一番早い突貫の中でも一番早い型である『瞬』をヘーラの左足首目掛けて向け、左足首に俺の剣が突き刺さり、白黒の血が俺の足元にまで広がり、俺はそのまま剣を引っ込める。


 狙いはうまくいき、俺はそのまま斬撃攻撃に切り替える。


「ガイノス流剣術! 漸【六花(りっか)】」


 漸という名前の攻撃は例外なく斬撃攻撃で、その中でも六花は六連続攻撃と一番長い連続攻撃だ。

 最初の斬撃を斜め下からの持ち上げ攻撃でシールドを上へと持ち上げ、今度は左からもう一度反対歩行へと持ち上げてからシールドが緩んだところを俺は下にたたきつける。

 シールドが下に叩きつけられ、首元に隙が出来た所を俺は最後に六撃目を横なぎに切りつける。

 ヘーラはランスで俺の攻撃を受け止めるが、俺は負けじと剣を両手で握りしめ力一杯踏み込む。

 鍔迫り合いのような感じにもつれ込み、俺はそのまま一気に押し倒す。


 ヘーラは完全に尻餅をつく形になり、俺は緑星剣で斬りつけようとしたがそれよりも前に聖竜の大きな声が俺の耳もとにまで届いた。


「袴着空! 横に逃げろ!」


 俺は本能的に後ろに飛ぶと、彼女の声なのか分からない様なボソボソとした声が聞こえてきた。


「刺殺の束」


 ランスの先を俺の方へと向け、ランスの塊が襲い掛かってくるという表現が正しい現象に襲われた。

 俺は聖竜の忠告通り真横に逃げたために深刻なダメージだけは回避した。


「あんな攻撃まで………さっきまでは本気じゃなかったわけだ」


 舐められたものだと思う。

 要するに俺はこの程度で楽勝だと思ったとのだと思うと少しだけ苛立ってしまう。

 それにあれが竜の欠片の力なら俺にだって使えるはずだ。


 ヘーラは立ち上がり俺の方へとランスの先を向けてくる。

 あの足のダメージで突撃攻撃が出来るとは思えないので、たぶんまた刺殺の束なる攻撃を俺に仕掛けてくるに違いない。

 ならこちらも同じ攻撃を受けるしかない。

 俺はなれない攻撃だが、向こうは片足にハンデを抱えているし勝てる見込みはある。

 見よう見まねで俺は剣を一旦引っ込め、突きを繰り出す要領で剣先を相手に向ける。


「刺殺の束!!」

「刺殺の束」


 緑星剣の束とランスの束がちょうどど真ん中でぶつかり合い砕け合う音が聞こえてくる。

 勝敗の行方はまだ分からなかった。

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