テラ・リアクティブ 3
俺がこの皇光歴の世界に来るほんの数前の出来事、俺は西暦世界の中学の林間学校からの帰り道のバス、帰路を間違えたバスは山間部の中を走っていた。
俺の右隣では隆介という男友達が自分が必死にプレイしているゲーム自慢を、左隣では女友達でジュリとそっくな見た目をしている堆虎とたわいのない話をしていたのだが、その間バスの前方では担任の教師とバスの運転手が多少修羅場っている。
まさか、その後にあんなバス事故が起きるとは思わなかった俺は隆介の話を聞き流しながら、堆虎とたわいのない話をしており、視線を常にバスから見える崖の方をずっと見ていた。
(なんか見たことのある景色だな)
なんて思ったが、どこにでもある風景だとさほど気にしなかった。
そんな時である視界が反転したと思った時には俺はとっさに堆虎を抱きしめており、バスが回転しながら谷間に堕ちるのだと本能が察してから俺の意識が衝撃で消えるのにさほど時間はかからなかった。
意識を失っている間、まるで自分の体が浮いているような感覚が遅い、堆虎の声が聞こえてきたような気がするとゆっくりとだが瞳を上げようと努力する。
中々目が明かず開けていく視界の先に……ジュリが居た。
その一分後に父さん事『アベル・ウルベクト』と出会った。
なんで自分がいきなり昔の事を主出したのかというと、俺は呆けている間にテラの攻撃が数センチ先にまで迫っていたからだ。
ジュリの一声でしゃがみ込み、攻撃が俺の頭上を通り過ぎていくがその間に強い風が俺の顔一体に寒気を与えてくれた。
果たしてこの寒気が風が与えてくれるものなのか、それとも攻撃の鋭さから来る者なのか。
俺自身が装備しているエメラルドグリーンの鎧は果たしてこの攻撃を受け止めてくれるのか、そんな事を考えながら一旦距離を取ろうと両足に力を籠め、一気に後ろに跳躍してから再びテラの方を見る。
一台の車に突き刺さった腕を抜き取り、血だらけの右腕の傷は瞬時に治っていく。
もう人間の力では計り知れない存在になろうとしているように感じていくのだが、もう殺すしかないのだろうか?
正直殺す以外の方法が見当たらないし、そもそもこの化け物をどうにかする手段が俺にあるのか、というよりそもそもこの鎧は何なのかなんて疑問が次々とやってきて対応できそうにない。
しかし、俺の疑問を吹っ飛ばしてくれる言葉がジュリから飛んできた。
「ソラ君集中して!」
そうだった。
そうしなければ殺される状況なんだ。
昨日嫌というほど教わった事だ。
命懸けの戦いに対して手加減をしている余裕があるわけじゃないし、そういう状況ほど自らの命に係わる。
それに今回はジュリの命もかかわっているのだ。
剣を握り直しテラの首を切り落とそうと呼吸を落ち着かせ、テラが攻撃を仕掛けてきたタイミングで俺の剣をテラの首元に向けて振り下ろそうとするが、テラは恐ろしいほどの反射神経で攻撃を掻い潜ろうとする。
俺は無理矢理攻撃の軌道を変更し、斬撃をテラの胴体に斜めに与える。
寺の胴体から大量の血が周囲に噴出し、テラは呻き声を上げながら苦しむそぶりを見せる。
そんな時だった。
あれほど瞬時に回復して怪我がまるで回復するそぶりを見せない上、テラ自身もそのことに疑問を感じたのか大きな雄たけびを上げポケットの中から注射器を取り出した。
あれが注射器だと分かったのは、テラが自分の首に拳銃のような見た目の道具を当てた時だった。
テラが余計な事をする前に腕を切り落とそうと俺は再び跳躍し、右腕目掛けて剣を振り下ろそうとするが、それより早くテラの左腕が俺の体を横から襲撃した。
また鎧に助けられた。
この鎧が俺の身を守ってくれたおかげで致命傷を避けることができたが、俺は空っぽになった肺に空気を送り込み体全身に血液が流れていく感覚を得ていき、全身の筋肉が再び叩ける状態になると同時に俺はもう一度テラの方を見る。
テラはもはや元の外見をしてはおらず、爬虫類の獣というか恐竜と人間のハーフ、尻尾が生えてきており、両腕両足にも鱗や強靭な爪が生えてきているのだが、正直気持ちが悪い。
嫌悪感が最大値まで高まりそうになり、同時に全身の神経が逆立っていくのが見て取れる。
ジュリから引き離した方がよさそうだと思い、テラに真後ろに回り込んだ状態で斬りつけるのだが、テラの背中から鋭い針が俺の体中を襲い掛かる。
鎧に当たる音と同時に衝撃が体中を襲いかかるが、俺自身はダメージは少なく済んだのもこの鎧のお陰だった。
ていうか背中から針とかいよいよ人間ではなくなってきたのだが、そもそも見た目からして人間からかけ離れている。
一台の監視カメラが二人の戦いを見ていることに俺は気が付かなかった。
サクトの予想はある意味辺りテラはソラと遭遇して戦闘をしている風景を部下が見つけ出し、監視カメラ越しに戦闘を見ていた。
今すぐにでも介入したいところだが、拘置所の案件で精一杯な状況であり、直ぐに状況を落ち着かせてソラの援護に向かいたいサクト。
軍本部前で監視カメラの情報を見ながら部下へと指示を飛ばし続けるサクトの前にアベルが重役出勤を果たしていた。
「全く……皆が仕事で忙しいのにあなたは相も変わらずマイペースな。軍本部から事件の案件が貴方に行かなかったのかしら?」
「? 来たが? お前達なら対処するのに時間がかからないだろうし、私のやること無いだろ?」
「あなた………本当にいい性格しているわよね。ソラ君がピンチだという時に………」
サクトは携帯越しにソラの戦いを見せるが、アベルは目の前に映る鎧の男がソラだと理解できなかった。
「ソラ君よ。鎧が突然現れて体中に装備されていったのよ。ねえ……これって」
「うむ………『竜の焔』じゃ無いな。竜の焔は武器を創造する力を持っているが、防具は作れないはずだ。これは『竜の欠片』の方だろうな。最近私の竜の焔が異常なほど力をためていると思っていたが、ソラの『竜の欠片』の影響を受けていたんだな」
「聖竜はあの時『竜の焔』を与えると言っていなかった? あそこで嘘を吐いたのかしら? それともこれは本人が意図しない形で起きたこと?」
「前者がともかく後者はないだろう。自らがコントロールしている魔導を知らない間に他者に与えたり、知らない間に他者に与えらえるとは思わない。意図的に嘘を吐いたのが正解だな。最もその理由までは分からんが」
サクトは右手を顎下に置き少しだけ考え込むと、ゆっくり顔を上げて記憶の片隅に押し込んでいた情報を口にする。
「『竜の欠片はその力の強さ故に運命によって試練を与えられる……、その試練はおのずと所有者を戦いの場に送り込むこととなる』」
「なんだ? 古い言い伝えか?」
「ええ、昔何かの本で書いてあったのよ。あなた達が竜の焔を貰うと聞いて調べたことがあったのよ。その時に同じページに竜の欠片に関する項目があったわ。実際歴代の竜の欠片の継承者の最初の一人は必ずと言ってもいいほどに試練に見舞われていると」
「フン。それこそ言い伝えだろう? それが聖竜が嘘を吐く理由とどう結びつく」
サクトはそう言われてしまうと反論の余地が存在しなかったが、しかし気になってしまった事ではある。
もしそうならと。
(もしそうなら………ソラ君はこれから試練が待ち受けているという事に……)
たった十六歳になるような少年にそんな過酷な運命を押し付けられる事がサクトの胸に痛みを与えていた。