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竜達の旅団≪ドラゴンズ・ブリゲード≫~最強の師弟が歩く英雄譚~  作者: 中一明
シーサイド・ファイヤー≪上≫
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意地と遺児 4

 水上オペラの綺麗な歌声をあとにして俺達二人はそのまま人混みに紛れるようにオペラ会場を去っていった。

 そのまま大学前まで移動する過程で、彼女が『あるもの』をよけようとしていると気が付いたので、俺はそっと訪ねてきた。


「猫が苦手なのか?さっきから逃げているけど………」

「………孤児だった頃、裏路地で引っ掛かれたことがあって……」


 今孤児と言ったか?


「アメリカのように大きな土地がある様な国では孤児は別段珍しくありませんよ。特に路地裏でホームレスのように生きる孤児達は多い」


 そう言いながら小さな小道の前でふと止まる。

 その小道の奥では一人の少女がレストラン裏のゴミ箱を漁っているのが見て取れ、中からパンの残骸を拾うとその場で食べ始める。


「この国でもそれは変わりませんか………これだけ大きな国ではそうなるでしょうね………この国は建国から何年が経っているのですか?」

「何年は間違いだな。二千年以上続ている唯一の国だ。多分二千年も続ている国は西暦の方にだって存在しないだろう」

「そうですね。同じ名前で……しかも二千年以上も続いてきた国も珍しい。それだけこの国が『強い』ということです」


 強いという言葉の言い方に一定のニュアンスの違いを得た。

 何か意味があるのか、それとも意味なんてないのか俺には全く分からないが、俺が突っ込んでもいい話ではない気がする。


「ガイノス帝国は自ら侵略したことは一回も無い、でも侵略をされた回数は十や二十じゃない。それだけの回数侵略を受けてくれば力も強くなる」


 それがガイノス帝国の最大の力の秘密。


「侵略を受ける度に追い返し、そのたびに新しい領土を獲得していった。ガイノス帝国は植民地と言ってもいい場所が非常に多い。俺達はこの場所の事を『自治区』と呼んでる」

「自治区………帝国に所属しながら自治を任されている場所の事ですね」

「なあ………あんた」

「私は………ある時両親を失いました。辛かったし、何より生きる意味を見失いました。国見出されてエージェントとして訓練を受けるまでの一年間は私にとって死に等しい人生でした。父は優秀な軍人でしたから………その経緯で私は見出されました。国に拾われた私は父の遺児として、何より私が生きる意味として国に尽くす………それが私の覚悟です」


 それはきっと意地のような物だろう。

 俺の意思ではとてもではないが届きそうにない。

 強く、強固で、その上しなやかな意地を持ち合わせているケビン。


「アンタ……強いんだな」

「あなたも強いを聞いています………」

「俺のように単純な力としての強さじゃない。この場合は意思の強さだ」

「それだって……あなたは十分強いと聞いていますが?あなたは多くの人の意思を背負っていると………でも、どうしてあなたはあれだけの人の意思を背負いながらそれでも前に進めるんですか?」


 彼女は橋のど真ん中で体を止め、いったん俺の方へと身体ごと向けてくる。

 綺麗な顔立ちも、透き通るような白銀の髪も全てが俺の方へと向く。


「どうして?どうしてそんなに強くあれるのですか?」


 そんな風にまっすぐに尋ねられてしまうと、どうしても答えずらいものがある。


「……強くあるわけじゃないけどな」


 そんな風に言いながら俺は彼女の隣を歩いて行き、彼女の前で停まりながら橋の上から向こう側を覗き込む。

 手すりに両手を添え、別に何かを見るわけでも無い視線を泳がせる。


「でも……逃げられないだろ?生きるって事は命のバトンを託されるバトンリレーだ。俺は三十九人からバトンを確かに託されたんだ。それだけじゃない。多くの人から託されたバトンを俺はきちんと引き継いでいきたい」


 三十九人と王島聡と木竜………本当の父さんやこの世界の母親ともう一人の俺、多くの人に託されたこの『バトン』を俺は抱えていきたい。


「どんだけ辛くても、どれだけ苦しくても、どれだけ生きることが嫌になっても……俺は逃げるわけにはいかない。生きた証を胸に抱きしめて歩いていきたい。忘れたくない、俺は剣だ。彼らは星なんだ。()()()()()()()()()()()()()()()


 星屑の鎧に描かれているマーク。

 三十九の星々とその真ん中にある一本の剣。


「俺は世界を守る剣。そして、彼らは俺を守る星々なんだ」

「だから………星屑の鎧ですか」

「俺の足元には多くの屍がある。その上を俺は歩いている。だからこそその屍から顔を背ける事は他の誰でもない彼等への裏切りだと思うから」


 運命なんて言葉でくくるつもりは無いし、宿命なんて安っぽい言葉で一纏めにしたいとは思わない。

 俺の身に宿されているこの力、それを託された意味なんてずっと考えている。


「だからあんたに協力をする。だから……教えてくれ。アメリカは取引で何を望んでいる?」


 アメリカ合衆国がそんな理由でここにエージェントを送り込むとは考えられ無い。

 絶対裏で取引をしているのだろう。


「ガイノス帝国との詳しい取引内容を私は知りません。しかし、おおよその内容ぐらいは想像できます。恐らく『魔導機』を欲しているのでしょう」


 アメリカは西暦世界には無い『魔導機』が欲しいのだろう。


「好奇心で聞くのですが、魔導機とは簡単に手に入る物なのですか?私にはそうは思えません」


 一瞬疑ってはみるが………別に話して問題ない事ではある。


「竜の体内で作られる結晶事『竜結晶』を鉱山などの奥地に埋めると周囲の鉱石を『魔結晶』と言う名前のエネルギー結晶体に変わるんだ。この魔結晶を加工してある機械に埋め込むと完成する。この『魔結晶』こそが力の源だ。これが無いと話にならない。そもそも竜は神格化されていて無断で狩ればガイノス帝国が黙っていないしな……」


「魔結晶というのはどれぐらいで完成するのですか?」

「埋め込んで約百年」

「ひゃ!? そんなにかかるのですか?」

「そうだよ。だからガイノス帝国は産出に非常に神経を使っている。この魔結晶の出荷で最大国はガイノス帝国だ。全体の約八十%だ。それだけ言えばどれだけやばいのか位は分かるだろう?」

「ええ、同時に祖国がどうしてどれだけ欲しているのかも………魔導機とはただの兵器なのですか?」

「いいや、それは違う。魔導機は生活必需品としても非常に高い価値があって、例えば………この街灯」


 俺は端に備え付けられている街灯に触れる。


「この街灯だって魔導機動いているし、最近では車とかでも魔導機を搭載しているタイプも存在する。永遠に動くエネルギーだ。アメリカが欲するのも分かる気がする」

「この世界では帝国以外にはこの魔導機を生産していないのですか?」

「いや、帝国より数は多少落ちるが、質のいい魔導機を生産する国がある。でも、あそこは帝国と魔導三国(まどうさんごく)と呼ばれるような国で、そもそもあまり他の国信用しない。この世界だって決して一枚岩じゃないしな」


 俺は橋を渡り終える為に歩き出すと橋の反対側にレクターとジュリが手を振っていた。


「取り敢えず。俺達の用事に付き合ってもらうからな………悪いけど…」

「それは構いません。それで『バル』の行方が分かるのなら」


 俺は二人に近づいていく。


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