テラ・リアクティブ 2
バイクで走って移動していると後ろから追いかけられていると感じたのは帝城前広場を通り過ぎ南区を縦断するメインストリートに入ってからの事。
ずっと後ろからピッタシ追いかけてくるバイクを見つけ出したのだが、最初は偶然なんだと言い聞かせていたが、待ち合わせの為に新市街地への道に入ってから理解した。
相手が何の目的に付けていたのか、何が理由なのかがまるで理解できず、俺はどういう手を打つべきなのかが分からなかった。
実際新市街地に入ってからも俺は何も手を打たないまま適当な所で撒こうと曲がり角を左側に曲がってから対向車線をはしていた一台の軽自動車が俺の方へと突っ込んで来る。
車道の境目にあるガードレールをぶち壊し、俺の方へと近づいてくる軽自動車に驚きながらも俺は落ち着いて行動することにした。
腕に付けている魔導機を起動させ軽自動車の車線上に風の弾丸を飛ばし、軽自動車を上空に打ち上げる。
軽自動車はアスファルトの地面から浮かび上がり、その間を俺はバイクを転倒させないレベルで低く倒しながら通り過ぎる。
俺の体と軽自動車の屋根が本当にギリギリの所を通り、俺は体勢を起こしながらなんとか体を起こす。
すると後ろから追いかけていたバイクが軽自動車をバイクに乗りながら俺の方へと投げ飛ばすのだがか面食らう。
俺はバイクの姿勢を反対側に走らせ、目の前にあるメニュー画面でバイクの逆走を命令してから緑星剣を呼び出す。
簡単に切れるとは思わないが、ここで切らないと俺の命に関わると考えて気合を入れ直し、やってくる軽自動車を緑星剣を思いっ切りぶつける。
バイクが物凄い勢いで爆音を上げ、俺の緑星剣が軽自動車の側面で火花を散らし始め俺の顔面に火花がやってくる。
もっと固く、もっと強く、俺の頭の中で軽自動車を切る様なイメージを強くし、俺を緑星剣に反映させようと試みる。
『竜の焔はイメージの力。所有主のイメージが自分の武器の力になる。切れるとイメージすれば切れるほどの切断力や強固な堅さを造る事が出来る』
俺が去年の秋に聖竜から与えられた魔導『竜の焔』を貰った時、聖竜からそう教わった。
イメージが力なのは魔導機と同じだが、武器自体は俺の心で扱いやすい形が無意識に想像されるらしく、この片刃直剣も俺が無意識にイメージしたものである。
俺のイメージがまるで緑星剣を強く硬い剣に変えていくのだが、それ以上に緑星剣から淡い緑色の光を放ち始める。
剣が深く食い込むともうとそのまま緑星剣は軽自動車を真っ二つに切り裂いた。
安心しているとバイクが俺に向かって突っ込んできてしまい、俺はバイク乗りが突き出す拳を剣の腹で受け止めながらお互いにスリップしながら道路のど真ん中を回転してしまう。
至近距離でもバイクのヘルメットが邪魔をしてイマイチ相手の顔を視認することが出来ず、大きな体格の男位にしか見えない。
俺は相手のバイクを思いっ切り蹴っ飛ばし、一旦距離を取ろうとするのだが相手はそれでもしつこくぶつかろうと速度を上げてくる。
このままで周囲への被害が加速度的に増えていくと考えた俺はバイクのメニューを操作して俺が離脱した後に父さんの元へ向かうようにと指示を出す。
バイクから飛び降りて相手の体目掛けて思いっきり剣を叩きつける事で相手をバイクから叩き落した。
俺と相手がアスファルトの上を転がり回りながら転倒し、バイクは電柱にぶつかると周囲にの草木を巻き込みながら炎上していく。
俺は立ち上がり自分の体に傷が無いことを確認し、バイクが視界から消えていくのも確認後相手の素顔だけでも確認しようと一歩前に出る。
相手の男はまるで何事も無かったように立ち上がり、バイクのヘルメットを取り外すとテラの歪んだ表情が現れた。
拘置所で捕まっているはずのテラがここにいるという事、そもそも何のためにここにいるのか、様々な考えが脳裏に過り結果から見て俺は驚きのあまり足を止めてしまった。
そもそも目の前にいるテラが本物なのかどうかすら怪しい話で、実際前に見た時とは全体的に相違がある。
というより………前に見た時より十センチほど高くなっているし、肩幅も大きく表情もまるで獰猛な熊を連想させるほどに歪み切っている。
「だ、脱走したのか? 拘置所からの脱走何て聞いたことが……」
拘置所だってかなりの設備が備えてあり、防衛機能もあるはずだから少なくとも子供の手で脱獄が出来るほど簡単には出来ていないはずだ。
だが、それでも脱獄したという事は方法は少ないはずだ。
「誰かに手伝ってもらったのか? その姿はその結果なのか?」
テラは荒い息を周囲にまき散らしながら興奮しており、俺の方へと一歩一歩近づいてくる姿を俺は気圧されそうになっていた。
しかし、俺はここで逃げるわけにはいかない。
昨日必死になって特訓した成果を俺は見せなくてはいけないと思い、緑星剣を強く握りしめ襲い掛かろうとしている相手とのタイミングを合わせる。
襲われると分かっていたら後はタイミングを合わせるだけだと意識をテラの方へと向け、テラは俺との距離があと二十メートルの所で予想通り走り出す。
俺はテラが走り出すタイミングで同じく走り出し、テラの攻撃タイミングをずらしながらテラが伸ばす右腕を肘の部分目掛けて緑星剣の刃を斜め下から上目掛けて振り上げる。
テラの右腕が空を舞い、テラから通り過ぎていくのだがテラの悲鳴が俺の元にまで届き俺は胸に締め付けられる思いを抱える。
悲鳴が止んだタイミングで振り返ると俺の視界の右側に腕のようなモノが見え素早くしゃがみ込む。
俺の髪の毛を何かが触れる感触、それも普通に頭に当たっていたら首から上が吹っ飛びかねない。
跳び逃げながら視界でテラの姿を確認すると俺の視線は切り取ったはずの右腕の方を向いていた。
「な、なんで!?」
もし再生したのなら人間の速度では無いし、もしそうでなくても目の前で普通に攻撃できている時点で人間としてどうかと思う。
普通の人間ならもだえ苦しむ所だし、痛みが引いている所もそうだがどこか人間離れをしている気がする。
「おまえ……本当にテラなのか?」
何も答えないテラの姿を見ていると不安になっていき、俺は目の前にいる化け物に対してどう対処すればいいのかと思考を巡らせる。
腕を切っても駄目、となると首を斬るしかないのだがそれだけはどうしても躊躇いをまだ覚えてしまう。
「ソラ君!?」
「ジュリ? どうしてここに?」
「騒ぎを聞いて! 大丈夫!?」
「駄目だ! ジュリは其処にいてくれ! 俺が守るから………君は何としても俺が守るから」
路地裏から走って現れたジュリは肩で息をしながら俺の方に近づこうとするが、俺はそれを何とか引き留める。
ここで俺が守る必要がある。
殺すつもりでいかないとジュリを守れない。
剣先を真直ぐテラの方へと向けるのだが、その時俺は自分の右腕にエメラルドグリーンの緑星剣と似たデザインの西洋風の籠手が装備されていることに気が付いた。
戸惑いを覚え何とか外そうとするが、その前にテラが襲い掛かってくるので俺は仕方なく剣を振って抵抗するのだがテラは俺の攻撃を掻い潜ろり俺の腹目掛けて思いっきり拳を叩き込んだ。
吐き気を覚え俺の体後方へと吹っ飛ぶが、思いのほかダメージが少なかったことに驚きつつ急いで態勢を元に戻す。
また俺の懐にまで近づいてくるテラから逃げる為に両足に力を籠めると俺の体は予想もしない形で吹っ飛んでいく。
何とか両手を地面に付けながら自分の体を確認すると、足と胴体に西洋風の防具が装着されている。
いつの間にとも思うのだがそんな事を気にしている場合ではない。
とにかく猛牛のような形で突っこんでくるテラに立ち向かおうと睨みつけると俺の視界が一瞬だけ緑色の輝かしい色で染め上げられる。
テラの一撃を回避し一台の車の側面に俺の姿が映ったのだが、そこには見慣れない竜を模したようなデザインの緑色の西洋風の鎧を着た怪しいマスクまで付けた俺の姿があった。
「なんだ………これ」




