テラ・リアクティブ 1
翌日、曜日は金曜日を迎えており本来なら明日から始まる土日を前に一尾の人達はウキウキさせるのだろうが、昨日の事件で俺はどうしてもそんな気持ちになれず、しかし同時に今日はジュリとお出かけできるのだと思うと少しだけ浮かれそうになる。
まだ付き合っていない二人だけれど、なんだかんだ言ってこうして二人で出かける機会は少なかった。
レクターや周囲が付いてくるパターンがあるし、今日みたいに皆が用事というのも珍しかったりする。
しかし、俺は別の意味でも今日という日を楽しみにしていたのは間違いがなく、父さんが仕事に行く前にあるお店に顔を出し、その足でジュリとの待ち合わせの場所に向かうことにした。
今年の二月に俺はバイクの免許を取り(ガイノス帝国は十五歳になるとどのバイクの免許でも取る事が出来る)、同時に記念にと父さんが最高級かつ高性能なバイクを買ってくれた。
今日は其のバイクを受け取りに行く日になっており、今日の為に時々バイクを借りてはコソコソ練習をしていたのも全ては今日の為。
父さんと一緒に家を出て二人で高級バイクを受け取りにバイク店に向かう。
バイク店は東区寄り、帝城前通りをグルリと東区の方へと向かえば辿り着けるが、さすがにバイク店まで歩いて行けば二時間近く掛かる為、ここはトラムで(父さんは車を持っていない為移動はトラム)バイク店まで急ぐ。
十時開店のお店の前で出待ちし、そのまま中でバイクを購入する手続きをする父さんを後ろで見ながらバイクを触って待っていた。
真っ黒で大型のバイク、全体的に胴長で太くできているのだが、それ以上にこのバイクは軍が開発に関わっているだけあり武器等色々な物を収納する便利な機能や、AIを使った自動運転機能など多機能が売りにしている。
早くこのバイクを乗りこなしたいと俺はウズウズして待っていると父さんが書類と一緒に戻ってきた。
俺は道路前で乗り込み、ヘルメットを被った状態でもう一度父さんの方を見た。
「安全運転でな」
「分かってる。軍本部まで送ろうか? 遅刻でしょ?」
「別に構わん。どうせやる事と言ったら昼からある訓練ぐらいだ。戦争が終わってから暇でな」
「それって軍人としてどうなの? まあいいか。なら俺はこのままジュリとの待ち合わせ場所まで行くけど……今日の夕飯はジュリと一緒になるかも」
「なら夕飯はパパティーノがいい」
それより遅刻していく上定時通りに帰れるのだろうか? 俺が上司ならむしろ残業しろと命令する所だ。
まあ、この人上の命令に中々従わないと有名だし、ガーランドと合わせて結構有名人で、学生時代は一歳差こそあれど問題児として有名だったらしい。
手当たり次第に問題に突っ込んでいき、サクトがそこに巻き込まれていたとのこと。
俺やレクターは教書職員の間から「新しいガーランドとアベルだな」なんて言われる。
なんでもガーランドは時折学校で武術の教員に出かけており、その際に「アックスと呼ぶな。ガーランドと呼べ」と問題を起こしているらしい。
ちなみに俺がガーランドに似ていると言われ、レクターは父さんに似ているといわれる。
もの凄い嫌な言われ方である。
出来れば逆にしてもらいたいが、なんでも父さんが騒ぎを起こし、ガーランドがそれを解決するという流れで、そこでサクトがうまく仲介していたらしい。
今でいえばジュリがサクトの流れになる。
そう思うと俺としては否定しがたい状況でもある。
まあ、父さんが定時通りに帰るのなら気にしないことにし、俺はバイクのペダルを強く踏んで道路から出ていくとミラーで父さんの姿を一瞬だけ確認すると俺は帝城前広場までの道を戻っていく。
この時は気が付かなかったのだが、俺はどうも家を出たあたりからつけられていたらしい。
サクトが異変に気が付いたのは仮眠室で一旦仮眠をとっていた時の事、朝の五時まで仕事をし三時間だけ寝ようとして七時に起こされた時だった。
息子と娘には今日は帰らないとだいぶ前に連絡を取り、安心して眠れるだろうと寝ている最中の事だった。
「サクト中将! 先ほど拘置所から連絡が入り何者かが襲撃して複数の子供が脱走したとのことです!」
「何ですって!? 周辺の被害状況は?」
「既にガーランド中将が動いており、民間人に被害は無いとのことですが、拘置所の被害は大きく当分は昨日できないとのことです」
「私達は脱走した子供たちの捜索と襲撃犯の背後関係を調べなさい! アベル君は!?」
「それが今日は遅れると………なんでも息子さんにバイクを買うからとかなんとか……」
「この非常事態にまでマイペースな……まあいいわ。なら彼の部隊に出動命令、アベル中将が到着するまでガーランド中将の援護。ガーランド中将は民間人の安全の方に注力するようにと伝えて」
サクトは素早く服を着替えて眠気で少しだけふらつく体に鞭を打ち素早く仮眠室から出ていく。
こうしてはいられないとサクト自身問題の現場に辿り着くと既に拘置所周辺では争いが終息に向かっており、拘置所の中からガーランドが歩いて現れた。
「ガーランド君。拘置所の中の被害状況は?}
ガーランドは渋めの顔をしながら拘置所の方へと目線を戻し、あくまで最低限の形で被害状況を口早に説明する。
「職員十名が重軽傷、中で捕まっていた子供たちの中にも被害が多数、特に酷いのはここの警備に当たっていた警察官などに死亡者が出てきた」
「そう………切っ掛けは何だったの?」
「それがな、突然トラックが突っ込んできたのかと思うと中から武装した集団が現れったらしい」
「共和国の仕業という線は?」
「限りなく低いな。理由として武装手段は帝国製の武器を使っていたうえ、共和国兵が入国したのならどこかで俺の部下かが情報を手に入れているはずだ」
「なら内部犯という事になるけれど………心当たりがあるかしら?」
「無いわけじゃないが……私はまだ確信を持てずにいる。恐らくこの一件は聖竜が承知の話だと思うぞ」
ガーランドはサクトを引き連れて拘置所の中へと戻っていき、血の跡やや銃弾や斬撃の痕跡が深く残る拘置所内。
「犯人グループは地下路線や下水道を通って脱出。その際に大きな穴が開いてしまっているがそこは俺の部隊をつけてある。今日中に拘置所内の子供達は別の施設に移動させるようにと上に申告済みだ」
「明日のパレードも今回は中止になるでしょうね」
ガーランドが一旦足を止め深刻そうな表情を作り出す。
「明日のパレードは行うそうだ。元帥自ら決定した話だ」
「この状況下で? 中には呪術に手を出した子供も混じっていたのよ?」
「この決定は覆らないそうだ。既に皇帝陛下の許可ももらっているらしく、最高議長も承認したらしい」
「そう………最高議長が。ますます聖竜が承知している事態みたいね。脱走した子供たちは分かっているの?」
「ああ、殆どが呪術を使用した子供達だったな。先日捕まえたテラとかいう奴もこの中に混じっている」
ガーランドから手渡されたリストの中には戦争中に少年兵として共和国に協力していた者まで存在している。
サクトは辿り着いた大きな大穴の前に立つと真っ暗な闇の向こう側そっと覗かせる。
「ここから先は私達の部隊で捜索させるわ。ガーランド君は民間人の安全を」
「それはいいが………当てがあるのか?」
「無ければ作るだけよ。それに一人だけなら心当たりがあるのよね。もしかしたら……程度の心当たりなんだけど」
サクトは立ち上がり携帯をポケットから取り出した。