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ガイノス帝国 4

 俺が住んでいるウルベクト家は帝城前通(ていじょうまえどお)り、帝城前広場から歩いて五分の所にある目の前を帝城と帝湖(ていこ)が見渡せる場所にあり、俺の部屋からはその帝城が橋と共に見渡せる。

 だから買い物袋をたくさん持ちながら俺と父さんは家に帰宅するルートに入っていた。

 あとは帝城前広場から横断歩道を渡れば家が見えてくるが、俺は幼い頃より父親を知らない。

 奈美が生まれてすぐに父さんは事件で亡くなり、俺と妹は母さんの手で育てられた。

 お祖父ちゃんやお祖母ちゃんも居ないので、親戚づきあいも近所に集まっている人間位だった。

 だからこうやって父親代わりとはいえ父さんと一緒に歩いて帰るというのはこの三年間で未だになれない状況でもある。


 西暦世界では基本料理は母さんと俺が交代で担当しており、母さんは和食全般を、俺は洋食全般が作れる。

 なのでこの世界に来てガイノス帝国が洋食全般である事に安堵を覚え、同時に一人暮らしで料理もできないこの人がシステムキッチンの最新型をもてあましているという状況に違和感しか存在しない。

 そもそもどうしてシステムキッチンの最新型を持っていたのかが気になる所だが、そんな些細な話をなかなかできないでいる。

 というより男親に対する接し方がよく分からない。


 目の前を歩いている父さんの背中を見ても俺にはどう声を掛けたらいいのか分からない。

 父さんが俺の方をチラチラと見ながら話しかけてきた。


「学校は楽しいか? 向こうと違うところが一杯あるはずだと聞いている」

「学校? 楽しいよ。ジュリやレクター達もいるし、まあ学校のシステムが違うから戸惑っていたこともあるけど、でも最近慣れたかな。後はレクターが大人しくしていてくれればいいんだけど」

「そうか………前にサクトに言われてな。こっちの生活が慣れないのに寂しい思いをしているんじゃないかと」

「でも、休日は時々出かけたりしているでしょ?」

「まあ、そうだが………向こうに帰りたいと思わないか?」


 父さんが家の前で急に振り返り真剣な面持ちで語り掛けてくるので流石に面食らう。

 でも、俺を心配しての言葉なのはよく分かるし、サクトさんやガーランドもそういう意味では異世界人である俺を心配しているのだろう。


「そりゃあ思うよ。でも、こっちで生活した分だけ今直ぐ帰りたいという気持ちは今は無いな。それに……帰ったら誰が父さんの家の掃除をしたり食事を造ったりするのかと思ったら簡単には帰れないしね。またこの家をゴミ屋敷に変える姿がありありと見て取れるよ」


 父さんが『ムッ!』と表情を変えるが、咄嗟に反論を思いつかなかったようで黙り込んでしまう父さんの隣を通り過ぎて俺は家のカギを開けた。


「そうだ。夕食を食べたら訓練に付き合ってよ、どうも咄嗟に体が動かなくなることがあって、その辺を変えておきたいんだ。父さん口下手だから正直教えてもらっても難しいんだけど」


 また反論しないが、この人物凄く口下手でコミュニケーションが苦手な部分が強い。

 その為本当に仲のいい人にしかちゃんと会話が成り立たない部分があり、その上説明慣れていないので体に直接教えるやり方を取る。

 その辺はどうしても俺は分かりにくい部分。

 と言っても全く理解できないわけではなく、分かりにくいというだけだ。


 それに俺には父さん以外に教えてもらえるほど強い人間なんてガイノス流の師範代ぐらいだが、個人的は部分を細かく教えてもらえるほど親しいわけでもない。


「いいが………私でいいのか?」

「? いいから頼んでいるんだけど?」


 よく分からない質問をされた俺としては首を傾げることしかできなかった。

 冷たい物を額に感じ上を見上げると雨雲が帝都の空を覆おうとしていた為、俺は急いで部屋の中に入る為鍵を鍵穴に通した。



 ウルベクト家の家は地上三階建て屋上有、地下に二階建てになっており、地下二階は訓練場になっている。

 案の定俺と父さんが家に帰るとドシャ降りの大雨が降って来た。

 俺は急いで屋上から洗濯物を回収し、部屋干しに切り替えたのち夕食作りに入るのだが、その間全く手伝う事をしない父さんは食堂でナイフとフォークを握りしめて夕食を待っていた。


 夕食を食べて一旦休憩した後俺と父さんは訓練場へと入っていく。

 この家にある訓練場は学校の施設も顔負けの設備を誇っており、道具から機械までなんでも揃っている。


 お互いに防具と木製の剣を装備した状態で取り敢えず一時間組手をしてみた。


 俺はバテバテの状態でその場に突っ伏しており、父さんは全く息が乱れていない状態で考え込んでいる。


「フム………何というか……その……()()だな」


 俺の心にクリティカルヒットがやってきた。

 なんというか言い難い事をはっきりと言われてしまうし、父さんは其処から更に気にしない様子で考え込むし。


「そうだな……一歩踏み切れていないというか」

「要するに? 何が言いたいの?」


 この人はまた言い難そうにしているし、こういうはっきりしない所はこの人の悪い部分だと思う。


「あと一歩踏み込む勇気がだな……守りに徹している部分があるというか……」

「攻撃に転じた方が良いとかそういう話?」

「というよりソラは本来攻撃型だと思うぞ。俺やガーランドと同じく積極的に攻撃に転じていく人間だな」

「俺が……守りに徹している」


 そう言われたことは始めだ。


「そうじゃない……説明がむずかしいな」

「父さんの説明が苦手なだけじゃない?」


 妙に傷ついたみたいな表情をされるのだが、俺としてはハッキリした意見である。

 やはり言い難そうにしているので、俺はこの際ハッキリと「心に思ったことをそのまま言葉にすればいい」とアドバイスを送る。

 この人は言う言葉は分かっているのに他人への遠慮からはっきり口に出せない部分がある。

 それは遠慮のようなモノで、相手を想うが故の行動だ。


「ソラはあと一歩と言う所でどこかで引いている部分が無いか? 追い詰められないと本気になれない部分が見えた。さっきの戦闘もそうだがお前はどこかで受け身に走っていないか? 相手が殺すつもりじゃないと本気で戦えていない。正直言うが手加減をする事と、受け身に走る事は全くの別だ」


 そう言われてしまうとそう言う事になる。

 共和国の時もテラの時も相手から攻撃してこないと俺はどこかで本気になれないし、戦闘能力だけを削ごうとか、なるべく気絶させようとしたりなどどこかで一線を引いて行動しようとする。


「攻撃しているのに受け身に走っている為に攻撃に徹しきれていない。正直殺されると思った時に本気になったのでは遅すぎる。襲われた時、襲われると理解した時、戦うと決めた時に本気で挑まないと自分の命で支払うのならともかく……お前の大切な人間が支払ってから後悔しても遅いだろ?」


 確かにその通りだ。

 俺は途方もない勘違いをしていたようで正直反省していた。


 西暦世界の頃は特に気にしなかったし、そういう意味ではあまり考えたことも無かった。

 向こうでは剣道をしていた時も相手を殺す心配なんて無かったし、それでも俺が受け身に走る切っ掛けがあるとしたら………。


「昔剣道をしていた時、俺一回だけ試合に出たことがあるんだ。でもその時に俺相手選手を怪我させてしまって、つい本気になって思いっ切り叩いたら、防具の紐が緩んでいたのか、防具が外れた所を俺の竹刀が思いっきり当たって」

「骨が折れた?」

「うん。結局どうなったのかよく分からなかったけど、相手選手は棄権という話になったし、俺に次に進出する権利を得たから防具の紐がはじめっから緩かったんだと思うけど、俺は怪我をさせるのが嫌になったんだ。俺はそもそも我流で覚えていたし、試合も反則スレスレの試合ばかりをしていたからそれが最初で最後の試合になったけど」

「だがそれは試合だ………お前がしているのは本気の殺し合い。遊びでする剣道と、本気の殺し合いをする世界、区別をつけるべきだな」


 俺は思いっきり立ち上がり父さんに真剣な面持ちを向ける。


「父さん! 徹底的に教えてくれ!」


 俺はもう一度木製の剣を握り父さんに向ける。


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