エピローグ:見つけた未来
師匠に最後まで俺が経験した師匠を生き返らせる戦い、その事件の行方を話し終えてから俺と師匠は一息つくために近くのベンチに座っていた。
因みに師匠はその後精密検査を受けた後医師から色々と言われたらしく、その内容は「肉体が全盛期に戻ることは無い」と言うこと、そして「今後は障害が残る」とも言われたらしい。
師匠からすれば日常生活に問題が無い以上は別に構わないと思っているらしく、そもそも師匠はあのニューヨークでの会合が終わったら引退する気だったので良い切っ掛けが出来たと思っているらしい。
俺も奥さんもある意味安心する事が出来たわけだし、来年度からは士官学校の教師として師匠は特務科の専属担任として戦術科と選択授業の一つである美術の教師として赴任する事が決っている。
因みに一般兵科にとっては必修科目である為、一般兵科は絶対に会うことになる上俺達特務科も受ける可能性が十分に高い授業だ。
「そう言えばあの後アカシを預かって貰いましたけど…上手くやっています? 急な話だったしアカシも最後は納得しましたけど」
「ああ。最初は緊張していたけどな。今では家族にも慣れたようだ。オールバーも今ではすっかり家族の一員だな。お前達が竜と人の関係を変えたんだ」
「というよりはエアロードとシャドウバイヤが変えたんだと思うけどね。俺は受け入れただけだし。でも俺はこれでいい気がするんだ」
これが先代の聖竜が望んでいたことだろうし、変わっていく事が生きていく事への証明だとも思うから。
ブライトも最初は寂しそうにしていたが、今では師匠の家に行くたびに楽しみにしているようでもあった。
「ソラがあの日ジェイドを否定した日、何度も何度も後悔しただろう? それこそお前の中でジェイドの言うこともまた平和という事では正しい。だが、ただ生きるだけの世界を人は本当の意味で生きるとは言わない」
「不幸や幸せが何かという過程の中で、人は何処までも不幸になれるし何処までも幸せになれると思う。俺も師匠もそれは良く分かっているし見てきたつもりだよ。だって俺達の道のりの中には確かに『救われなかった犠牲者』が居たんだから。でも…」
「それを彼等が受け入れて前に進むのなら私達もまた受け入れて次に活かすだけなんだと思うんだ。アベルも受け入れて北の近郊都市再開発計画に賛同した。今北の近郊都市はかつての賑わいが戻りつつある」
「きっと笑ってくれているよね? 成仏した人達もさ」
北の近郊都市がかつての賑わいが戻ってくれれば良い、きっとあの大樹もこれからずっと見守っていくのだろう。
その寿命が尽きるまでずっと見守り、ずっと命の巡りを見届けるんだ。
俺と師匠は大通りの先にあるのであろう北の近郊都市を想う。
「三十九人だって…きっと彼女達もこの未来を夢見て命を賭けてくれたんだ。俺達にはこの先に幸せを手に入れる資格があるって今では想うよ。その代わり俺達は犠牲になった人達を思い出し続ける事が役目だって想う」
「忘れない限りは生きているって奴か? だがそうなんだろうな。若い頃の私はそんな事想いもしなかったよ。あの頃の私はただひたすらに親の代わりを一族の受け継いでいかないといけないと必死だった。今想えば色々な人達に迷惑をかけたし、心配ばかりだったな。何故笑う?」
「いや…北の近郊都市の人達は本当に心配して居たからさ。ずっと無理をしている貴方を。父さんを心配して居たから。自分達が死んで更に責任を背負うんじゃ無いかって」
「心配したとおりになったわけだ」
「もしかしたらさ…ジェイドも本当の所で北の近郊都市の復興は望んでいたのかなって。もしあの人が計画を実行していたら北の近郊都市がどうなっているのか気になって…」
もしかしたらあの頃のままの北の近郊都市が再現されていたんじゃ無いかって想うときがある。
本当はジェイドが決心した切っ掛けは北の近郊都市が破壊されたと聞いたからで、自分の大切な場所を失ったからだと。
ジェイドにとっては正しく故郷のような場所だったはずなんだ。
「どうだろうな。それこそ死者の願いを聞くなんて分からないだろう? 考えるだけ無駄な気がするしな。例えそうだとしてもそれを受け入れるつもりは無いだろう?」
「それはそうだけどさ。でも想うだけならただでしょ?」
「想いすぎるのは良くない。ジェイドだってそれを知って欲しいと言っている訳じゃ無いだろう? 未来を選んで未来に選ばれたのはお前だ。ソラ。なら胸を張って今の未来を選び続ければ良い。ジェイドに胸を張って「正しいんだ」と叫び続ける」
師匠は「それだけで良い」と言いながら青空を見上げる。
この空には雲一つ存在しない快晴が広がっていた。
「何度も何度も後悔したよ。ソラ。お前の言うとおりだよ。私の人生に後悔じゃ無い部分なんてそうは無い。でも前に進めたのは死んだ人達を想っていたからかも知れない。同時にそんな人達に足を取られていたんだ。死者を思い出すことは大切な事だが想いすぎると足を取られる。今のままで良いんだ。お前は今を積み重ねて未来を選んだんだ。誇れ」
師匠は立ち上がり俺もそれに続くように立ち上がった。
「これからどんな未来があるのか…想像するとワクワクする日が来るなんて想いもしなかった。私にとって未来は不安なことしか無かった」
「それは俺が何かしたわけじゃない気がするから他の誰かに感謝して欲しい」
何か特別なことなんてその一件だけは存在しないと本気で思う。
それこそ師匠に代わって欲しいと願った多くの人の手柄だと思うし。
「そう言えば今日は海の進学危険でパーティーでも?」
「それは後日だな。そっちの家こそ奈美の進学のお祝いはしないのか?」
「それも後日かな。流石に父さんが忙しいらしくてブーイングしていたよ。前に見たいに早上がりが出来ないって不貞腐れてる」
「それが当然のことだと言え。そもそも軍のトップが部下に仕事を押しつけて変えるなんてあり得ん」
「それが部下ならまだしも他の人に押しつけるから溜まった物じゃ無いけどね。でも、今度家族で遊園地に行く予定になっているんだよね。師匠もでしょう? もう約束を守れそうに無いなんて事言う必要性が無い訳だし」
「そうだな。それこそ進学祝いで今度行く予定だ。諦めていた未来を今見て居る気持ちだな。こんな事を考える日が来るなんて本当に思っていなかった」
「良い事だと思うけどね。でも今後は本当に奥さんに心配かけないようにね特務科の担任なら俺達と同行することにはなるし。その場合は奥さんにキチンと連絡するように」
「お前は私の親なのか? まあキチンとするつもりだ」
「なら良いけどね…分かってくれているならさ。次泣かせたら俺は怒るからね」
俺の「怒る」という言葉に一瞬だけだが完全殺しの剣が反応した気がしたが、それはあくまでも一瞬のことであっという間に奥に引っ込んだ。
冗談で言った一言に反応したのだろうと思うと安易に言葉を放つことが出来そうに無い。
「…完全殺しの剣が反応でもしたか?」
「だね。一瞬だけだけど」
「まだまだ修行が足りんな。お前の心と言葉の際に気がつかないのは武器のせいじゃなくお前が未熟だからだろう。まだまだ武器の能力を完全に引き出せていない証拠だな」
「こんな武器簡単に扱えるわけ無いでしょ。簡単にはいかないよ。扱い方を間違えたら致命傷だし…安易に頼りたくは無いかな」
「だがだからと言っていざという時に役に立たないと困るから普段から扱えるように修行だけはしておけよ。面倒を見るぐらいならしてやる」
「それで奥さんから怒られたら溜まらないから考えてはおくよ…」
俺達は師匠の家の前まで辿り着いてから俺は立ち去ろうとしたが、師匠は「遠慮をするな」と言って俺を誘ってくれた。
すると中から奥さんが俺を誘ってくれた。
今確かに幸せだと感じている。
俺が欲しい毎日が確かにここに在る。それが分かる。
俺は幸せな未来へと足を一歩踏み出した。
今まで見て頂きありがとう御座いました。この話を持って竜達の旅団の不死の皇帝編は完結となります。次回作となる始祖の吸血鬼編は新作として六月から七月頃にスタートを切ろうと考えています。それまでの間連載は完全に停止するつもりですのでそれまでお待ち頂けたら幸いです。つたない文章にお付き合いして頂き本当にありがとう御座いました。




