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貴方を取り戻す 10

「これで遙か昔から続く可能性の選択が終わりを告げた。ここからは選んだ未来を君達一人一人がどんな決断で生きていくのかと言うことだ」


 先代の聖竜は俺達にそんな事を告げた。

 ブライトはようやく落ち着いたのか、俺の元まで戻ってきて先代の聖竜を見上げるように見ている。

 師匠も奥さんと共に先代の聖竜を見上げ、その足下にはジェイドが俺達を見つめて居るが、その表情は憑物が取れたような爽やかな笑顔だった。

 文字通り彼を縛る憑物は取れたのだろうと思うとちょっとした達成感が存在する。


「君達は可能性を選んだ。それは決して全ての人間を命を救う選択肢では無いだろう。でも、お前達が選んだ未来がいつの日か輝くような未来になると私は信じているよ」

「ジェイド。アンタはこれからどうするんだ? 無の世界に…」

「ああ。行くよ。それが私が不死者と成った事への罰でもあるんだ。それを全ての命が否定しても私は黙って受け入れるし、例え許されても私は向うつもりだ。許されて良い事じゃ無い」


 分かりきっていた事だしそれ自体は俺は否定するつもりも阻止するつもりも無い。

 それはジェイド自身が受け入れないといけない事であり、俺が否定してはいけない事でもあるんだ。

 ジェイドがした事は許されないことだし、それは誰も許してはくれないことである。

 もし彼がそれを受け入れるというのなら俺は黙って見守り行く先を見つめるだけなのだろう。

 そう思っているとジェイドの後ろから一人の女性が現れてジェイドに話し掛けた。

 ジェイドは驚きの表情を浮かべながらそっと後ろを見つめると、その驚いた表情はそのまま優しい表情へと変わっていく。


「まさか最後に君に会えるとは思いもしなかったよ。こんな私を見送ってくれるのか? それともここに居る君は幻なのかな?」

「本人よ。それを否定されると悲しいけれど。待っていたの。貴方のことをずっと」

「君と一緒には行けないよ。待っていたなら知っているだろう? 私は生命の法則から外れてしまった。許されない魂は無の世界へと導かれて永遠を持って償う。それが私が生きた代償なんだ」

「分かっているわ。だからついて行く。私も一緒よ。言っておくけれど貴方が「嫌だ」と言われても絶対について行くからね。一度言い出したら聞かないというのは知っているでしょう?」

「そう言えばそうだったな。君のそういう部分に私は引かれたんだ」

「後は彼等に任せましょう。無の世界も一緒なら怖くないでしょ? これからはずっと一緒よ」


 ジェイドは「ありがとう」と礼を述べてから二人手を繋ぎ無の世界へと旅立っていった。

 聖竜はジェイドの最後を見届けてから俺達の方へと向き直る。


「さて。君達も旅立ちたまえ。もうこの世界に用事は無いだろう。君達が帰れば死竜は死領の楔で生と死の巡回を開始するだろう。そうすればここに居る無数の魂も次々と転生を始めるはずだ」

「………」

「聖竜ブライト。お前を育てられなかったことは私の唯一の後悔だ。だが、こうして小さいながらも立派に育っている姿を一目見られただけで後悔は無い」

「僕も…これから立派に生きるね。沢山色んな事を知って、沢山経験して立派な聖竜になる!」

「それでいい。私達歴代の聖竜が成せなかったことをお前には成して欲しい。大切な事もどうでも良いことですら学んで欲しいんだ。ここから先は竜という存在の在り方も変わってくるだろう。過去の出来事やルールに捕らわれる事は無い。好きな生き方を選んで、好きなように生きてみるといい」

「うん!」

「ソラ・ウルベクト。改めて君にこの子を託す。私の誇り高い子だ。大切にして欲しい。そして、これから先君は幾度も無く不死者達が襲い掛ってくるだろう。だが、その都度君は乗り越えて生きる事が出来るはずだ」

「分かっている。皆が繋いだ時代だ。絶対に守り抜く」

「アックス・ガーランド。生き返ることに罪悪感を覚えることは無い。初めっからこれは既定路線でもある。もし罪悪感があるのならこれからは自由に生きてみるといい。一族としての在り方も時と共に移ろっていくモノだ。捕らわれる必要は無い。君の目の前に居る弟子はもう十分独り立ち出来ている。とは後ろから支えてあげるだけで戦えるはずだ」

「………はい」

「奥さんを大事にな。君もそこの男を好き勝手にさせないようにな。今度は首輪でも付けて少しは大人しくさせると良いだろう」

「少し考えてみますね」

「そして…お前の手に握られている武器こそが五極と呼ばれる究極の概念兵器の一つである完全殺しの剣だ。あらゆるあまねく全てを完全に殺す為に存在している兵器でもある。それが君の手に在り続ける限り、君の中に存在する事が出来る。だが、故に扱い方を間違えれば簡単に他者の命を奪う事もできる。その武器で切られた者の傷は簡単には塞がらない」


 俺の右手に握られている今までの武器とは異なる存在感を放つ異様な片刃剣、片手で持つことも両手で握ることも出来る剣。

 握るだけで「完全に殺す」というイメージが否応なしに俺の体中を駆け巡ってくる。

 究極の概念兵器という言葉が嫌でも良く分かる剣。


「扱い方を誤らないことだ。では…行きなさい。そして生きなさい」


 俺達の体は自然と浮かんでいきそのまま現実世界へと向って行った。



 目を覚ますと多くの人達が俺達を心配しており、俺は直ぐに師匠の元へと向っていて行った。

 すると師匠もふと目を覚まし俺達を確認している所を見て俺は安堵の息を漏らす。

 そう言えば俺は気になる事を聞いた。


「師匠を復活させる上で体はどうしたの?」

「ほら君が嫌っていたあの男を使ったんだよ。私は合衆国大統領だからね。あの男の処遇は少しばかり悩んでいたんだ。アメリカは州事に法律が違うから処遇も悩んだよ。そんな時ガイノス帝国から今回のお話を頂いてね。私は是非と提案させて貰ったんだ」

「そうでしたか…」

「そもそも彼が殺した命を彼の命で甦らせるというのは私個人としては正しい事なんだ」

「はぁ。せめて私に一言言って下された輸送の際に手伝いましたのに。誰一人説明していなかったとは」

「良いんだよ。死刑にするにも難しいし、かと言って生きていると色々と困る人間だからね。アメリカ国内をここまで大混乱に導いたんだ。所詮失敗した革命家なんて末路はこんなものさ」


 合衆国大統領はそんな事を平然と言ってのけ、やはりこういう部分を見ると俺は一国のトップなんだなと思わされる。

 すると死竜は全てがどうでも良いと言わんばかりに俺の方へと近付いてくる。


「さてやることはやった。後はお前達にでも任せる。私には私のやることが在る。だから返せ! ブライト。お前が持っていることは分かっている!」

「返さないなんて僕言ってないもん! 今から返すつもりだったんだもん! 忘れていない無いもん!」

「早く返してやると良い。ややこしいことになる前にな」


 俺がそう言うとブライトはどこから取り出したのか死領の楔を死竜へと手渡し、死竜はそれを強奪すると頬ずりして「やっと取り戻した」と嬉しそうにしていた。

 そこまで大事なモノなら取られないで欲しい。

 するとサクトさんから説教を受けていたレクターが逃げてこちらまで近付いてくる。


「外で一般の人達が儀式の結果を待っているんだけど」

「それについて私は説教し終えていないわよ。レクター」


 俺は師匠が座っている車椅子を掴んで「外行こう」と促す。

 師匠と奥さんと共に皆で外に出て行くと、「待っていました」と言わんばかりに歓声が響き渡る。

 一人は師匠に花束を、ある者は涙を流し嬉しそうにしているし、ある者は何度も何度も写真に収めている。

 そうしていると奥の方で三十九人が微笑んでいた。


『ほら…笑えたでしょう?』

「うん。ありがとう。これからは笑えそうだ」


 俺達の大切な人を取り戻せたのだから。


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