貴方を取り戻す 3
店長さんが作ってくれたランチメニュー、バターを挟んでいるパンと豆の甘煮とベーコンのカリカリと色取り取りのサラダという丁度良いメニューなのだが、エアロードとシャドウバイヤは不満げにしていた。
量が足りないとは分かっているが、ここで甘えさせることは出来ないので俺は目で「我慢しろよ」と言い付けると、目で「量が足りない」と訴え返された。
だが、ここで甘えさせる気が無いので敢えて無視をしようとすると、エアロードとシャドウバイヤは口をゆっくりと開けた所で隣に座っていたケビンが鋭い睨みを向ける。
どうやらエアロードとシャドウバイヤの考えは一通り理解して居たようで、完全にお見通しだった考えは素早く行動へと移させた。
俺は口の中にパンを一口分に千切って放り込む。
「この豆の甘煮非常に美味しいですね。味付けを教えて欲しいです」
「アンヌは料理をするのですか? 意外ですね…」
「ええ。最近始めたのですが、良い気分転換になるので嵌まってしまいそうで。ジュリこの料理のレシピ教えてくれませんか?」
「良いですよ。と言っても得に特別な味付けをしているわけじゃ無いですけど。このお店は野菜に拘りがあって美味しいんです。私ここに初めてサクトさんに連れて来て貰ってから嵌まってしまって。一番美味しいのはここの『キノコのキャベツ巻き』が美味しいんです。色々なキノコをキャベツで巻いて煮込んでいる料理なんですけど」
「ソラ。私達はそれを食べたいぞ」
「いよいよ。自己主張し始めたな。お前…頼んでも良いが暴飲暴食したら追い出すからな」
俺は店長さんに先ほどジュリが言っていた料理を注文すると、女性陣も食べたいと言うことで二つ注文することにした。
するとエアロードとシャドウバイヤは「私達は一人一つで」言い出す。
こいつらしつこいぞ。
「ジュリは料理も作っているのですか?」
「基本は料理を持っていったりレジ打ちですよ。人手が足りないときは料理を作りますけど。だから料理のメニューは一通り覚えていますよ」
「でも美味しいですね。私は料理できませんし正直羨ましいです。レクターはともかくソラは料理は…」
「まあ洋食限定だけどな。和食は母さんが得意だったから基本作らない。母さんが和食を作る理由も醤油味が好きだからって理由だけど」
「ではソラは? ケチャップ味が好きだからですか?」
「人をなんだと思って居るんだ? そんな理由で洋食を作ってたまるか。母さんが滅多に作らないからな。その内母さんが忙しい時は俺が料理を作るし、その内機会が多くて洋食を作るようにはなったな。俺の場合は煮込み料理が苦手だから基本ソテーみたいな料理が好きだ」
「煮込むだけでは無いのですか? あれってそんな難しい料理ですか?」
「あれって煮込む時間によって完成度が変わってくるし、煮込みすぎたらグズグズになってしまうし、速すぎたら中まで煮込めていないから結構困るんだ。よそ見しているとそのまま煮崩れするしね。俺は苦手。ずっと見て居ないといけないしさ」
「う~ん。私には良く分からないです。ジュリは分かりますか?」
「どうですかね…基本あまり作らないですかね。それこそ豆の甘煮とかお店の料理ならコツを教えて貰いましたから作りますけど」
「母さんから教えて貰えば良いさ。あの人煮物料理で失敗した事無いからさ。まあ和食系で母さんが失敗したことは絶対に無いから。そのかわり母さんは洋食系は全滅だし」
「全滅って…まるで何を作らせても失敗するみたいに」
「失敗するよ。前にスクランブルエッグを作らせたら焦げて出てきたもん。あれってタマゴをグチャグチャにしながら焼くだけなんだけど。失敗する要素が皆無なのに失敗するんだよな」
話を聞いていたケビンが「スクランブルエッグで失敗って」と本気で引いていたが、アンヌは苦笑いを浮かべながら「人それぞれですし…」とフォローを入れてきた。
だが豆の甘煮なら作れるかも知れないな…レシピを教えたら作ってくれるかも知れないから後でジュリにレシピをメールでも送って貰おう。
するとエアロードとシャドウバイヤの前に一つずつキノコのキャベツ巻きが、ジュリ達女性陣の真ん中に同じ料理がやって来た。
「美味しそうですね。ブライト達は何か注文しなくて良いですか?」
「うん。美味しいしお腹一杯になりそうだから良いよ」
「僕も。でも甘い物食べたいかな…ブライト一緒に食べない?」
「良いよ。じゃあこのアイス注文しよう」
すっかり料理を平らげているブライトとアカシ、小さめのアイスを注文した。
ブライトはチョコ味のアイスを、ブライトはラムネ味のアイスを注文し始めてワクワクしながら待っていると、オールバーは「ごちそうさまでした」と手を合わせて息を漏らす。
「ジュリはどうして士官学校に通っているんですか? 環境科を受講するなら別に士官学校じゃ無くても良いはずですよね? たしか私が調べた限り高等部で環境科を学ぶことが出来るのは他にもありますよね?」
「ええ。でも士官学校ほど詳しく教えてくれるわけでも無いですし。就職先への信頼なら士官学校が一番ですから。その分学科によっては危険な事とか多いですけど。元々環境科の項目の中には危険な場所に行くことも多いですから」
「そういうときはソラが同行するのでしょう?」
「え? もしジュリが士官学校に行っていないと俺出会う機会無いんだど? でも確かに環境科って授業項目の中には危険な内容があるよな? 他の学教では座学しか教えてくれないし。実地のフィールドワークも士官学校ならではだろうな」
「ですが士官学校では厳しい訓練とか在りそうでジュリには似合っていない気がします」
「授業は日本の大学とかアメリカの学校のように選択式で、国語のような科目は必須項目になりますけど、専門的な内容は基本選択ですよ。一般兵科や特務科希望なら体を動かす科目を中心になりますし。そういうのは選択科目ですから」
「そうなのですか? まあ出ないと困るでしょうね。別段一般兵科の人以外は興味も無いでしょうから。ですが、士官学校は大学の部もあるのですよね?」
「はい。大学からは完全に就職目指して専門的な内容を更に突きつけてくる内容ですね。ですが特務科は少しばかり内容が違うんですけど…」
「特務科はそもそも授業を受けなくてもいい代わりに軍からの仕事を受けなくてはいけないんだ。授業を受けても良いんだけどな。特務科は軍の仕事を受ける事が授業代わりになるんだ。出ないとレクターが目指すわけが無い。一般兵科以上に厳しい授業があったらレクターは実技はともかく筆記は絶望的だから」
黙々とご飯を食べるレクターを黙って見守るケビン、レクターは実技は俺を抜いて断トツトップなのだが、筆記は下から数えた方が早いぐらい最悪なのだ。
「筆記が苦手というのは知っていましたが、そんなに駄目なんですか? ソラさんやジュリさんが面倒を見ても?」
「その通り。ジュリの教え方はかなり上手いはずなんだが、毎回毎回赤点覚悟で試験を受けているんだ」
「……どうすればそんなに酷い点に」
「言っておくけどな。レクター。今関係ないみたいな顔で無視しているけどな、特務科の試験では面倒見ないぞ」
「え!? 見ないの!?」
「見ない。俺だって筆記試験が一番大事なんだ。幾ら実技で稼いでも筆記試験で壊滅的な点数だと一般兵科しか進む道は無いからな」
フォークをくわえながら不貞腐れるレクター、ジュリはジュリで環境科の試験があるから同じように手が回らないはずだ。