貴方を取り戻す 1
東区にある森の中に作られた商業と娯楽施設を複合的に合わせた施設、ジュリ曰くここは人工的に作られた場所らしく、深いように見えてしまう森すらもこの施設のために作られたもの。
森の外周には大きな柵が作られており中には逃げ出さないようにでは在るが動物が飼育されているらしく、レクターは本当に放置していると外の方で犬やらと遊び回っており、何もしていなくても無闇に体力を使うのだと思い知らされた。
そして、それをお店の中から見て居ると暇そうにしているエアロードとシャドウバイヤの両名は「元気だな…」と呟くのだが、こいつらもこれぐらい元気なら良いのにと思わずにはいられない。
オールバーは意外にも海と一緒にお店の中を見て回っており、やはりこういう時は性格が強く表れるものだ。
ブライトとアカシがお揃いの指輪を俺の元へと持ってきて「ソラ。これ欲しい」とおねだりするのを「いいぞ」と指輪を持ってレジへと向って行った。
しかし、人間の指輪なんてどうするつもりなのだろうか、そうおもって会計をしているとこの指輪ビーズとゴムで作られており伸び縮みする仕組みになっているようだったが、どのみちこれをどうするつもりなのか全く分からない。
とりあえず購入して二人に手渡すと指輪を持ってそれをそれぞれの腕輪代わりにしているのが見えた。
内心「ああ。そう使うのか」と本気で関心してしまった俺、ブライトとアカシはお互いに付けている指輪を見せ合いっこして楽しんでいるところを見てほっこりする。
まああの体じゃブライトやアカシでは腕輪としてしか使えないか。
因みにブライトは青と水色の指輪、アカシは赤と白の指輪を腕輪代わりにしていた。
「何か買ってあげたんですか? 腕輪? いや…指輪を腕輪代わりにしているんですね」
「ほほう。中々良いアイデアじゃないか。あれを真似するのは流石に躊躇うがな」
「なんで? 僕達と同じ格好をしようよ!」
「止めておこう。君達がやるから微笑ましいんであって、私がやってもあまり微笑ましいとは思えないしな。それに着飾るというのはあまり好きじゃ無い」
なんていうオールバーだが、興味がまるで無いわけじゃない事ぐらいは尻尾を左右に振っている仕草で何となく分かった。
竜と付き合うようになって一年近くが経過し、俺なりに見てきたから分かった事だが、竜は興味があるときは尻尾を左右に振る傾向にある。
俺は海の側に一歩近付きオールバーには聞えないように感づかれない様に耳打ちした。
「オールバーは興味があるみたいだし海が似合うと思う指輪を購入してやったらどうだ?」
「なんで分かるんですか?」
「竜が尻尾を左右に振るときは何かに興味があるときだ。オールバーは今ブライトとアカシとの会話中常に尻尾を左右に振っていた。これは興味があると言うことだ。多分だが着飾る事好きじゃ無いと言うのは嘘だろう。本当は興味があるが恥ずかしいと言った感じか。「買ってくれ」なんて恥ずかしくて言えないのさ」
「なるほど…竜の尻尾にはそんな仕草があるんだ」
海はブライトとアカシが購入していた手作りの指輪売り場へと歩き出し、中から一つ緑色と黄色の指輪を一つ選んでレジで購入後に手渡す。
オールバーは驚きながら「何故?」と本当に疑問そうな顔をしていた。
「身につけてみたかったんでしょ?」
「何故そう思う?」
「竜が尻尾を左右に振るときは会話や周囲に興味がある対象がある時だって教えて貰ったから。ブライト達との会話中ずっと尻尾を左右に振っていたし。似合うかもって思ったから買ったんだけど? 恥ずかしかったんでしょう?」
「別に恥ずかしくて言わなかったわけじゃ無い…」
おや…買って欲しいと言うのは当たっていたようだが、言い出さなかった理由は外したようだ。
エアロードとシャドウバイヤも興味があるのか俺達の会話に聞き耳を立てている。
ブライトとアカシはオールバーに対して「じゃあなんで言わなかったの?」と本気で疑問顔で訪ねる二人に対しオールバーは顔を赤らめて無言を貫く。
買って貰った事は普通に喜んでいるようだが、何か恥ずかしがっている理由が違うというのは此所までの会話で理解したのだが、ではオールバーは何を恥ずかしがっているのだろうか。
買って貰うことが恥ずかしいわけじゃ無いと言っていたし、それに買って貰っても付けることそのものには躊躇をしている様には思えない。
買って貰う過程に何か恥ずかしいと思う理由があるのだと思った。
そこまで推測して俺は一つの理由を思いついた。
「もしかしてだけど…自分に似合うかどうかが分からなくて言い出せなかったとか?」
「………」
「そうなの? それで欲しいと思ったのに言い出さなかったの? 俺と一緒に店を回っていたときも確かに指輪コーナーで一旦ジッと見て居たけど。あれも自分に似合うかどうか分からないから言い出せなかっただけ?」
「………悪いか? 分からないのだ。我々竜にとっては着飾るという事をしないから良く分からない。ブライトやアカシはお前達と行動していたから分かるようだが、私には分からないんだ。色合いとか考えた事も無い」
「まあだろうな。エアロード爆笑するな。疎ましいぞ」
オールバーが赤面しながら言い訳のように口にする言葉を爆笑しながら聞いているエアロード、流石に鬱陶しいと思ったのか顔をしかめているシャドウバイヤ。
爆笑する所じゃ無いし別に面白くも無い。
むしろ可愛らしい部分があるものだと関心したほどだ。
「少しずつ知って行けば良いんじゃ無いか? それこそ海達の家で過ごしていけば分かっていくと思うが。人間と一緒に生きるってそういうことだと思うし。人間が変われるなら竜だって変われるっておもうしな」
「僕もそう思う。オールバーに取ってはそれが今なんだって思うよ。だからもし欲しいものがあるのなら、それが似合うかどうか変わらないのなら相談ぐらいして欲しいな。助けて貰って何も出来ないし相談もして貰えないなんて寂しいし。後エアロードは流石に爆笑は止めてください」
「その通りだと私も思うぞ。影竜としてとかでは無く、一人の竜として受け入れて取り入れて行けば良いさ。後エアロードいい加減五月蠅いぞ」
「僕もそう思うな。似合うかどうか僕だって分からなかったもん。アカシが選んでくれたから買ったんだし。そういうときは皆を頼れば良いんだよ。それとエアロードさん鬱陶しいな」
「僕も僕も。初めてなんてそんな感じだって思うな。エアロードさんビークワエット」
皆から「黙れ」の意志を突きつけられてすらなお考えを改めないエアロード、俺は流石に店内において店員さんに迷惑が掛かると考えて口にタオルを詰め込んでから体中をロープで縛り付けて俺の腰回りに装着した。
多少抵抗する素振りこそ見せたが最後は諦めた様だ。
そして、皆からの温かい言葉を前にしてオールバーはようやく素直になったようで海が買ってくれた指輪をブライト達と同じように腕輪にしてみせた。
どうやら買ってくれたことが本当に嬉しかったようで、装着してからは鼻歌交じりで楽しそうにしている。
「しかし、アカシは良くビークワエットってなんて言葉知っていたな」
「家に居たときに奈美が教えてくれたよ」
「あいつ帰ったら説教してやる。このままアクアに悪影響を与えたら説教じゃ済まさないぞ…何を教えて居るんだ」
「五月蠅いって思ったら言えば良いって」
「本当に何を教えて居るんだ!? あいつは!」
「他にもね…」
「マジであいつは何をアカシに教えたよ!? 何を考えて教えて居るんだ!?」
奈美にアカシを預けていることに躊躇いを覚えてしまった俺だった。