表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1075/1088

北の近郊都市 8

 最後の根っこを目指すためにと一旦大樹の元へと帰ってきてから根っこを探している最中、ケビンが「そう言えばこの樹は燃えなかったんですか?」と聞いてきた。

 とは言われてもそんなにハッキリと記憶しているわけでは無いので俺は「知らないよ」と答えるだけだった。

 まあこの記憶の世界を信じるなら全く燃えていないわけだし、何か意味のある樹なのかもしれないが、俺は何も聞かされていない。

 このまま特に気にせず根っこの先を調べた方が良いということになり、気にしないまま俺達は歩いて根っこの先へと辿り着いた。

 今度はウルベクト家よりも大きな屋敷のような家、多分だが北の近郊都市の市長かもしれないと想って俺はドアノブを捻って中には言っていく。

 四十代後半の夫婦が殺されている風景があり、もう描写するのも面倒なほど簡単に倒すことに成功した俺達。


「ありがとう。アベル坊やの子がよくここまで成長したものだ…」

「貴方はもしかして…市長さんですか?」

「ええ。あの男が言っていたことは事実だったと言うことですか」


 市長さんが言っていた「あの男」という存在が俺はふと気になってしまい、俺は代表して「あの男とは?」と訪ねた。

 市長さんは腕を組んで考え込むような素振りを見せた後、ハッキリとした口ぶりで話し出した。


「北の近郊都市は昔っから色々な人達が訪れており、基本は北の山脈の登山や温泉街へのロープウェイなど様々居るが、あの襲撃の前の日に北の山脈に登るわけでも無い一人の男が現れたんだよ。私はその男に話し掛けると男は少し残念そうな顔をしていながらウルベクト家の方を何度も何度もチラ見しており最後には「何でも無い」と言って歩き去って行ったんだ」

「まさかボウガンか? 最後に襲撃前に見に来たのかも知れないな。でも、あの性格なら気持ちよく見ることは出来なかっただろうな」

「後悔しているような顔をしていたよ。きっとさぞかし辛い選択肢があったに違いない」

「…ボウガン。そうだよな。竜達の旅団を完成させるためには必要な過程だったはずだ。チェックをしに現れたという事か。後悔しっぱなしだったはずだが」

「後悔ならきっとアベル坊も後悔していただろうな。私は死ぬ寸前にあの子の叫び声を聞いていた。それこそ絶望だったはずだ」


 急いで帰ってきたら故郷が燃やされているのだからそれは絶望なんてレベルの衝撃では無かったはずだが、そんな中でケビンは今まで気になってはいても敢えて聞かなかった事を尋ねた。


「北の近郊都市は他の近郊都市とは違って帝都に非常に近かったのですよね? なのに襲撃してからアベルさん達がやってくるまで誰も帝都の人達は気にしなかったのですか?」

「そうですね。電話を使って連絡を出した者達も居たはずですが、どういうわけか連絡が付かなかったり、帝都に向った者は殺されてしまったりと散々だったそうです。退路は事前に潰されていましたから」

「どうにも計画的ですね。なら敢えて警察にも息が掛かっていたのかも知れませんね。だとしたら本当に計画的な犯行だったようですね。なら証拠も事前に残らない様に配慮されていたのかも知れません」

「ですね。正直な話実は襲撃がある一週間から男達が複数人でウロウロして居たりしていましたし、やけに街の外周などをチェックしていたりしていましたし、きっと今からすれば襲撃する際の最後のチェックだったのでしょうね」

「本当に嫌になりますね…関係の無い人達を殺すのに躊躇いを持たないのでしょうか?」

「私達はあまりにも怪しいので襲撃の前日にアベル坊やに連絡を出すとあの二人は「急いで戻る」と言って戻ってきてくれたんだが…」

「それがきっと決行の合図になったんでしょうね。バレる前にさっさと口を封じようと思ったに違いないです」

「ですね。ジュリの言うとおりでしょう。その電話も何処かで聞いていたのです。盗聴器などは当たり前でしょうし、下手をすれば立ち聞きをしていたのかも知れませんね。バレるかもというタイミングはある程度推測できたでしょうし、二人が戻る前に仕掛けるとは決めていたのでしょうし…それこそだからこそ通信設備を潰すために通信施設まで事前に手を回していた」

「ですね。その程度なら軍のトップが指示をしただけで出来たでしょうね。それこそ検査のためとか言えば誰も疑わないでしょうし、その後は襲撃を誤魔化す為に…殺した」


 証拠隠滅は当たり前だろうが、その為に当時は部下すら使い捨てたのだろう。

 ボウガンすら事前に下見をした所を見る限り、襲撃するタイミングはある程度知っていたのかも知れない。

 父さんからすれば「もっと早く知りたかった」という後悔、ボウガンからすれば北の近郊都市の人達を全滅させる事への後悔もあったに違いない。


「本当にこの北の近郊都市襲撃には様々な人達の後悔があったんだなって分かるな」

「そうだよ。だから君達だけが背負う必要は無い。気にするななんて言わないつもりだが、終わった事は仕方が無いんだよ。何時までも悩んでいてもね。アベル坊やにもそう伝えて送れ。その後悔していた人にもね。いつか逢えたらで構わないからそう伝えておくれ」

「でも本当にそれでいいんですか? 後悔とか…」

「ソラ。貴方はまた」

「死人の後悔なんて考える必要は無いよ。後は生まれ変わるだけ。君達は生きているんだから前に進みなさい。取り戻すんだろう? なら今は前に向って進むんだ。それが正しい事であれ、悪い事であれ覚悟を持って進む事が大切なんだ」

「覚悟…ですか?」

「そうだ。何時だって大切な事は覚悟して未来を自分で決める事さ。誰にも自分で未来を選ぶ権利がある。例えそれが間違った道でも、途中で途絶えた道でも覚悟さえ有れば受け入れられるだろう?」

「…そうですね。覚悟か…」

「君は覚悟して戦ってきたはずだ。今だってそうだろう? それをこれからも貫けば良いんだ。大切な事は自分で未来を選び、その道を覚悟して進む事だ」


 自分で選んだ未来が決して良くなるわけじゃ無いが、それでも覚悟して進めばどんな後悔でも飲み込めるはずだ。

 市長さんは少しずつ消えていく中でも笑顔を俺達に向けてくれた。


「さあ…生きなさい。あと少しだろう?」


 俺達はそのままエネルギーを解放する為に大樹の元へと歩いて行き、大樹に絡みついているエネルギーの目の前まで近付く。

 北の近郊都市に根強く残っていたのは死んだ人達の魂が拘束され、それがエネルギーが彼等を成仏させようとエネルギーを活用したのかも知れない。

 なら、どうしてこの大樹がエネルギーを拘束したのだろうか?


「どうしてこの大樹がエネルギーを拘束して居るんだろうな」

「特別って感じはしませんね」

「確かこの樹推定で千年以上の大樹だったはずですよ。この街が今の形になる時に記念として植えられたってアベルさんから聞いた」

「北の近郊都市の発展と共に見守ってきたから、この街の人達を成仏させようと願ってエネルギーを利用したのかも」

「だとしたらこの樹もまた街の住民なのかも知れない。お前も護ってきたのか? ずっとこの街を…」


 大樹は大きく光を放ち俺達の言葉に反応してみせた。

 俺は異能殺しの剣を構えて樹を傷つけない様に優しく縦に切り裂いた。

 すると俺達の目の前に北の近郊都市の人達が現れて微笑んでくれる。

 ようやく彼等もまた成仏することが出来たのかも知れない。


「この街…また育てていくよ。この樹がまた見守り続ける事が出来るように…願っていて欲しい」


 彼等は微笑みかけて消えていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ