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北の近郊都市 5

 幼い頃から師匠や父さんやサクトさんはこの北の近郊都市でよく遊んでいたそうで、得に大きな木の周りで追いかけっこをしていたのは当時の人達からすれば微笑ましい光景だった。

 得に師匠の方は末っ子だったことも在り、得に親からは軍方面への進学は期待すらされておらず、本人は当初教師になりたいとずっと訴えていたそうだ。

 絵の趣味もその時に身につけたもので、良く二人を描いては見せていたとこの家族は教えてくれた。

 サクトさんの方は二人より元気の良い少女だったらしく、初めて会った二人は初めてサクトさんを男だと勘違いしていたそうだ。

 まあ短パンにTシャツだけの少女を少年と勘違いしてもおかしくはないだろうし、当時はまだ幼い子供、見分けは付かなかっただろう。

 しかし、人一倍元気の良いサクトさんは二人を引っ張っていくリーダーのような感じで、他の二人はそれによくついて行っていたそうだ。

 大きくなっていく過程で三人の関係は変わっていった。


「幼い頃のガーランド君はね。どちらかと言えば人付き合いが苦手な少年で、二人が引っ張っていかないと何時までも蹲って動かなくなるような子供だったの。何時だって一人で寂しそうにしているのに、誰にも話し掛けられないような子供」

「以外です。私は会った事がありますが…そんな感じには見えませんが」

「俺は…分かる。昔は俺もそんな感じだったし…それに師匠には確かにそのきらいがある」

「フフ。良い弟子を取ったみたいね。本当に良かった。これからもあの子を支えてあげてね」

「? アベルさんは?」

「あの子は…何時でも落ち着かないような元気すぎる子だったわね。木に登っては落ちてきて「エヘヘ」と笑っているような、サクトがそれ以上に元気だったけど、あの子は計算するから危険な事はしないけど、アベル君はあまりその辺を考えない傾向が在ったわね」

「何処かで聞いた話だよな…何処だろうな」


 レクターがとぼけるのでケビンが「馬鹿レクターでしょ?」とハッキリと告げ、レクターは「馬鹿じゃ無いですぅ」と不貞腐れていた。

 因みに憎たらしさしかないので出来れば止めて欲しいと告げるのだが、案の定レクターは今度は俺の方へとその憎たらしい顔を向けてきた。

 苛ついたので右拳を音の速さで殴りつけ、レクターは軽めに吹っ飛ばす。


「フフ。あの頃の三人を見て居るみたいね」

「その中に私を入れていないことを祈るだけですね」

「ガーランド君はご両親やご兄弟を亡くしてまるで人が変わったように軍の方へと進路を決め、アベル君はアベル君で「楽に金を稼げそう」って理由で進路を決めたし」

「またしても何処かで聞いた話だよな。俺達周辺のとある人物が昔軍方面に進路を決めていた理由だったはずだ」

「? 誰?」

「分からないなら良いですよ。僕は…とぼけたいって言うなら。レクター以外は絶対に分かっている話ですし」

「最近海が俺に対して非常に冷たいんだけど!? 俺そんなに最近ウザい?」


 ジュリ意外がレクターに対して「うん」とハッキリと告げると、ジュリの胸元に顔を埋めようとするので、俺はそれこそ音を超えるような速度で飛び膝蹴りを食らわした。

 こいつ人の彼女の胸に顔を埋めようとしたか!?


「少しは考えて動けよ! 今人の彼女の胸に顔を埋めて泣こうとしたか!? セクハラというレベルじゃ無いだろう!?」

「酷い! なんて酷いことをするんだ!?」

「今のは貴方が百パーセント悪い」

「ですね。どうして人の彼女の胸の中で泣こうとするんですか?」

「だって俺彼女居ないもん。ジュリしかいなくない?」


 真顔で言われるので俺は真顔で「お前はアホなのか?」と問い返すのだが、レクターは「うん」と答えたのを俺達は黙っているしかなかった。

 自分でアホだと認識している以上はそれ以上は何も出来ないと言える。

 まあ自覚しているのならせめて少しは賢くなろうと努力して欲しいし、伝えても意味は無いので黙る俺。

 すると母親の方は更にクスクスと笑ってしまうが、その途端眩い光で包まれていき次第に消えていくのを俺達は驚いてしまう。


「良いのよ。本来死人。この地に留まっていた地縛霊が成仏するようなもの。出来ればこの地の復興させて欲しい。その為にもアベル君に説得してあげて。あの子もいい加減前に進むべき時だと思うわ。十六年前のあの頃からね」

「はい。私達でキチンと言っておきます」

「もし貴方が生まれいたと思うと少し考え深いわね。これから先もアベル君もガーランド君もサクトちゃんもお願いね。もう私達は構ってあげられないから。貴方達の時代よ。楽しみにしているわ。新しい帝国三将」


 笑顔を俺達に向けてそのまま消えていったご両親、あっという間に俺達は火災のまっただ中の家の中へと戻っており、急いで家の中から出ていった俺達は次の根っこの先を目指して歩いて行く事にした。

 しかし、そんな中ケビンがふと足を止めて周りを見始める。


「先ほどの話もそうですが…此所も本来は綺麗な場所だったのでしょうね。それこそあの三人が大切にしたい場所ではあったのでしょう」

「ああ。他の近郊都市とは違って帝都から非常に近く直ぐに通えるしな。当時の子供時代だった師匠達からすれば本当に思い出の地だったんだろうな」

「それを救えなかった気持ちってどうだったんだろう。アベルさんもガーランドさんも人一倍責任を感じたよね。だって自分達が作った派閥が原因で滅んだんだもん」

「ですが当時は革新派や主戦派が起こした事件だったと分からなかったんですかね? 父さん達なら分かりそうな気がしますけどね」

「分かっても手を出せなかっただろうし…いや分かっていたら例え証拠なんて無くても最悪殴り込みぐらいしそうな気がするな。得に父さんはやりかねない」

「と言う事は当時は本当に山賊かそこらの奴らが襲ったと信じたのかな?」

「いや。多分だけど師匠とサクトさんは分かっていたけど、当時の状況を考えてあえて父さんには言わなかったんだろうな」

「言えば突っ込んで行きかねないからだね? 実際クーデター事件の時も真実を知って後先考えずに突っ込んで行ったと聞いたもんね」

「うん。あの性格ならやりかねない。幼い頃から一緒に過ごしていたのならそれぐらいは簡単に想像出来ただろう。最も多分軍内部が怪しいとは感じても確信は持てなかったという感じかな?」


 当時はそこまでの余裕は無かったのだろう。

 とにかく中立派の新しい拠点を探し出す必要があっただろうし、政府政権のトップに食い込むことには成功したわけだし、下手を打つ訳にはいかない。

 戦争中の出来事だから戦果を示しつつ同時に北の近郊都市襲撃犯をあぶり出す。

 それは上手くいかなかったのだろう。


「此所の人達を出来れば安らかに眠らせてあげたいな…残り二つ。多分同じようにすれば安らかに眠ってくれるだろうか?」

「でも言っていたよね? 此所をこのままにして欲しくないとも。私も嫌だっていつも想うよ。あの頃のままずっと…」


 滅びたままでいるこの場所を見て居るのも確かに辛いだろう。

 幾ら魂は生まれ変わるとは言っても、死んでいく身としては辛い事なのだろうし、父さんに何時までも死んだ自分達だけを見て居て欲しくない。

 前に向って進んで欲しい。

 きっと十六年前よりずっと前から師匠も父さんもサクトさんもずっと時が止まっているのかも知れない。

 あの頃の事をずっと考え、その度に苦悩しながら前に進めないまま。

 新たな帝国三将と呼んでくれたあの人達に誇れるように俺達は前に進むべき何だ。

 あの人達の名を背負って前に進んで行くためにも。


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