東の近郊都市 8
ただ広い部屋の至る所にトランプゲームをする為のテーブルが置かれており、その中の一つがやけに大きかったことがこの場合不気味に感じてしまった。
今回は誰も居ない中、一番大きなテーブルの上に普通サイズのトランプが一式置かれており、俺がとりあえず代表してそれに触れようと思った所でトランプが突然俺から逃げるように浮かび始める。
そして、まるで逃げる動物を追いかける犬の様な感じでレクターが飛びかかり殴りかかろうとするのだが、それをトランプは周囲に拡散することで回避、まあそうなるだろうなとは思った俺達。
「トランプを単純に殴ったらそうなるでしょうに…しかし、これが不死者ですか? 正直に言えばあり得そうに在りませんが…?」
「まあ確かに名…でもじゃあ別の存在が居るのかと言われてもエコーロケーションで調べてみてもまるで反応しないんだけどな…」
「でもあのトランプからは生命反応がイマイチ感じられないんですよね。でも探し出そうにもこの部屋からは何も感じませんし…」
「ううん…トランプで答えとしては合っているみたいだよ。ほら…変貌していく」
周りに散っていたトランプが周囲に在るテーブルを巻き込んでドンドン大きくなっていき、次第に大きくなっていく形を変えてまるで大きな人の形へと落ち着く。
気の人形という感じで落ち着いたのだが、やはりこいつからは生命反応をまるで感じないのだが、どういう仕組みなのだろうか。
するとジュリが何かを考えるような素振りを見せて、俺はそんなジュリを護る体勢を作りつつ俺達の方へと接近してくる木の人形を睨み付ける。
木の人形はフラフラとした足取りで俺達の方へと接近していくのをしっかりと確認していたジュリ。
「多分だけどこれ不死者という概念とは少し違うのかもしれないね。死んだ人達の魂の残痕というのかな? そういうものがトランプ一枚一枚に宿った結果がこれなんじゃ無いかな? カジノで身を滅ぼして死んだとかなら別に考えられないわけじゃ無いし。賭博って身を滅ぼす切っ掛けにはなるだろうし…」
「まあそれ以外に考える要因が無い以上それで納得するしか無いですが…木で出来た人形なら楽そうですね」
そう言ってケビンは何の容赦も無く赤い光線を五発木の人形に浴びせてしまう。
木で在るが故にドンドン燃えていく木の人形、このまま燃え尽きるのを俺は「楽だな~」と思いながら見て居たのだが、トランプが燃える木の人形から出てきて空を舞い始める。
その瞬間またレクターが飛んで行きトランプ数枚を拳だけで破壊してしまった。
こいつ普通に叩いただけで紙を滅ぼしたんだけど…なんなの?
「どうすればトランプを叩いただけで破壊する事が出来るんですか…? しかし、一枚二枚程度ではこの程度と言う事ですか…ですが取り憑く相手が居ない以上は此所で叩いた方が良いかもしれませんね…」
俺は納得しジュリの護衛をエアロードとシャドウバイヤに任せて跳躍し一枚のトランプを切り刻み、ジュリが作ってくれた空気で出来た足場に着地してから振り返り様に今度は三枚同時に切り刻む。
ケビンは空に舞っているトランプを打ち抜くのに時間がどうしても掛かってしまうのだが、それもコツを掴むまでさほど時間は掛からなかった。
海も俺と同じ要領で破壊していき、皆で破壊していく最中もトランプ一枚一枚は舞ながらも何かをしているように見えた。
すると残り半分になったと言うタイミングでトランプの舞に影響を受けたように空間全域が大きく揺れ、ジュリとケビンは揺れる空間の中で必死に地面にしがみ付いて耐え忍ぶ。
俺達も一旦地面に着地して揺れに耐え忍ぶと地面から大きな亀裂が現れてトランプの周りに黄金で出来たルーレットが大量に姿を現し黄金の人形に姿を変えた。
黄金の人形は俺達目掛けて右拳を力一杯振りかぶり、俺はジュリとケビンの体を抱えてダッシュでその場から離脱していく。
いつの間にか抉れた地面も修復されており、着地する時に特に困る事は無かった。
「トランプが母体になっているだけで装甲は何でも良いという事でしょうか? 今回は堅そうですね…その分動きが鈍くなりましたが」
「大丈夫だろ。動きが鈍い上にこの程度ならレクター一人で十分だ」
「任せとけ! 一撃! 極撃!!」
レクターは腰を低く落し黄金の人形が振り下ろす拳に対して右拳を力一杯叩き込んだ。
俺達も見て居るだけじゃ無い、レクターが攻撃している間に海は俺の意志を組み攻撃態勢を作り出す。
「レクターが黄金の人形を破壊したらまたトランプが姿を現すだろうから今度は俺達で一斉にトランプを破壊するんだ」
「なるほど。わかりました」
ジュリも黙って頷き攻撃を行なうためにタブレットをしっかりと持ち操作し始める。
俺は異能殺しの剣を強めに握りしめて跳躍する為に下半身に力を込め、レクターは黄金の人形を粉々に吹っ飛ばす。
すると中からトランプが大量に散らばるように空を舞い、俺達は同時に切り刻んでいく。
最後の一枚が逃げだそうとする中、トドメはレクターが決めてくれた。
あっという間に接近していきトランプ一枚に対して強めのストレートパンチを叩き込んで粉々にしてしまった。
その瞬間鎖が砕け散るのが気配で分かった。
「ジュリの推測通りだった。でもどうしてこいつだけ不死者じゃ無かったんだろうな」
「これも多分になるけど。元々不死者という概念が曖昧だったことと、ジェイドさんがそういう怨霊もなんとかしようとしていたんじゃ無いかな? 死んでなお人に猛威を振るう存在は不死者とさほど変わりはしないから。死という概念が無い訳だし」
「確かに一人一人ではさほど強い怨念になりはしなかったでしょうけれど、それが集まったことでこれだけの規模の怨霊となった」
「多分ですけどそういう人達の中でもカジノという分類に恨みや怨念を抱えるような人達が集まったんだと思います。トランプは複数枚で一つという形が集まった形の怨霊達が宿りやすかったんだと思う」
「ジュリの言う通りかもな。まあでも今までの敵と違って楽で良かったかな。この調子で最後も楽なら良いけど…問題は最後だよな。何というか…今のところ最後の予想がまるで立たない。俺の想像の中に在るカジノって言うイメージは大方消費されたんだけど」
「私もです。私達がカジノに対して疎いだけかもしれませんが…」
ケビンが言うとおり俺達の中に在るカジノというイメージは『スロット』や『ルーレット』や『トランプゲーム』だけなのでそれ以外に在るのかと言われたら全く想像出来ない。
そしてその全てを今のところ消費されてしまったので次は何なのかと言われたら全く想像出来そうに無かった。
まあとりあえず元の場所まで戻り最後の場所に向おうという話になった。
「しかし、俺達はどうにもカジノに縁があるな…興味は無いんだけど。うちの一家は全く興味を見せないし。まあそれはガーランド家も同じか」
「ですね。一家代々興味なしだったはずです」
「良いですね。カジノが好きな男性って散財なイメージがありますけど。日本では賭け事だとパチスロという奴ですか?」
「行った事が無いからなんとも言えないな。まあパチンコとも言うらしいけど詳しくは知らん。だがあれって一回プレイする度に千円とか一万円とか飲み込まれていくんだぞ」
「馬鹿馬鹿しく感じますね。そういうことにお金をかけるのなら別の事にお金を使いたいですね…」
「そういう事が好きな人からすれば全く同じ意見を漏らすんでしょうね…」
「確かに…」
俺達はエネルギーの前まで戻ってきた。