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サマーデイズ 5

 明日に控えた『契り』を前にして俺達は竜撃と重撃のおさらいをしていた。


「よし。竜撃重撃両方とも大丈夫だな。あとはどれだけ技術の完成度を高められるかだ。特に重撃はアベルや竜撃のように分かりやすい技名があるわけじゃない。重要なのは体重移動や全身の筋肉の連動を活用した攻撃法だ。それと、『あの防御術』は覚えたのか?」

「まだ完成度が低めだけど、やり方だけなら………『あの防御術』は結構使い勝手が良いね。他の三人も扱えるの?」

「いやそれぞれ独自の防御術を扱えるはずだ。私のは特に特殊な防御術を扱える。午後は体力を残す意味でもこの防御術の練習をしておくか」


 空気を大量に取り込み、心臓の鼓動を一瞬だけ高めてその際に魔導の力でそれをエコーロケーション『反響定位』の要領で周囲の状況を瞬時に把握する技術。

 それ故に身体能力が高くないと扱えない技術、俺でもそこまで広い場所は出来ない。

 最も弱点もあり、障害物が多い場所では意外と死角が多いのが難点だが、視界を潰されてしまうような状況では意外と活用する機会が多い。

 しかもこれの最大の長所は相手の柵的能力を相殺できるという点だ。

 反響定位を活用した索敵能力機器は非常に多く、ソナーやレーダー探知機などもこの技術が活用されており、本来であれば電磁波を使う索敵能力に対しても魔導機を活用すれば相殺させる事が出来る。


 ガイノス帝国製の戦車にはこの反響定位の技術が活用されており、機動力と相まって意外と厄介。

 それ故にこの技術を手に入れられるかで今後の戦い方が変わってくるだろう。

 だからこそこの技術は俺にとって非常に手に入れたい技術だ。


 重撃はこのように身体能力を高めて戦う技術であり、周囲の環境を取り入れて戦う父さんのやり方とはまた違った方法だと思う。

 正直ガーランド並の体つきがあって初めて完成される方法だと思うのだが、俺は慎重だってそこまで高くないし、体だって細い方だから自身が無い。


「身長については適当な事は言えんが、体つきについては心配しなくていい。アベルだって私ほどの体格があるんだ、お前でもきちんと筋トレをし、肉を沢山食えば体つきもちゃんとつくようになる。お前の場合は食事だろうな。もっと食え」


 フム。

 確かに父さんは身長は小さいが、体格についてはガーランドに負けていないし、ガーランドの言う通り体づくりをしていれば成長するという事だ。

 しかし、気になるべきは其処では無い。


「身長を別にする理由は?」


 ガーランドは目を背ける事しかしてくれなかった。



 契りを行う『死の谷』は非常に珍しい構造しているらしく、下に行けば行くほど空気が薄くなっていき、風化した谷間は脆く、指定した場所を通らなければ命にかかわり、夜になると肉食動物が現れるようになるらしい。

 そういう構造上、『死の谷』は朝一番から入り、夕方までに出ていく事が決まりとされている。

 俺達は朝の五時には死の谷前の出入り口である門前に立っていた。


 ガーランドはポケットから鍵を取り出し、金属製の南京錠を鍵を開いていき俺達が一旦門をくぐった後再び鍵をかける。

 見た所南京錠は結構新しい物に見える。


「ここの門は昔はついていなかったのだがな。アベル達の言う事では、ある弟子が死んだ後に付けられたらしい。ここに挑む馬鹿者も多かったと聞いた。管理は私達の師匠が管理しているはずだ」


 ガーランドの最初の弟子の事だろうな。

 その後に恐らく三人の師匠がカギをかけて管理したのだろうが、実質ここはその人の直轄の弟子でなければ開けられないという事だ。


 歩いて三十分ほど経つと谷間が視界にあらわれ、まるで地獄への入り口に見えてくるほど深い谷間。

 微かにだがガーランドの腕が震えている。


 かつての弟子を思い出したのか、それとも久しぶりに挑むこの場所に武者震いをしているのかは俺には判断できない。

 しかし、ガーランドの誘導通りに坂を下っていく。


「これって外周を回っていくの?」

「いいや。そこまでじゃないが、そこそこ歩くはずだ。と言っても試練場みたいな側面があるからな。それなりの身体能力が無ければ下に降りることは出来ない」

「それってどれぐらいの身体能力?」

「魔導機ありきだが崖を駆けるや大きな跳躍が必要な場所がある。様々なルートが用意されており、教える人間ごとにルートを選ぶ」

「下には何が? 何か特別な場所が?」

「神殿みたいな建物が崖の奥に作られていて、その奥に契りを行う為の儀式を行う場所がある。と言っても俺が言ったのは最初の一回だけだ」


 なんだろう?

 変な事をされないのなら別にいいんだけど。

 坂を下って行くうちに少しずつではあるが空気が薄くなっていくのが体全体で分かっていく。

 すると直ぐに斜めの崖を駆けたり、断崖絶壁を飛び越えたりと案の定な危険な場所を超えていく。


「どうやらその調子なら大丈夫そうだな」

「お陰様でね。神殿って建物があるわけ?」

「いや、断崖絶壁のような高い壁に掘る形で作られている。その奥に大きな広間があり、そこでちょっとした儀式をして終わりだ。帰りも来た道をそのまま帰る」


 それが憂鬱である。

 この道を引き返すのか………いやだな。

 なにかこう……瞬間移動的な方法は無いものだろうか?


 そんなことを考えても解決方法が提示されるわけでもなく、体力を温存しながらひたすら下っていく。


「ねえ、その弟子が死んだ場所はどこ?」

「………なんでそんなことを知りたい?」

「好奇心。ここには来たんだろ? だったら知っておきたいってだけ。俺が弟子を造った時に危険な場所として教えられるし」


 半分ぐらいデマカセの言葉であるが、ガーランドを騙す事は成功したらしく簡単に口を開いてくれた。


「確か場所はこの先もう少し言った場所に分かれ道があり、そっちには別の谷に繋がっている。そこで見つかったらしい。多分だが途中で道に迷って夜中を迎えてしまったんだろうな」


 そこで肉食動物に襲われたという事だろうな。

 それっぽい所を通り過ぎ、俺達はあっという間に儀式を行う場所に辿り着いた。


 崖に掘られる形で大きな出入口が作られており、左右には大きな剣を持った兵士を象った石像が立っており、それ以外には何もない殺風景な場所だった。

 ガーランドを先頭に中に入っていき、視界が真っ暗な場所で後ろから差し込む日差しも頼りない。


 するとガーランドがポケットからライターを取り出し、外周にある掘られた場所に火を近づけると、周りを一周する形で火がついて行く。

 広い場所は圧倒されるほどの壁画が描かれており、それを見るだけで俺は胸がいっぱいになった。


「ここは帝国に古くから伝わる『ある一族』が使っていた修行場所だ。今では私達の師匠とその直結の弟子だけがここに来ることができる。ここでその話を聞き、伝えることが習わしとなっている」


 ガーランドがそっと正座するように座り、俺はその後ろに同じように座る。


「その一族は帝国が建国される前英雄として親しまれ、多くの人から頼りにされていた。自らが磨き上げた技術を後世に託し、その技術をお前も受け継いでいく事になる。お前が受け継ぐのは私が開発した『重撃』とお前が作り出した『竜撃』だ。この地を持ってお前の『竜撃』をこの地に刻みつける」


 ガーランドの案内のまま立ち上がり外周の一角にまで連れていかれた。そこには『重撃』の隣が空白になっている。

 俺は其処に緑星剣で『竜撃』と書き込んだ。


「これで契りを終える。最後にこれを」


 そう言われて取り出されたのは一枚のジャケット、ガイノス軍に使われているモノに非常に似ているが細部のデザインが異なっており、何より肩に『竜』を使ったワッペンが張られている。


「防弾ジョッキの代わりにすればいい。昔その服を着て英雄たちは『竜人戦争』を潜り抜けたそうだ。その方のワッペンはお前の『竜撃』をイメージしたものだ」


 そう言う事なら貰っておこう。

 俺はジャケットを持って儀式の場所から出ていく。


「ねえ、最後に弟子が死んだ場所に行かない?」

「………どうして?」

「心の整理は必要でしょ? スッキリさせようよ。今回は成功したんだし」


 俺達は帰り道にガーランドの弟子が亡くなった場所へと向かった。

 何もない行き止まり、そこで死んだという証も無いままガーランドは立ち尽くしたが、俺は岩の隙間に二つの淡いピンク色の花が咲いていた。


「その花はこの辺でしか咲かない珍しい花だな。この花を手に入れた者は願いが叶うといわれている。この際持って帰ってもいいと思うぞ。どうせ誰も取りにこん」


 ならと俺は二つの花を抜き取り、一つをガーランドに手渡す。


「終了記念。今回はうまくいったでしょ? どう? 心の整理はついた?」


 ガーランドは遠くを見つめてから黙って頷く。


「ああ、ソラ………」

「何?」

「帰るか」

「だね」


 こうして夏の日々は終わりを迎えていく。


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