東の近郊都市 2
大富豪エルメス・リューシーはガイノス帝国では指折りの金持ちだが、それ以上に彼の凄いところは権利には全く興味が無い所なのです。
というよりは彼自身は自分が金持ちであるという自覚はあるが、同時に権利は才能有る人間に任せた方が良いという信念を持っているそうだ。
自分が金を払うことでその才能を生かすことが出来るなら金なんて惜しくないとそんな事がハッキリと言えるぐらいの人間で、代々こんな感じの性格であるらしい。
基本規則正しく、食事は栄養バランスを重要視し、運動は必ず毎日適度に熟す。
言ってしまえば生まれ持った金持ち故に生活には困らないし、株主でもある為に色々な株主会議に度々呼ばれそうになるらしいが、先ほども言ったとおり基本あまり積極的に参加する方ではないらしい。
言ってしまえば代理人を呼ぶぐらいのことは平気でする人間とのことで、なので顔を見たことがるかと言えば他の金持ちでもそうそうある事じゃない。
だが、彼自身は非常に世の中にいる所謂有名人には目がないらしく、父さんも師匠もサクトさんも何度か会った事があると言っていた。
見た目は細マッチョといった感じの体付きに所謂典型的なイケメンで、性格は決して真面目という感じではないが、責任感は非常に強く一度口にしたことは絶対にやり遂げようとする。
それ故に何度か他の金持ちと争ったことがあるが、同時に決して慈善活動に精を出すようなタイプではないらしく、そういう方面には興味が無いらしい。
だが事業を興したい等には金を支払うことに全く躊躇いを持たないのだが、それは彼自身が面白そうと言う理由で支払っている対価である。
「なんと言いますか…典型的なイケメンってあまり想像出来ませんよ」
「逆を言えばそれ以上に特徴を捉える言い方はないかな…綺麗なブロンズヘヤーの癖が多少強い感じの髪型、顔立ちは非常に整っており男子によっては「いけ好かない」とハッキリ言う奴もいるよ。実際レクター辺りは嫌いだって言っていた気がするし」
俺の言葉にレクター以外がレクターを見るが、レクターは「まあね」だけ答えるだけでそれ以上は答え無い。
「まあ私も苦手な方ですかね。でも下手に慈善活動に手を出すよりまだマシに見えますけどね。ああいう慈善活動に手を出す人って基本あまり信用できないんですよね。結局は貧乏な人間や孤独な人間を見下しているように見えます」
「うがち過ぎだと思うけどな。ケビンがどう思うかは知らないが、嫌う人は多いけど逆に恨んでいるって言う人は少ないはずだ。その辺は師匠にも何処か通じる部分だけど」
「確かにガーランドさんも基本「嫌う人は居るけど恨んでいるって言う人は少ない」パターンの人だよね。ガーランドさんの場合は兵士である以上は仕方が無いのかな?」
「逆にあの人敵国の兵士達すら憧れを抱く人が多いからさ。戦う相手である以上は嫌うこともあるが、あの人以上に誠実に立ち振る舞う人が居るかと問えば俺は聞いた事があまりない」
本当に出来た人なんだよなと何度もそう思わせてくれたんだよな。
そんな人だからこそ生き返らせるという噂が流れた時も批判的な声は全く聞えてこなかったらしい。
今も「何時甦るのか」とむしろ興味津々で見ている人が多いのだから俺としては素直に喜べない。
「基本あんな感じだな。まああの大富豪のエルメスさんは単純に興味が有るか無いかで判断しているだけだから誠実さは無いらしいけど。最もあの人の慈善活動をしないと言う持論は金を与えて楽をさせたくないからとか言っていたけど。慈善活動自体に批判的なんじゃ無く、金を無意味に消費させることに否定的なんだよな…」
「それはあまり良い理由ではありませんね」
「そういう人だからあまり期待しない方が良い。事情を説明したら間違いなく理解はしてくれるが、そういう何というか俺達の活動に興味を持ちかねない相手だからさ。俺も下手に説明したくない。師匠からも「付き合い方は考えた方が良い相手」と聞いている」
「付き合い方ですか…まあそうなのでしょうね。話を聞いた限りでは」
「俺嫌いな人。いけ好かないイケメンの典型的なパターンだと思う」
「本当のいけ好かないイケメンの典型的なパターンだと多分そんな性格はしていないと思うぞ…あの人基本「いい人」と言った感じの人間じゃ無いからな」
「金持ちにいい人ってどのぐらい居るんですかね? 金持ちだけで嫌がられるって感じますけど…?」
「確かに。でもそれってさ言い出しっぺの海も今や金持ちだろう? どうなんだ? 嫌われたりする?」
「どうでしょう。でも距離はありますよね。距離というよりは壁ですか? 金持ちでガーランド家の子と言うだけで他の生徒から距離がありますから…ソラは?」
「いやさ。俺は金持ちって訳じゃ無いから。それは裕福な方だけど…俺の場合はそんな事無いけど…レクターが居るからさ自然と距離はあるよね」
「レクター君目立つからね。トラブルは何時でもどこからか持ってくるから自然とソラ君とワンセットって感じだし」
ジュリに言われると泣きたくなるな…マジで俺とレクターがワンセットに思われてしまっている節があるので納得は出来ない。
「でもそういう性格なら後で報告で良いのかも知れませんね。でもあのアベルという人にメールのような手段で連絡を取ったら見ない可能性がありますよね?」
「嫌な事をハッキリ言うなケビンは。まあだから電話で言うよ。父さんから言って貰えたら良いけど、最悪サクトさんならどんな状況でも連絡が付きそうな気がするし。と言うかこの場所に居ないで貰えると助かるよ」
どうなんだろうか。
エルメスさんはこの街に来ているのだろうか。
あくまでもこの街の住宅は別荘だと聞いているし、本宅は別の街らしいから。
「本宅はどちらに? 帝都?」
「いや。あの人は賑やかすぎる場所は好まなくてさ。帝都に来るときはホテルに泊まるらしい。南の方にある金持ちが集まっている場所があるんだけど。そこが本邸だったはず。俺は行った事無いけど。凄い綺麗な場所」
「金持ちが集まっているだけでそんな感想になりそうですね」
「言ったらこの国の金持ちのレベルを思い知るよ」
「どういう意味です?」
「えっとですね…その街は一つ一つが全部金持ち達が資金を出して作り出した街で、一から百まで全部金持ちが作った街でも有名なんです。確かガーランド邸の別邸もそこにも有ると聞いた事がありますけど…」
「有りますよ。でもこっちはあまり行かないと聞きますけど…父さんもあまり好きじゃ無いって聞いた事がある」
らしいのだ。
俺も本人から聞いた話だが、どうにも師匠はその街の別邸が好きでは無いらしく、その理由を聞いたところ「退屈な街で金持ちが過ごすだけの為に作られた場所だから」とのこと。
あの人はあまり金持ちって感じの人じゃ無いので、意外かも知れないが人によってはアックス・ガーランドを金持ちと考えない人も居る。
「ソラは? 好き? 嫌い?」
「う~ん…どっちだろう。行った事が無いからあまり好き嫌いを言える立場じゃ無いし…でも金持ちが過ごすために街って言う響きを聞けば良い気持ちには成らないよな。ジュリは?」
「私は観光だけなら好きだよ。あそこ細部まで拘っていて見るだけなら楽しいし。でも過ごしたいかと言えば私は良いかな。退屈しそう。多分飽きちゃうと思うな」
その気持ちは非常に良く分かる。
多分その辺が師匠が嫌がる理由でもあるのだろう。
毎日が退屈するだろう日々はあの人には似合わないし、俺も苦手だし。