南の近郊都市 10
俺達は三人でエネルギーの前までやって来ており、纏わり付いていた鎖は一つも存在せず後は俺が異能殺しの剣で切るだけなのであるが、そんな中黒い何かがエネルギーを掴んで離そうとしない。
見ないでも分かるこの地に存在している地縛霊、ここに存在していた故郷を想いずっと此所に留まり続けて居る者達。
間違いなくその正体と言えるだろうが、同時にこの地を護るのにずっとこのエネルギーすら求めているのだろう。
出来る事なら斬る事無く解決したいところだが、果たして俺の言葉は届くのだろうか。
正直不安にはあるが逃げるなんて選択肢は無いし、最悪は異能殺しの剣で纏めて着るだけだ。
「出来る事ならそんなエネルギーから手を離して成仏して欲しいな。出来る事なら異能殺しの剣で切るという展開だけは勘弁して欲しい」
『これは…此所を護る為に……!』
「此所を護るか…それは誰かを不幸にし続けて、ドンドン寂れていく過程で得られていくことなのか? 居場所を永遠に護る事は出来ないよ。いずれはどんな街だって廃れていくだろう。大切なのはそこに居たと言う事を誇りに保てることじゃないかな?」
『ほ、こ、り?』
「そう誇り。貴方は此所を誇りに思い、それ故にこの場所で住んだ。その子供がさらにその子供が此所で暮らしてくれることを祈り、貴方はそんな自分の思いが自分の子孫を傷つけたと後悔しているんじゃ無いのか?」
『………』
「此所を護るなんて事は俺には約束できないよ。多分君がいてもいざとなったら政府は俺の様な存在を雇って成仏させようとするだろう。それでも良いのか? 実力で排除されて、居場所が無くなる事に後悔するんじゃ無いのか?」
『………ここが…大事だった』
「分かるよ。だから此所を護りたいって思えたことも、その理由だって分かってる。でもさ…結果は変わらないよ。でも結末は変えられるはずだ。また生まれ変われば新しい居場所を見つけられる。きっと出来るさ…なんなら俺がそんな場所を紹介してあげるよ」
『………約束』
「する。だからこそそのエネルギーを解放させて欲しい。変わっていくこの場所がいつか貴方が譲って良かったと想える場所になるかもしれない。そう成るように俺は約束してみる」
黒い怨念は次第に薄れていき姿を消していく中で「君を信じて見るよ」と穏やかな声を放ちながら成仏していった。
そんな声を聞きながらレクターが「結構あっさり成仏したね」と若干不満げにしていたが、俺からすればちゃんと成仏してくれて良かったと思っただけだ。
「良いんですか? あんな約束をしてしまって…」
「約束は守る努力はするさ。俺が進言すれば最低限通るとは思うし…それに此所を護りたいって気持ちだけは尊いものだと思うから。凄い事だよ…死んでなおそう思うのは…」
「まあ強い信念は認めても良いかもね。そこまでしてこの場所を護っていくのは凄い事だとは思うけど…でも此所で肝試しは?」
「NGだと思います。しても良いですけど…僕達は参加しませんからね。そんな空気の読めない事…」
「レクターは基本KYだからな。多少は空気を読む努力をした方が良い。それじゃ無くても空気が読めなくて周囲から色々言われるのに」
「甘いな…空気が読めないんじゃ無い。空気を読もうとしないだけだ!」
少しで良いから空気を読んでくれ…頼むから。
そんな思いでこの場所から去ろうとしたタイミングで俺は海に「今何時だ?」と訪ねると、海は腕時計で時刻を確認して俺に「まだお昼前ですね…今からダッシュで向えば十二時ぐらいにたどり着けるんじゃ無いですか?」と言い出すのだが、正直それじゃ遅い気がしてきた。
やはりなるべく早めに終わらせたいという気持ちの元、俺は早く行く方法を探していると上空に小型の飛空挺が現れるので少しばかり驚いてしまう。
すると中からはしごが俺達三人の丁度ど真ん中に降りてきた。
するとジュリが顔を覗かせて俺達に手を振るので俺達は急いではしごを登って飛空挺へと乗り込んでいく。
「どうやってこれを調達したんだ?」
「それがね。外に出た後で軍の人に偶然であって、この後東の近郊都市に急いで行かないといけないって説明したら小型の飛空挺を用意してくれたの。軍の飛空挺だからある程度は融通して貰えたの」
「で? ケビンは少し落ち着いたわけ?」
「レクターが居なければもっと落ち着けたのですが…」
「俺嫌われている? 何故?」
「自分の胸に聞け。俺に一回一回聞こうとするな」
「…? ああケビンは胸が無いから」
レクターの顔面にケビンに握りこぶしが叩き込まれるのにそう時間が掛からなかったが、今のはどう考えてもレクターが百パーセント悪い。
て言うか人の台詞からそこまで酷い言葉を思いつくことが出来るもんだな…感心するわ。
飛空挺が真っ直ぐ向う中レクターを気絶させた後で「東の近郊都市って…」と聞いてくる。
詳細が知りたいのだろうと思うので俺は頭の中にある情報を捻って思い出す。
「前に言ったことが無かったかな? 基本は娯楽都市だ。夜に起きて朝に眠る街。大人の社交場からカジノのような建物まで一通り揃っている娯楽都市。同時に荒れた荒野に作られているために時折酷い砂嵐に襲われることがある街だな」
「砂漠でもあるのですか?」
「無いけど? でも荒野の土地が結構粒子が細かいらしくてさ。それにあそこは少し強い風が北の山脈からやってくるからその結果砂嵐が起きることがある。まあそんなに頻繁な頻度で起きるわけじゃ無い」
「私達が来たときに丁度砂嵐がやってきたら不幸とかの話じゃ無くなるけどね」
「止めてジュリ。言ったら起きそうな気がするから」
「大人な社交場ですか…まあその回りくどい言葉で大凡検討がつきますが、問題は何処に在るのかと言うことです。南の近郊都市みたいにわかりやすい場所なら良いのですが…」
「またホラー絡みの事件に遭遇したいと?」
「そういう訳じゃありません。て言うかもう二度とご免です。それで…その…怨霊は…?」
どうやらケビンがずっと聞きたかった事らしく、俺は「どうして気になる?」と訪ねてきたらケビンは「だって怨霊なんて放置していたらそのまま呪われそうで…」と可愛らしい姿を見せた。
するとどんな方法で聞いていたのか知らないが気絶していたレクターが目を覚まし何かを喋ろうとした瞬間にケビンから鳩尾を三度見えないような速度で叩かれて再び気絶した。
「大丈夫だよ。成仏したからさ…」
「そうですか…良かったです。呪われてしまったらどうしようかと…」
「何故人間はそこまでして呪いに恐怖する? あんなもの生きてみれば基本的に良くある事の一つだろうに…」
「嫌…呪いをよくある事の一つに加味されたら流石に拒否したくなるぞ」
オールバーの言葉に俺は流石に否定する事にした。
「と言うかお昼前には付きそうですね。先に大まかな場所だけ探してお昼を軽めに食べてから素早く攻略という感じですかね?」
「それで良いんじゃ無いですか? それにお昼前なら人通りも少ないのではありませんか?」
「そのはずだよ…あれが無ければ…」
ケビンが「あれ?」と聞いてくる。
「ソラ君が言った東の近郊都市の状況は実は去年まではという言葉が付くんです。今はネオンが光り輝く夜の街に成ってしまったんです」
「そうそう。よくもまあ太陽光を手段して夜の街を作ろうとするものだな…ロシアで似たようなものを見たけどさ…」
俺達の視線の先には大きなドームで囲まれている巨大な建物が見えた。
あれこそが東の近郊都市の外周である。