サマーデイズ 4
修行もいよいよ後半に入ろうとしている段階で、お互いの修行経過を話す事になったのが、何故か海が落ち込み気味だったのがどうしても気になり、ガーランドに「聞いてみたら?」と言っておいた。
どうやらどう声を掛けたらいいのかと悩んでいたらしい。
「何かあったのか?」
「うん………実は」
俺は内心父さんの指導が悪いのではとハラハラした気持ちで身を来っていたのだが、そう言う事ではなく基礎体力が中々上がらないらしく自分に不甲斐なさを感じていたらしい。
しかし、父さん曰く別段修行に遅れがあるわけではなく、父さんからすれば修行自体は予想通り。
問題としては海自身が不甲斐なさを感じているだけ。
「なんで不甲斐なさを感じるのかね?俺達からすればむしろ海は優秀な方だと思うけどな」
俺がふとつぶやくとそばまでやってきたレクターが小声で話しかけてきた。
「俺達と比較しているんじゃない? 俺達だけ独自の武術習得に入っているのに海はそういうのじゃないし」
「それこそ比較することじゃないだろ?それ言い出したら俺はレクターが順調かどうかなんて怪しいしな」
修行中に三回に一回の速度で修行が中断しているぐらいなのに、よくあれでサクトさんは修行する気になると思う。
「そういうソラはやけに順調だよね。この中で一番遅れると思った」
この男は一体俺を何だと思っているんだ?
修行に関してこの人がよっぽど酷い事をしない限りは中断したり文句を言ったりしないし、お前と違ってきちんと真面目にしているんだよ。
この場合サクトさんにキチンと判断してもらった方が良いと思う。
「サクトさん。何かアドバイスしてあげてくださいよ」
「何故私なの?私全然関係ないじゃない?」
「この前俺にガーランドの背中流すようにって襲い掛かって来たでしょ!?」
俺は奥の手である「必殺ネタバレ」を使う事にした。
ジュリ以外に動揺が広がり、サクトさんですら表情に出るような感じで動揺してくれ、問題が完全に俺の方へと移動する中、俺はガーランドの方に視線を送る。
今のうちにきちんと話し合うようにとアイコンタクトを送るとガーランドは海を連れてその場から離れていく。
「で? どうした?」
「ソラ先輩やレクター先輩はもっともっと上だったて聞いたんです。なのに俺は……」
「あの二人が元来同学年で敵なしの才能を持っているだけだ。それに才能だけを言えばお前も負けていない。今は焦らず」
「でも! 先輩たちは俺と同じ頃には問題に首を突っ込んで解決していたって」
「それはあいつらが問題を連れてくる達人だからだ。それはお前には似て欲しくない。おまえは………」
「………?父さん?」
「お前らしく育てばいい。悔しいと思う事は大事なことだ、お前のいけない所は一個上の人間に対して敬語で接している所だな。多少砕けてもいいと思うぞ。本人達もさほど気にしない。どんな人間に対しても一歩引いた態度は美点だが、別の意味では欠点だ。もっと貪欲に行くことだな」
「もっと親しげに行く? でも……怖いんだ。拒絶させられるんじゃないかって思うと……」
「そう言う所は似てしまったんだな。私も同じだ。怖い。誰かに拒絶されることがな、私は他人に拒絶されるのが怖くて…家族との付き合い方すらよく分からん。でもな……あの親子を見ていると出来そうな気がしないか?」
海はそっとソラの方を見る。
「お前は私の息子だ。一緒に頑張ってみるか?」
「うん。頑張ってみるよ」
海はそっと立ち上がりソラに近づいていく。
「ソ………」
「………? どうした?」
海は怖かった。
その先を言って拒絶されるのではと思うとどうしようもなく怖く、手先が小刻みに震えてしまっていた。
そんな時ガーランドはそっと海の背中を押してやる。
「ソラ………!」
ソラは少しだけびっくりしたがそのまま笑顔を作ってから「なんだ?海?」と優しく答えた。
「俺は!? 俺の事は呼び捨てで呼ばないの!?」
「一生敬語で呼ばれていろ!あとお前はさっきからウザイぞ!」
海に絡んでいこうとするレクター、そのレクターを排除しようするソラ。
その姿を見て優しく微笑むガーランドだがその雰囲気をアベルの強面の表情が邪魔をした。
「なんなんだ? お前は」
「私でも……私でもソラに背中を洗ってもらっていないのに!!」
「お前が嫌いなんだろ!! 私に言われても困るんだ!! そう言う事はさせたサクトに言え!!」
「お前が強制的に強引にさせたとサクトが言っていたぞ!!」
「サクトが色仕掛けでソラを襲って私に差し向けたんだ! あいつの言い分を全部信じるな!」
アベルは首だけをサクトの方に向け、サクトはその場から逃げ出そうとするがアベルが後ろから追いかけていく。
「修行しないのあなた達?」
ソラの母親の一言で事態は無事収束した。
修行は至って順調であるらしく、三人から実際修行の進捗状況に対しての報告が行われた。
取り敢えず満場一致でレクターを大人しくさせる事で可決された議題に対し、俺と海でレクターに猿轡で口封じをしつつ両手足を椅子に固定させた。
「海に関してはさっきも言ったがまずは体力をつけつつガイノス流の完成度を高める。いいな? それと同時に魔導機の扱い方も体で覚えてもらう」
父さんの力って魔導機を扱う方法を取るから魔導機のイメージコントロールが重要になってくる。
肉体を強化するというのは至って簡単なんだが、周囲の物体を操作するとなると武器を振り回しながらでは何度が変わってくる。
その辺がレクターが父さんに指南しない理由でもある。
「魔導機の扱い方は理屈で説明した方が良いと思うけれど………」
「アベルにその辺を求めるのは酷だな。体で説明する以外に方法がない男だからな」
「だから分かりにくいんだよねぇ。俺何回か教えてもらおうと思ったけどさ……」
「ソラ君。ガーランド君。アベル君が涙を流しながら悔しそうな表情をするからやめなさい」
サクトさんの一言で父さんの方を見ると、父さんは悔しそうに表情を歪ませ、もの凄い形相で涙を流している。
昔から思っていた所であるが、あの人孤高の狼みたいな雰囲気を持っているが、基本幼い。
「サクトさんは?」
「私の所は順調よ。レクター君が大人しくしていれば限定の話だけど………」
「「「ああ………なるほど」」」
ですよねと言わんばかりの納得のいく言葉とサクトさんの表情には「諦め」が見えた。
最後は俺とガーランドの番である。
しかし、実は俺達には一つ問題が生じていた。
「ガーランド君の所は問題が無いように見えるけれど? 何か報告することがあるかしら?」
「特には………」
そう問題があるとすれば問題を起こしている当の本人であるガーランドが問題だと思っていない所である。
「ある! この人俺を十月に行われる大会に出場させようとしているんだ!」
海とレクターが総じて首を傾げるので俺は一から説明することにした。
「十月に行われる魔導の祭典がある。その祭典では初日から三日までの三日間に武術を使った戦場を模した場所で試合をするんだけど………この人俺と一緒に参加せようとするんだ!」
「二人で出るの?」
「ツーマセンルで出場するのが決まりなんだ。この人……俺が嫌だって断っているんだけど、参加申し込みを書くと言い出しているんだよ」
俺が憤慨するように皆に指摘するが、みんなは視線を合わせて心外な言葉を俺に投げつけた。
「「「それのどこが問題なの? 出ればいいじゃん」」」
「なんと!? 俺に出ろと!?」
満場一致で俺とガーランドの出場は決定された。
納得できない。