表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1048/1088

南の近郊都市 1

 俺と海が空港に辿り着いたとき運良くではあるが飛空挺に乗り込むことに成功した際、物凄い「面白くない」という顔をするエアロードとシャドウバイヤを完全に無視、そのまま素早く乗り込んで西の近郊都市を後にした。

 二人で「この調子なら夕方には到着できそうだな」なんて会話をした後、俺達は適当な座席に座り南の近郊都市目指して飛び続ける飛空挺でゆったりしていた。

 エアロードとシャドウバイヤがとにかく「飯」と五月蠅かったのだが、俺は二人に対して「今は我慢しろ」と言い聞かせ、南の近郊都市の方へと向った顔を向ける。

 南の近郊都市は去年だったか? その辺りで一度訪れたことがある近郊都市では結構大きめの街なのは間違いが無い。

 東の近郊都市だけは言ったことが全く無いから分からないけど、でも近郊都市の中では一番大きく人口もかなりだと聞いた事がある。


「基本は商業都市としての一面が強く、様々な形での商業が存在している街だな」

「そう言えば去年の末ぐらいに士官学校の分校で反乱が…」

「そうそう。その時に駆けつけたんだよな…分校は一旦封鎖したらしいけど。まあ分校とか本校とかあまり士官学校では関係ないけどな」

「授業内容とか一緒ですか? それとも全くの別?」

「一緒。学校の形が少し違うだけだ。まあ学校なんて詳細を語ったら同じものだよ。普通科の学校なんて一般的には殆ど一緒だろう? それと一緒。士官学校でしかも元が同じ学校なら内容も大凡同じだよ。まあ…昔は本校は偉い、分校は下とかいう風潮が一部であったらしいけど」

「まあその辺りはやっぱり人気の高い学校ではありがちですよね…本校で抱えることが出来る人数にも限りがあるから仕方ないですよね」

「そういうことさ。だから基本学校間で優劣を決めるなんて馬鹿がやることさ」

「分からないでもないな。だがしかし、人間は下らない事で盛り上がるものだ…」

「全ての人間を一括りにして欲しくないと此所で突っ込んでおくよオールバー。俺達の世代ではそんな事無いさ…まああの分校だけは違ったけど」

「そう言えば何が切っ掛けで反乱が?」

「南の近郊都市の分校は建物が古くてな。それが「本校は増築されるのに不公平だ」って言う話になったんだ」

「? 増築したり改築したりすれば良いでは無いか…」

「必要性を感じないからと言う理由であまり予算が下りなかったのと、そもそも生徒数が少ないと言うこともあり、元々潰して本校に合併させるべきかまで言われていたからな。それが「本校は自分達を見下している」とか「分校は所詮予備軍」なんて自らを卑下する切っ掛けになったんだよ。無論本校は何度も「それは無い」と訴えたけどな…」

「でも、幾ら予算とかで多少恵まれなかったとは言ってもそこまで酷いわけじゃ無いですよね? 学校が古すぎて問題があるのならむしろ改築が認められるはずですよね?」

「その通り。実際他の分校では改築されたという話はよく聞く。でも、南の近郊都市は帝都まで行けば本校があるし、そういう意味で本校に通う事が出来るから特に意識しないんだ。でも好きで南の近郊都市の分校に通う生徒は一定数いてさ。彼等は「分校こそ本当の士官学生だ」と主張する奴もいる」

「それはただ単に悲劇のヒーロー像に酔っている馬鹿者では無いのか? 要するに自分達は過酷な現状を受け入れられないように見せかけて周囲にいる人間達から注目されたいだけでは?」

「その通り。だからあまり周りも本気として捉えなかったんだ。それが良くなかった。結果、立てこもり事件が起きた。でも、それでも本校はあまり事態を重たく捕らえなかった。適当に交渉して終わらせようと向こうの条件に乗ることも無かったんだ。それが彼等の怒りを買う結果に終わった。そして…」


 そして事件が起きたんだ。

 あの痛ましい事件が起きて俺達の世代が呼ばれる結果に終わった。


「今でも思い出すよ。あの血で血を洗うような凄惨な事件、最後は結局で生徒同士の潰し合いだった…生徒同士なんて言ったが実際は俺とレクターで分校生を潰して回っただけだけど…」

「最後は軍が出動したんですよね? 父さんから後に聞きました。酷かったと…」

「分校生の殆どは俺達の戦闘後に逮捕、中には戦闘の余波で大怪我を負ってもう元通りにならないと言われた生徒もいる。最も元々交渉役としてやって来た本校生に武力で返すなんて事をされたら俺達だって応戦するしか無いだろう?」


 言い訳をするわけじゃないけれど、それでもあんな態度で来られたらこっちも対応するしか無いんだ。

 攻撃がやって来て「これはヤバい」と思って俺とレクターがやり返した所で戦火が開かれてしまった。

 あの時は流石に「少しやり過ぎたか?」と俺もレクターも後に後悔してしまったが、一度始った戦いを中途半端に終えれば彼等を調子付けることにもなるし、そうなればそれこそ軍が武力で鎮圧するだろう。

 下手に戦力を持っている分だけ警察では対応しきれるか分かったモノじゃ無い。

 ならもう軍が出動して鎮圧するしか無いが、ここは日本じゃなくガイノス帝国だ。

 ガイノス帝国軍は交渉が不可能なら銃を取る。

 そうなればもう殺し合いだ…怪我所じゃ済まされないだろう。

 それだけは回避するしか無いと俺達とふみジュリと共に突入したんだ。


「悲劇のヒーロー像が正しく愚かな行動へと走らせ、引くに引けない状況に追い詰められている自覚も無く、武力で返せば相手が引くと思ったのだろう? ヒーロー像がある分だけ厄介だな。彼等は「自分達は本校生より強い」とか「だから負けるわけが無い」とか「本校生は根性が無いから脅せば屈する」とか思ったのでは無いのか? そして本校側はまさかそこまで馬鹿じゃ無いだろうと考え、念の為にと武力で来たら返せるようにとお前達を派遣したのでは?」

「オールバーの言うとおりでさ。その予想を超えて最悪の結果に終わった。俺達が引けば軍が出動し多くの死者を出す。なら俺達が介入してなるべく死者数を減らす努力をするしかない。でも…」


 彼等は自ら死ぬ道を選ぶようにまるで死を恐れない特攻兵の様に突っ込んできたんだ。

 俺達は迎撃するしか無かったとは言え、結果学生同士が潰し合うという状況に成り、結果からすれば軍が出動する切っ掛けになった。


「その後はどうしたんだ? ソラの話だとそれだと親御さんとかは文句を言ったのでは?」

「言っていたよ。本校に対し「慰謝料を払え」とか金を貪り取ろうとしていたけど、元々学校側は何も悪くない上、学生側の暴走という証拠だけはきっちり残っていたから結局むしろ学校の破損額や交戦時に起きた被害を弁償させられることになったばかりか、むしろ学校側は「生徒全員の退学」を決めて、彼等は未成年故に実名を伏せられたけど、どこぞの質の悪いジャーナリストが生徒の実名を明かしてしまったんだ。あれじゃどの学校にも入れて貰えないぞ…」

「それでお前さんの英雄譚にまた一つ泊が付いたと?」

「オールバー…」

「真実だぞ。それがこの少年の英雄譚の一つとして語り継がれたのだろう? それこそ真実を書き換えられて…」


 その通り。

 あの事件は決して綺麗事じゃ無かったし、綺麗事なんて一つも存在しなかったが、それを当時本校は他の分校に対して「自分達は対等。襲い掛ったらただじゃ置かない」という脅しに使ったんだ。

 師匠達曰く「多分結果もある程度は本校の狙い通りだろう」と言っていた。

 要するに元々本校はあまり生徒数が伸びない南の近郊都市の分校を閉じようとしていたのだろう。

 その切っ掛けに丁度良い生徒の心を利用したのでは。

 そう思うと正直やるせない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ