西の近郊都市 8
少年が微笑む意味がイマイチ理解が出来ないが、今のところエアロードとシャドウバイヤが現れる気配が無いので警戒心を解かないでジッと見つめて居ると、少年は両手をヒラヒラと動かして「降参」のポーズを取った。
少なくとも少年は「もう敵意は無いよ」とだけは言いたいようで、俺は「だったらエアロードとシャドウバイヤを解放しろ」とハッキリと告げると、少年と俺の間にスヤスヤと眠っているエアロードとシャドウバイヤが現れた。
どうやって隔離していたのかと聞いてみると、少年曰く「空間と空間の間に眠らせていただけだよ」と答える。
「ここは建物の中に作り出したズレている空間で、そのズレに二人を眠らせて隔離したの。だからこの二人は眠ってからこれから起きるまでの間は何も覚えていない。お兄ちゃんの実力を測るのに少し邪魔だったから」
「見えないんだから良いだろう?」
「そうは行かないよ。見えないだけで干渉できない訳じゃ無い。お兄ちゃんの指示があれば多分僕に攻撃を仕掛けるぐらいは簡単にできるはずだよ」
「因みに隔離している間に何かしたのか? それともして居ないのか?」
「していないよ。強いて言うなら隔離している間に起きちゃ困るから体を丸めて時を止めたけど」
しているじゃ無いかと突っ込みそうになったのだが、まあその程度なら良いかとこれ以上発言するのを俺は止めた。
最も能力自体がやったことなので、半分は俺の責任になる訳だが、問題は能力が空間ずらした場所に別空間を作ってなお何がしたいのかだ。
俺はそれをキチンと確かめたいと思っていた。
「何がしたかったんだ? 夢の中に俺を引きずり込むだけなら別に構わないが…まさか現実世界にすら影響を与えるとは想わなかった」
「狙いは二つだよ。一つはこれから起きる試練を前にお兄ちゃんの実力を測りたかった。もう一つは無間城崩壊の影響を今現在この街は受けているからその解決方法を提示しただけだよ。流石に可能性の支配だけでこれだけの空間を作るのは無理だよ。でも無間城が持っていた大量のエネルギーがもし帝都中に撒かれたのだとしたら、そのエネルギーを使えばこの程度の空間を作ることぐらいは簡単だよ」
「見えていたあの内容は?」
「あれは無間城が見ていた異世界の記憶の一部、記憶の一部と空間が結びついているから、記憶を除けば次の場所へと向うことが出来るの無間城は様々な異世界と繋がっていた。それは無間城のシステム上仕方が無いことだった。全ての異世界を滅ぼすか支配するというメカニズム上それは避けられない。だから、その中でも異世界にある不幸な記憶が無間城には蓄積されている。それがエネルギーと共に今帝都とその一体の近郊都市に漂っており、それが一部で空間にズレを生じさせている」
「この場所なのは何故だ」
「理由なんて無い。エネルギーはただの偶然で場所を選ぶ。強いて言うなら建物や広場などが選ばれる傾向にあるけど、それ以外は無いはずだよ。お兄ちゃんが何かをする必要があるわけじゃ無いけど。多分各近郊都市にエネルギーの収束地点が一つあるはず。帝都は多分必要ないよ。儀式場へと向って勝手に集まるから。お兄ちゃんは儀式の日までに正確には明日中には各近郊都市に存在しているエネルギーを解放して帝都へと送らないといけない」
「それをしないと何が起きる?」
「アックス・ガーランドが復活する際のエネルギーが足りなくなるかもしれない。僕には分かるけど…生き返らせるのなら必要なのは生き返らせる際の素体と膨大なエネルギー。素体は多分候補が居るんだろうけれど…問題はエネルギー。多分エネルギーにも当てがあるとは想うけど…それでも足りない可能性がある。だから僕が出てきた。アックス・ガーランドに生き返って欲しいのは僕も同じ。あの人はソラの次に見つけた候補だから」
「あの人を異能で縛るつもりか?」
「怒らないでよ…それが僕の役目でもあるんだよ。僕は相応しい使い手を選ぶ。ソラはその中でも最も相応しい使い手だ。でもあの人も同じぐらい相応しい使い手になる。その為にはとにかく生きている時間が居るんだ…」
最も生き返るのに時間が居るのならそう動くしか無い。
「で? この場所のエネルギーは何処にあるんだ?」
「この先だよ。奥の扉を開けて進んだ先にあるはずだよ。膨大なエネルギーがあるからそれを切れば良いだけだよ…異能殺しの剣で」
俺は消えていく少年を敢えて見ないようにしてエアロードとシャドウバイヤを回収後奥の部屋へと入っていく。
先ほどと同じ感じの燃えさかる日本風のお城の中、先ほどより天上までが非常に広く3階建てほどの広さの吹き抜け、その一面が正方形の形をしておりその丁度空間の真ん中にエネルギーが球体の形をしているそれを発見した。
この空間自体は無間城の記憶にエネルギーが結びつき、それを可能性の支配が空間をずらす事で完成したと言っていた。
なら他の空間はダイレクトにこんな形の空間があるのだろうか。
俺は異能殺しの剣を取り出してエネルギーを切り取ろうとしたが、足場から蛸の足のようなモノが俺に向って襲い掛ってくる。
俺は急いで距離を取って足の一本を異能殺しの剣で切り裂き、再び駆け寄っていくが切り取られた蛸の足はまるでトカゲの尻尾のように生えてきた。
いや生え方が異常と言ってもいいほどに速すぎる。
「トカゲの尻尾じゃあるまいに…しかも再生速度が気持ち悪い。本体が姿を現せよ!」
文句を口にしながら俺は蛸の足からの攻撃を回避するために一旦エネルギーから離れて壁際へと移動するが、すると途端足場が回転し始める。
嘘だろうという驚きと共に変わった足場を素早く切り替えると、新しい足場に今度は新しい蛸の足が生えてきた。
え?
さっきの蛸の足はまだ同じ場所にあるんだけど。
「何? 一体何体居るわけ? 一体じゃ無いの? これ…」
俺は待たしても襲い掛ってくる蛸の足を切り裂いてはエネルギーへと向おうと試みるが、やはり切っても直ぐに生えてくるのだが、俺は今異能殺しの剣で切っている。
再生の異能なら切った後での再生は出来ないはずだ。
と言う事はこれは異能では無くこいつの身体能力と言うことになるが、一体どんな身体能力なのだろうか。
と言うか蛸みたいな足だから蛸足と呼んでいるが、そもそも本体が見えない中で断言も出来ない。
まあ、蛸の足は八本とは言うが、こいつは八本どころか一面だけで十本はある。
すると、背中に無理矢理くくりつけていたエアロードとシャドウバイヤが起きた。
「なんだ? さっきから…と言うかどうして寝て…!? なんだこの状況」
「私達はいつの間に寝て、いつの間にこんなヤバそうな状況に成っているんだ!? ソラ。これは何だ?」
「今余計な事で話し掛けるな。見たままを受け入れろ。そして、起きたらな戦闘に参加してくれ…この蛸足のような奴切っても切っても再生してくるんだ」
「異能殺しの剣で切れば良いだろうに…私やエアロードが攻撃するのならともかく」
「もうしている。最初から俺は異能殺しの剣で切っているんだ。なのに再生する」
「と言うかこれは何をすれば終わる?」
「あのエネルギー体を攻撃すれば良い。どうにもこの蛸足はエネルギーを護っているようなんだ…」
「むう…なら私とシャドウバイヤで攻撃している間にソラが突っ込めば良いのか? なら手伝おう」
エアロードとシャドウバイヤは飛翔していき、俺の侵攻ルート上にある蛸足を次々と切り裂いて行き、俺はその間をひたすら駆け抜けていく。
しかし、蛸足はドンドン再生していき、それをエアロードとシャドウバイヤが再び切り落とすと繰り返す。
俺は最後にエアロードとシャドウバイヤの攻撃を掻い潜った蛸足の攻撃をジャンプで回避してエネルギーに剣を振り下ろした。