西の近郊都市 7
突然変わる景色に驚きながら俺はそっと足を踏み出す前にもう一度ドアを閉めてからもう一度開けてみるが、やはり見えてくる景色はまるで変わらない。
もしかしたら先ほど本を納めたことが理由なのかも知れないと、そう思って俺はドアをもう一度閉めてから先ほど本を本棚から取り出してからドアを開けてみると、予想通り廊下は元の中世のお城風の廊下に早変わりをしてしまう。
これで俺の予想が当たったと言うことが決定されてしまったわけだが、だから何だという事でもあり俺は本をもう一度本棚に戻してから廊下に出て行く。
宇宙ステーション風の廊下もこの後変わっていくだろうが、しかし何故中世のお城風のお城から急に未来のような宇宙ステーション風の廊下に変わるのかがまるで理解出来ない。
仕方が無いからという理由で俺達は再び廊下を歩き出し、またしてもドアを発見した。
今度は金属で出来た自動ドアであり中に入ると古ぼけた本から一転一枚のディスクとパソコンがある。
金属製の机と椅子、机の上にディスクとパソコンがあり、俺は椅子に座ってパソコンを起動後ディスクを入れて中を確認すると、やはり簡単な文字が浮かび上がってきた。
「まただ…今度は近未来のお話だな。えっと…一人の男が化け物に挑んだけれど勝てなかったという話だな」
「なんだそのバットエンドは。見ていて全く嬉しくない。折角なら倒せよ」
「だが現実なんてそんなものだろう。本当の意味で化け物に一人で勝てる奴なんてそうそういないぞ…これが現実だ」
「身も蓋もない話だな。でも確かに後味が非常に悪い内容なのは確かだな。もっとマシな結末が無い物かどうか…」
俺はパソコンを敢えて閉じないまま椅子から立ち上がりそのままドアの方へと向って歩いて行くと、自動ドアが勝手に開き今度は燃える日本風のお城が姿を現していた。
あまりにも突然訪れる危機的な状態に咄嗟に後ろに下がりそうになったが、しかし逃げても脱出出来るわけが無く俺は次のドアに向って走って行こうと駆け出して行った。
前の時には何も襲ってこなかったので、今回もそうだろうと勝手に予想して入り出すと俺の視界の先に仮面を付けた少年が手招きをしながら小躍りして居るのが見えた。
俺はエアロードとシャドウバイヤに「あの少年だ」と指を流石、エアロードとシャドウバイヤには全く見えていないようで「?」みたいな感じで首を傾げてしまう。
俺にしか見えていない人間と言うことか?
なんで俺にしか…見えないんだ?
少年は俺に何度も何度も手招きをしては何処かへと誘導し、燃えている日本風のお城の中を走って行くと、人一倍大きな空間に出た。
今までとは全く違う場所に驚きながら俺は仮面を付けた少年にようやくの思いで近付いた。
大きな空間とは言ったが、天上まではそこまで高いわけでは無い。
要するに広い空間なのだ。
殿様でも現れそうなほど綺麗な空間が炎で燃えさかっているのだからこれがどれだけ異常性の高い状況かが良く分かるだろう。
仮面の少年はそれでも笑っており、俺は少年に「君は誰なんだ? 何故俺を此所に連れてきた?」と聞いてみると少年はただ笑うだけ。
いい加減付き合うのにも疲れてきた俺は少年の仮面を引っぺがそうと試みるが、少年はそれを紙一重の距離感で避けてしまった。
避けた先で五歩ほどの距離感を作りだし、俺に向って「ケタケタ」と笑ってはただ見ているだけ。
何かを言うわけでも無い、何かを訴えているわけでも無いこの状況を俺はどう突破したら良いのかまるで分からない。
「君は俺をどうしたい? 何が言いたいんだ? どうして俺を此所に連れてきた。君は…誰なんだ?」
「僕はね……誰でしょうか? お兄ちゃんが僕と遊んでくれたら教えてあげるよ。どうする? 僕に勝てたらお兄ちゃんの質問に答えてあげるよ」
俺は緑星剣を取り出して仮面の少年の方に剣先を向けるが、少年はそんな剣先にまるで怯える様子も無くケタケタと笑うだけだった。
俺は先手は譲るつもりで黙りこくっていると、少年は地面を強めに蹴って俺に向って走ってきた。
俺は振り下ろされるかかとを緑星剣の腹で受止め、そのまま空中に向って強めに弾き少年に軽めに斬りかかるが、少年は空気を足場にして俺に向って跳躍。
鳩尾目掛けて鋭い蹴りが向けられるが、俺はそんな攻撃を紙一重で回避する。
少年の身軽さや行動の早さに驚いてしまうが、何よりもこの状況エアロードとシャドウバイヤはどう思っているのだろうかと思って二人を確認すると、二人がいなくなっていた。
俺は少年の方を強く睨み付ける。
「エヘヘ。此所はお兄ちゃんと僕だけだよ。あの二人を取り戻したいなら僕に勝つしかないよ…お兄ちゃんは僕に勝てるかな?」
「君をただの少年だとは想わない。だが…踏み越えても良い一線というものが存在する。そこを超える限り例え君がどんな存在でどんな理由で立ち塞がろうと許さない」
「まるで僕の正体なんてもう気がついているって聞えるよ。お兄ちゃん」
「ああ…大凡。何となくだけどな…まだ確信を持てているわけじゃ無いが…何となくではあるけれど…」
「凄いね…お兄ちゃん。その答えが合っているか僕に勝つしかないよ」
「勝つさ…今まで俺に勝てたことがあったか? 俺とお前でどれだけ経験を積み重ね来たと思っている? 隆介」
「……凄いね。でもそこで半分だよ」
「分かっているさ。でも……もう答えだろう?」
俺は地面を蹴って少年の首元に緑星剣を振り抜くが、少年はそれを後ろに大きく仰け反る事で回避した。
そしてそのままの状態で俺の剣を吹っ飛ばそうとサマーソルトを決めようとするが、俺はその瞬間に緑星剣を消して再召喚し直す。
サマーソルトが完全に外れてしまったわけだが、だからと言って素早く攻撃に移れるわけでは無い。
少年は両手で地面を強めに掴んで俺に喉元目掛けて今度は蹴りをお見舞いしてきた。
蹴りが喉に当たる直前に右側に体を反らして回避、体を強く捻って緑星剣で喉元目掛けて振り抜く。
喉元まで襲い掛ってくる攻撃を少年は再び仰け反る事で回避しようとするが、俺はその途端攻撃軌道を急遽下の方へと向って少しだけ軌道変更を試みた。
その途端仮面を俺は強めに遠くへと弾いてしまう。
俺と少年の間に間が開くのだが、俺の目の前には中学時代の隆介の姿が現れた。
隆介…俺がまだこの世界に来る前の友人である。
そして死んだ三十九人の一人なのだが、本来インドア系の隆介がこんなに動けるわけが無い。
それは分かりきっていたので俺は正体が単純に隆介だけじゃ無い事ぐらいは予想していたが、そんな中で俺が立てた予想俺にほどよく近い人間でラウンズとして欠片を取り込んだ死者、その中で候補で一番上がったのが隆介だったのだろう。
だから『竜達の旅団』は隆介の体を借りて実体化した。
「君は竜達の旅団ならぬ可能性の支配が実体化した姿。隆介を選んだのは単純に俺と年齢が同じでラウンズとして取り込んだ死者の欠片の中で俺に近い存在として選んだ。単純に能力として最も適合が高いのなら隆介では無いだろう? たった一人…彼女がいたはずだ」
かつて俺を愛してくれた人、ジュリと異世界を挟んだ同一人物だったはずの彼女、そして俺が殺した人で同時に黒衣の騎士として国家の転覆を狙った人物。
彼女が居ながらもそれでも隆介を選んだのはそういう理由であるはずだ。
「言っておくが。例え君が俺のかつての友人の姿を借りても、君が俺の能力そのものでも超えて良い一線がある。エアロードとシャドウバイヤを解放しろ!」
「分かっているよ…やり過ぎちゃった。やっぱり凄いな…お兄ちゃん」