西の近郊都市 6
とりあえずエアロードとシャドウバイヤは締め上げておき、俺はふと時刻を確認するとまだ三十分ほどしか経過して居ないと言うことに気がついた。
と言う事はと想いながらジュリとケビンが入って行った洋服店の方を見て見ると、中で二人が楽しそうにキャッキャとショッピングをして居る光景を見つけ出した。
とそう思っていると海が居なくなっていることにも気がつき、俺はエアロードとシャドウバイヤに「海は?」と聞いてみたが、オールバーが「もっと食べ物」と言い出したので連れて行ったそうだ。
するとエアロードとシャドウバイヤが期待満々な目で見つめてくるが、俺はそんな二人に対してハッキリと「何も買わないぞ」と言って突き離すが、二人がブーイングをしながら歌を歌い始める。
結構恥ずかしい感じの歌なので聞くに堪えなくなった俺は「分かったよ」と折れるしか無かった。
適当に屋台を巡って行き気に入った料理を買ってベンチで食べさせることにしたが、女子の買い物は結構長いんだよな。
「どうしたら良いものか…エアロードとシャドウバイヤのお守りなんて凄い嫌なんだけど…だからと言って此所で大人しくしているというのもな。勝手に移動しても良いものだろうか?」
「勝手に移動すれば良いのでは無いのか?」
「なんで他人事よ。お前達のお守りを現状任せられている俺に対して感謝の言葉ぐらい存在しないかね?」
「「サンキュー」」
「トコトン馬鹿にしたような態度で…いつか痛い目にあうからな。全く…」
全く反省する素振りを見せない二人にこれ以上何を言っても無駄な気がしたので敢えて突っ込まない事にした。
心の中で「二人に天罰を」と願っている程度にしておき、俺は改めて暇にしまった現状に対し、暇だからという理由でこの辺りの観光でもしておこうと想って歩き出す。
すると、二人は急いで俺の体にへばりついてくる。
結構重いから止めて欲しいのだが、て言うかシャドウバイヤに関しては影に引っ込めば良い物を。
何故ワザワザ俺の背中にくっ付いて行動するのだろうか。
「想いからシャドウバイヤは影の中に引っ込めよ…両方が俺の背中にへばりつくと重いぞ」
「お前の師匠が背中を、ブライトが前方を、私が肩を担当していたときよりは楽だと思う」
「それを誇らしげに言われても困る。そもそもお前は食べたばかりだから結構重みを感じるんだ。て言うかあんな筋トレを今からしろと?」
「良いでは無いか。たまには外を見ていたいのだ…さあ歩け」
命令されると非常に腹が立ってしまうが、どうやらマジで意見を変えるつもりが全く無いらしく、ここは俺が大人しく折れるしかなさそうだと考えて諦めて歩き出す。
結構なビル群なので見所なんて何処を探せば良いのやらと想って歩いていると、大きなビルの目の前に先ほど夢の中に現れた仮面を付けた少年が手招きしているのが見えた。
流石に驚くしか無い現状俺はその少年を追いかけて走って行くと、少年は手招きしたままビルの中へと入り込んだ。
どうやら証券会社のようで最上階付近は美術館となっていると描かれているが、そんな事がまったく気にならないぐらいの衝撃がこの体を突き抜けた。
「美術館に行くのか? 正直美術という項目は良く分からん」
「何を言っているんだ? さっき見えたろ? 仮面を付けた少年」
「? いや…見なかったと思うが…何故そんな奇妙な姿をしている少年が気になる? 何かあるのか?」
シャドウバイヤにそう言われてもまさか夢で会ったからなんて言えるわけが無い俺、今は黙って追いかけるしか無いと思ってビルの中へと入り込んだ。
すると本来であれば広めのロビーに受付嬢などが出迎えてくれるであろう場所、しかし俺の目の前にある光景は全く違うものだった。
誰も居ないビルの出入り口は中世のお城を彷彿させるものに成り果てており、流石にこの状況を見ればエアロードとシャドウバイヤも異常事態だと理解してくれた。
「??? 何故今石造りのお城に変わったのだ? 今の今まで入ろうとしていたのはビルだよな?」
「そのはずだが…何故急に?」
「まだ続きなのか? でもこの空間からは敵意をあまり感じない。慎重に行くからシャドウバイヤは影の中に。エアロードは俺の右肩に居てくれ」
二人は俺の指示通りの位置に移動して俺は緑星剣を抜いて念の為に警戒態勢を作り出し、同時にエコーロケーションで広範囲索敵を行なうのだが、どういうわけか全く探し出す事が出来なかった。
手探りで探すしか無いと俺が歩き出すと奥の方から狼の様な姿の化け物が涎を垂らしながら現れた。
だが、これからもやはり敵意をあまり感じないのだが、これはなんなのだろうと想って緑星剣を強めに握りしめていると、狼は大きな牙を剥き出しにして俺に向って襲い掛ってきたのを俺は剣で牙を受止めて狼を壁に力一杯ぶつける。
狼の体はそのまま壁に激突してからまるで幻だったかのように消えていった。
「消えた…幻か? それとも…」
「少なくとも襲い掛ってこられても敵意はまるで感じなかった。まるでコンピュータに予め設定されていた行動をそのまま実行したかのようだ」
「コントロールした奴がいるのか?」
「それは無いな。それでも最低限で殺気を感じるはずだ。だが、この狼からは殺気をまるで感じなかった。この場所の設定故なのかもな…慎重に行こう。シャドウバイヤは念の為に後ろを警戒していてくれ」
「と言うか外に出て応援を呼べば良いのでは無いか?」
「無理だなエアロード。外への出入り口ならもう無いぞ。脱出するのも何をするのも前に進むしか無い」
此所は前に進むしか無いと割り切って俺は前に向って歩き出していく、床は真っ赤で高級そうなカーペットが敷かれており、壁には蝋燭が微かな明かりになっているのだが、窓は愚かドアすら存在しない。
此所の空気はどうなっているのかと不思議に思っているが、まあこういう場所に常識を求めるのが間違っているような気がするので気にしないことにした。
だが、歩いて一分ほどして右側に片手で開く木製のドアを発見し、俺達はそのドアを開いて中へと入って行く。
中は狭めに作られており、六畳ほどの広さに本棚三つが横並びに、その前には木製の綺麗な机と椅子が置かれている。
天上にはシャンデリアの様な明かりが、机の上には一冊の本が無造作に置かれており、俺はその一冊の本を手にする。
「よくもまあお前はそんな本を普通に取ることが出来るな」
「まあ…俺は聞かないしな。異能が」
「で? 何と書いてある?」
「エアロードが本の中身を気にするだと? 天変地異が起きるのか?」
「読まんからな。中身だけ教えて貰うのだ」
「何というか…内容は良くある感じの中世ファンタジーって感じだな。一人の騎士とお姫様のお話。でも、その騎士が一見堅物なようで実は寂しがり屋だとか、お姫様は本当は幼い頃から知っているその騎士を心底信用していたとか描かれているけど…」
「ふうん。で? それが何だ?」
「知らないよ。これ…本の大きさの割りに中身は薄い。二ページほどしか無い。後は白紙だ…」
「中身は最後まで確認したのか?」
「ああ。だが描かれていないんだ。それ以外は白紙。何を意味しているのかも分からない」
本を本棚に返せば何か手掛かりが出てくるのだろうかと思って本棚を見ていると、エアロードが真っ直ぐに真ん中の本棚の下を指さす。
そこには一冊分が綺麗に抜かれており、俺はその場所に本を差し込むと丁度良いサイズであった。
でも…得に何も起きない。
そう思って諦めて俺は外へと出てみると、先ほどまで続いて居た中世のお城という感じの廊下から一転して今度は宇宙ステーションみたいな感じの廊下が現れた。