サマーデイズ 3
修行が行われて約一週間が経過し案の定奈美は二日で飽きた。
しかし、母に怒られると適度に手伝ってくれるようになり、ジュリは俺の専属みたいな感じて適度にサポート、レクターはガーランドの奥さんがサポートし、全体のサポートを母さんが担当するようになった。
レクターは体力面はおおよそクリアしているらしく、サクトさんの武術を習得と、雑さを排除しつつ完成度を高める訓練。
海は体力を身に付けつつ基礎的な武術の習得と完成度を高める訓練。
俺は体力を上げながら竜撃の完成度を高め、重撃を習得する訓練を行う事になった。
父さんは感覚的な説明をするから分かりにくく、サクトさんは相手に合わせるので分かりやすいがその反面俺自身と少し合わない。
ガーランドは理屈と感覚の両方を使って解説してくる上、細かい所まで良く説明してくれる。
体重移動がなっていない、剣を振るときに体の軸がぶれている等々、様々な指摘を受けた。
勿論ガーランド曰く「素人目から見たら分からないレベル」らしいが、これから戦う相手はそういう細かく小さな部分が命取りになる場合があるといわれた。
各自特訓メニューが違い、俺は体力増強と身体能力向上を兼ねて組手と素振りを前半メニューに、後半は武術の取得と向上に向ける事になり。
お昼はジュリが用意してくれたお昼ご飯を食べたのち俺達は食休憩を取ってから午後のメニューという段取り。
ちなみに開始三日後にレクターは落ち着きがないという理由から専用特訓メニューを組まれてしまい、その上朝早くから特訓をするという理由で早寝早起きを命じられたと嘆いていた。
何故嘆いているのかと尋ねたら。
「ここの温泉の露天風呂は夜中混浴なんだよ! 女性と一緒にはいれたら幸せジャン」
といういかにもレクターらしい言葉が帰ってきてある意味安心した。
という訳で一週間が経過し、俺自身修行にあまり手ごたえを感じていなかった頃、疲れ切って夕食を食べる前に俺は自室のベットの上で睡魔に負けてしまった。
ぐっすり眠ってしまい起きたときは夜中の一時になっていた。
「しまったな。お腹も空いたし………せめてお風呂位は入りたいな」
なんて言っていた所で俺はこの時間帯は混浴なんだと思い出してしまった。
まあ、まさかこの時間帯に入る女性何ていないだろうし……なんて思って風呂に行き一定の期待値を胸に俺は露天風呂に行くと……ジュリとサクトさんと…………ガーランドがいた。
なんだこのハーレム状態!?
つい口から出そうになった言葉を飲み込み立ち尽くしているとサクトさんが俺の存在に気が付いたのは俺の方に上半身を向けてくる。
ジュリ以上の特大サイズが俺の目の前に現れた。
「あら……そんなところにいたら夜風で風邪ひくわよ」
手招きされるがままで俺は露天風呂に入っていった。
念のためにとジュリやサクトさんから離れる場所に腰を落とし、いったん全体を見回す。
ガーランドは慣れているのか、意識していないのかお酒を嗜みながら一人ゆっくりと使っている。
「まさかとは思いますが………サクトさんこの時間帯に毎晩は言って朝早くに起きているですか?」
「まさか。今日は夜にお風呂に入ろうと思って早めに寝ておいたのよ。この後二度寝するわ」
堂々と二度寝宣言に唖然とする俺。
「ジュリは? この時間帯に?」
「ううん。どうしてもやっておかなくちゃいけないことがあって、それをしていたらこの時間帯に」
「大丈夫か? 明日も早く起きるんだろ?」
「大丈夫。大丈夫。朝食はソラ君のお母さんとガーランドさんの奥さんが要していてくれるから。私は少し寝ておく。ソラ君こそどうしたの?」
俺は視線を逸らしながらおおよその流れを語った。
決してジュリの谷間に意識が行って説明できそうにないとかそういう理由じゃない。
「ガーランドは? いつもこの時間に?」
そういえばお風呂に入るときはいつもレクターや海や父さんはいてもガーランドの姿を見たことが無かった。
「そうよ。お風呂に一緒に入るのが恥ずかしいのよね?」
ガーランドの顔がほんの少しだけ赤く見えるがお酒の所為なのか、それとも恥ずかしさからなのかという判断基準が分からない。
俺が星空を見上げ息を吐き出すとほんの少しだけ息が白く見えた気がした。
その内ガーランドが先に風呂から出ていくと、サクトさんが近づいてくるので俺は急いで距離を取る。
「どうして逃げるのかしら?」
「むしろどうして近づいてくるのでしょうか?」
そっちが気になって仕方がない俺であるが、この人たちにその辺を聞いてもはぐらかされそうなので距離を取りながら話を聞くことにした。
「ガーランド君の所に行って背中でも洗ってあげてくれないかしら?」
露骨に嫌そうな表情をしてしまう俺。
ジュリが苦笑いを浮かべながら俺の気持ちを代弁してくれ。
「ソラ君嫌なんだと思います。聞いた話だろソラ君アベルさんからのその頼みを断ったと聞きました」
サクトさんが「あらあら」と言いながら一歩近づいてくる。
俺は逃げる為に足腰に力を籠めるのだが、それ以上の速度でサクトさんが重なってきた。
出来る事ならこの場から素早く離脱したいが、関節技を決められているかのように身動きが出来ない。
「分かりました! 分かりました!! やればいいんでしょ!?」
サクトさんが離れていく俺に対して「お願いね」なんて言うのだが、俺としてはなんであの人の背中を洗わなくてはいけないのかが分からない。
そもそも、なんで中年大生と言ってもいい男の背中を洗うというメンドクサイ状況、そこに自ら突っ込んでいかなくてはいけないのか?
案の定体を洗っているガーランドの所にまで近づいていく。
「…………体洗おうか?」
もの凄い小声で語り掛けると、はっきり聞いていたらしく「いいのか?」と聞いてくるので俺は苦渋の決断で「まあね」とだけ答えた。
何が楽しくてオッサンの背中を洗わなくてはいけないのか、傷だらけの背中を洗っているとガーランドが突然口を開いた。
「こうして背中を洗ってもらうのは初めてだな」
「?海と一緒にお風呂には………そうか海は律儀な性格をしていたっけ? 他の兄弟は………インドア派でした」
「そう言う事もあって一緒にお風呂に入ったことは無いし、こうして背中を洗ってもらったことも無い。そもそも私は子供達とあまり仲が良くない」
そんなこと無いだろう。
なんて思ったがそういえばあまりそういう話を聞かない。
「接し方が分からないのだ。昔強引な方法でここに連れてこようと思って失敗した。昔から戦争にかり出されたりと忙しかったからな。中々時間が取れなかった」
「そういえば他の家族の話を聞いたこと無いけど、そう言った人達に任せるとか出来なかったの? ガーランド家と言えば武門名家だろ?」
「もういない。私は三兄弟の末っ子だった。みんな戦争で亡くなったよ。なし崩し的に私が当主になり、父親も戦争で、母親はその後を追うように病死した。それでもさみしくは無かったな。なんだかんだアベルやサクトが居たから」
いま初めて知ったこの人の過去。
「でもだからか家族や周囲の人間に対してどう接すればいいのか分からない」
「それで俺とのファーストコンタクトになるわけだ」
「そう言う事だ。だからお前から避けられ時は正直弟子を造るチャンスを失ったと後悔した」
そう言う事だ。
この人は臆病なんだ。
今こうしている間も他人に嫌われることを極端に恐れているし、こんな状況でもないと愚痴を漏らせない。
だからサクトさんは俺を行かせようとした。
弟子として師匠の事ぐらいは知っておけと。
「安心しなよ。今更嫌ったり遠ざかったりあんたの事を無視したりしないからさ。男が一度口にした言葉を捻じ曲げたりはしないからさ。あんたがどんなことをしても最後まで師弟として貫くよ」
俺が出来る事はそれぐらいだから。