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エピローグ:そして前に進む

 結局で師匠がどうしてこんな場所へとやって来たのか全く理解が出来ないまま十分ほどが経過し、師匠は「まあ良いか」と言いながら歩き出していくと、俺達は再び帝都の中へと入って行く。

 しかし、大きく分厚い壁の向こう側に草原の草の文字すら全く存在しないぐらい高層ビル群と都市高速などが行き交う都市の街並みがあると正直素直に引く。

 ひいてはいけないと分かっていながらも、それでも敢えて言おう…引くと。

 素直に地下鉄に入って戻ろうとしていると地下鉄でちょっとしたトラブルが起きていると言うニュースがやって来た。

 タクシーで帰っても良いのだが南区の中央駅前までタクシーで行こう者なら今持っている金では心許ないし、師匠が金をしっかり持っているとは想えない。

 念の為に聞いてみたが師匠は「そこまでは持ってない」とハッキリと教えてくれた。

 では仕方が無いと俺は師匠を連れて近くのショッピングモールであるビルへと入り込むと、中では俺達と同じように地下鉄が再開するまで待っている待機組でごった返している。

 考える事は同じか。


「適当なお店入ろうか…そう言えば少し奥に小綺麗な小さい喫茶店があるって聞いた事があるな。この辺に住んでいる士官生がそんな事を言っていたよ」

「ほう…ならそこに行くか」


 因みにそんな場所で何か注文したら流石に師匠は帰られなくなるのでは、と少しだけ心配してしまったが、師匠は切り札のカードを持っていたので問題は無かった。

 結構曲がりくねった先にあるのは小さめの綺麗な喫茶店であり、少し古めに作られているのか、壁は濃い茶色の木目が綺麗になっており、植物が良いアクセントになっている喫茶店。

 隅っこの席に案内されて俺は師匠を廊下側に座って貰い、そのままメニュー表に描かれているホットコーヒーとティラミスを注文した。


「地下鉄のトラブルはそんなに起きるのか?」

「う~ん。どうだろう。俺はあまり聞いた事が無いけど…基本トラムとバスだけで住むし。旧市街地だとトラムしかは知ってないしさ」

「バスは?」

「トラムが先に作られちゃったからバスの走る余裕とか無いんだってさ。地下には地下水道が走っているから地下鉄は作れないらしいし。最も今はその更に地下に作ろうって計画しているらしいよ」

「ほう…地下鉄を作ったらトラムはお役目ご免だろうな」

「いや。観光名所になるから残すらしいよ。その場合。でも…こうやって色々な事が変わっていくのもまた皆で勝ち取った結果なのかな?」

「そうだ。お前は誇っても良い。こうして私を救ってくれた。お前はもう立派に独り立ちしているよ」

「止めて欲しい。まだまだ俺は半人前だよ。師匠からなし崩し的に認めて貰っただけさ」

「…そう言えば最近ストーカー被害に遭っていると聞いたが?」


 俺は飲んでいた水を吹き出しそうに成ってしまった。


「だ、誰から? 海にだって言っていないのに!」

「誰かな? それで…お前の技術があれば簡単に巻くことができるだろう? 何故しない? 聞いた話だと撒こうともしないし、かと言って相手をするわけじゃないと聞いたぞ」

「…俺に弟子入りをしようとしている奴なんだ。最も俺は法律上まだ弟子を作れないって言っても聞いてくれないんだよ」

「可愛らしい方じゃ無いか。その子は才能はあるのか?」

「どうだろうな…」


 俺は正直どう答えたものかと本気で思案した。


「その子。実は元々士官学校の生徒じゃ無いんだ。女学院の生徒でさ。奈美からそっと噂は聞いていたんだけど…」


 奈美から聞いた話しだったのだが、マジだったとは本当に思っていなかった。

 てっきり作り出した適当な話だったと想像していたが、話し掛けられたときはマジで驚いてしまった。

 しかし、法律上は俺は弟子は取れないとハッキリと告げると途端ストーカーと化してしまったわけだ。


「その子は女学院の高等部に入ったのか?」

「いいや。そもそも俺に憧れるならせめて士官学校に編入しないととは言ったよ? そしたら…」


 俺が言いにくそうにモジモジしていると師匠は微笑を浮かべる。


「本気で編入試験を受けに行って合格した訳か? だがその話ならお前は直接は面倒を見ていないわけだな? それで良く合格できたな。士官学校高等部の編入試験は相当難しかったはずだ」

「そうなんだよね。その上今年は海外からの編入希望者もまた多くてさ…合格なんて不可能だろうって思ったよ」

「フム。なら誰かに指示を受けたか。それも教えるのが非常に上手い人間。アベルは候補から外しても良いし、サクトはそもそも帝都に居なかったはず…流石に都市外へと探しに行くわけが無いか」

「そうなんだよね。で、聞いたら…師匠の師匠が話を父さんから聞いたらしく話を付けてくれたそうなんだ」

「だが親御さんはどう思っているんだ? 女学院に通っていたと言うことはその子はそこそこ良い身分の子じゃ無いのか? 女学院は基本授業料が高かったはずだ。無論ある程度の成績さえあれば奨学金制度が活用できるが、それでも基本は金持ちとかが通うはずだ」

「うん。南区郊外都市の結構有名な家柄らしくてさ。その子俺の戦いを知って俺に憧れたんだってさ。奈美からある程度は聞いていたけど…あの行動力は少しばかり驚いたよ」


 俺達の目の前にやって来たホットコーヒーとティラミスに手を付けていく。


「でも、その代わり親御さんとの関係は悪いらしくて」

「だろうな。親の立場からすれば大人しく過ごして欲しいと思って女学院に通わせたのに、いきなり士官学校に入りたいと言い出したら誰でも心配するさ」

「だよね。実質家出に近い形で出てきたんだよ。今は師匠の師匠宅に住み込みで弟子入りして居るらしいよ。あの人はサクトさんか師匠にやらせようとして居たらしいけど。師匠はもう「弟子は取らない」ってハッキリと決めているし、サクトさんは仕事が忙しくてそれどころじゃ無いから。俺が弟子入り可能な状態になるまでは代わりに預かるって」

「あの人らしいな。考えている事が…だがお前は弟子入りを認める気はあるのか?」


 結局はそこなんだ。

 俺自身がどうしたいのかが全く今現在見えてこないのだ。

 別段本人を嫌っている訳じゃ無いが、俺のように半人前に弟子を取ることが出来るのだろうかと言う気持ちが無いわけじゃない。

 すると師匠はホットコーヒーを一口だけ飲んでから俺に向ってハッキリと告げた。


「お前は知っているだろう? 私は今までまともに弟子を取ろうとしなかった理由。かつて弟子を育てるのに失敗しそれを恐れていたからだ。だが、お前は立派に育ってくれて、その上世界の危機に立ち向かった」

「でもそれは…多くの人の支えがあったからだ! 俺一人で何かを成したわけじゃ無い!」

「分かっている。それで良いんだ。それで良い…お前は俺が一番教えたかった事をキチンと理解してくれた。人は生きる限り誰かと共に過ごすしか無い。だが、私は今まで失敗からそれを少しだけ恐れた。だからこそお前にそれを教えたかった。所詮技術なんて生きていく過程で成長していくものだ。人間なんて常に成長なんだ。誰もが半人前のまま生きていくわけだ。お前はそれでいい。それを考えられる時点でお前は十分師匠としての素質はもう備えている。後は勇気だ。最初の勇気」

「最初の勇気」

「そうだ。それにお前はたった一人で全てを背負おうとした男を知っているはずだ。お前が忘れないで居るのなら、彼の世界を否定するのならお前は立ち向かうべき何じゃ無いのか?」


 そうか。

 俺は前に進んで良いのか…なら俺はと決めて無限の先に進んでいこうと決めた瞬間だったんだ。


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