夢幻を手に入れた者達 7
足下が正直おぼつかないような状況でなんとか異能殺しの剣を杖代わりにしてなんとか立っており、俺はそんな状態で大きく揺れる無間城から外を見ようと窓側へと寄る。
すると無間城が帝都の第一結界を突破しそうな所で浮遊する力を失いつつあり、このままでは帝都に落ちるのではと心配になってしまうが、そんな時だった俺の後ろから物凄い衝撃が俺の身を襲う。
そのまま転がって壁に激突する事で一旦止まるのだが、何事かと思って振り返るとジェイドの死体を媒体として不死者達の魂がなんとか行動しようとしている事に気がついた。
ジェイドという支えを失ったからこその現象なのだろうが、これは流石に想定外でこんなの聞いていなかった。
そう思って見ているとその動きに一過性がある事に気がつき、これが誰かによって操られていることに気がついた。
それが誰なのか、ジェイドや周りの者達の会話によって導き出された答えを口にする。
「メメントモリなのか? アンタがこの状況を?」
「君がジェイドを殺してくれたお陰でこの肉体に刻まれていたこの無間城のシステムを奪取することに成功した。後は君を殺してから無間城を帝城にぶつけるだけで良い。やはり私の計画は完璧だ。君達こそが私にとっての協力者だった!」
「ジェイドはアンタが裏切り者だって分かっていたよ。そんなジェイドがこの状況を想定していないとは思えない」
ジェイドの発言からメメントモリが裏切り者であると想定したが、同時に聞いているだけの俺でも想定できたのだからジェイドが知らないわけがないのだ。
ジェイドは確実に知っていて何か対策を講じているはずで、そもそもジェイドは自分が負けるパターンをキチンと考えていた。
彼は自分が勝つパターンも負けるパターンも想定して動いている節があり、彼の行動や発言がそれを物語っている。
それに俺は先ほどの発言を思い出してゆっくりと立ち上がり、活性化の呼吸で体力と傷をなるべく素早く癒やしていくが、視線を潜った傷や消耗がそんなに簡単に払拭できるわけが無い。
それでも立ち上がり両手で剣を握りしめる。
「アンタを殺せば晴れて俺達の完全な勝利になる訳だろう? アンタだけが裏切り者な訳だし…なら俺が決着を付けるだけだ」
「無理だな。君の肉体の消耗は正直限界のはずだ。君の異能が周りからの治療能力を阻害する以上は君には抵抗するだけの回復は不可能だ。負け惜しみでしか無い」
「負け惜しみで結構。負けるときに下を向くような性格じゃ無いんでね。それに、俺は負ける瞬間でもキチンと前を向いて進むだけだ。師匠やジェイドがそうであったように!」
「それは屁理屈だな。世に出れば通用しない理屈だ。所詮敗者は敗者。勝負なんて最後に勝てば良い。過程なんて意味を持たないのだ。結果を出せば良いこの世の中で君もジェイドも過程を重用しすぎている」
「過程は重要だよ。間違って選んだ道を進んで出した答えは例えそれがどんなに良いことをしたとしても後悔に繋がるから」
「後悔に繋がらないよ。だって結果が正しいから」
「良いや違うな。それは良心を持っていないからだ。お前は機械だから心を完全に理解出来るわけじゃ無い。だから結果だけを求める。迷い、立ち止まって、考え、時に導かれて人は生きている。それが当たり前の世の中で結果だけを追い求めても本当の理想には絶対に届かない! この世の中はそう出来ている!」
「心なんて『あやふや』で『曖昧』なモノになど必要では無い。結果を導き出す事が出来れば答えなんて簡単に出せる」
「間違った答えがな。今分かった。お前…心があるんだな。しかし、お前自身はその心を否定している! お前は本当は心を理解出来たんだ。でも、数字でしか己を導き出せないお前には計測することが出来ない心は見えないんだ。心は計測できない。見ることも感じることだって本当は出来ない。だから常に他人は他人を疑い、時に信じて、時に裏切られそうになりながら生きているんだ。お前は怖いんだ! 裏切られることが!」
メメントモリが俺からの問いに沈黙と攻撃で返してきた。
ナノマシンの集まりが三つほどの刺殺攻撃へと変貌して俺に向って突っ込んでくるのだが、俺はそんな攻撃に対して大きく右に移動することで避ける。
どうやら会話が無駄と判断したらしいが、それはやはりメメントモリが何処かでは心を理解しながらも、心を得ながらも、その心を計測できない事に不満を抱いている答えに見えた。
やっぱりそうだ。
メメントモリはもう心を得ている。
「必死に否定しないと生きていくことも出来ないぐらいに弱いのよね? メメントモリ」
「全くだな。ボスも外すことが在ると言うことか? それともボスは本当は分かっていながら敢えて「機械に心は無い」と断言したのか?」
部屋にボウガンとキューティクルがそれぞれ現われる。
「何をしにきた? まさかお前達も無間城を手に入れるために?」
「大外れ。あの人から頼まれたモノ。「もじ自分が死んでからメメントモリが動くようなら殺してくれ」ってね。私は世界が存続して、そこに私が居るなら困らないモノ。言っておくけど…そもそもあの人の計画には反対だからね? 逆らうと殺されかねないから従っていただけだし」
「俺も同じだな。ボスから頼まれていた。お前は必ず最後には自分の計画を優先して動くだろうし、その時少年を殺そうと試みる可能性がある。だからこそ、もし少年を殺そうとしなくても、お前を殺せと」
「そうか…やはりバレていたか。ならお前達も殺すだけだ!」
「出来るかな? 君のように脆く愚かなただの機械生命体に」
部屋の中へとジャック・アールグレイが入り込んできた。
ドアを開けてさも当然の様に入ってきた彼はメメントモリが操っているナノマシンの集まりに対してレイピアを投げ付けた。
ナノマシンが次第に風化していき、それに対して追撃をするようにキューティクルは黒いヘドロでナノマシンの逃げ道を塞ぎ、ボウガンはナノマシンを燃やしていく。
いつの間にか不死殺しの剣が消えているが、俺はそれについては諦めることにした。
「止めろ! お前達は分かっていない! 世界が平和である世界はこれが一番なのだ!」
「命は奪い合う事で何時でも生きている。野生で生きている生き物で他者を、何かを奪いながら生きていない生き物なんて存在しない。もしそんな奴がいるのならそれは生きる事を諦めている生き物だ。植物も、動物だって、生きている以上は何かを代償として支払っている。そんな中でお前は争いという一点だけを否定し、それを愚かだと断定する。お前は逃げているだけだ。戦おうとすらしない。お前は…戦う事を初めっから放棄して居るんだ! ジェイドは戦おうとしていた。その上で辿り着く未来に責任を持とうとしていた! お前とは違う! 自分で戦おうとしない卑怯者が、世界平和なんて言葉を使うな! 世界の平和を考える権利があるモノは矛盾に立ち向かう者だ! 矛盾に立ち向かう覚悟と踏み越える勇気を持つ者だけが世界の平和を考える事が出来るんだ!」
「屁理屈だ! 世界から争いを無くす事が合理的な生き方だ!」
「それは不可能だ! それは生きているんじゃ無い! 死に続けて居るんだ! ジェイドは一回でもそれを生き続けるなんて思って居なかった。彼は分かっていたはずだ…それを世界を殺す行為だと!」
「そういうことだ。メメントモリ。お前は負けたんだ」
ボウガンの言葉にキューティクルは微笑んで返し、ジャック・アールグレイはスタスタと歩き出しレイピアを手にしてそのままメメントモリの本体を見つけて切り裂いた。