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夢幻を手に入れた者達 6

 ジェイドが何故笑ったのか俺は結局の所で知る事は無かったし、知ってもきっとジェイドへの想いを変えると言うことは無かったと思う。

 ただ言えることはジェイドはきっと最後には納得して逝けたのだろうという事で、俺はそういう意味では彼を楽にしてあげたのかも知れない。

 今思えばここ数日はずっとジェイドを追いかける戦いであったし、それ以上もそれ以下だって存在しないような日々だった。

 半月にも満たさないような日々の中で俺はまるで半年ぐらい戦っていたような、そんな気がする充実していた毎日と言える。

 師匠から教わったことを生かして次へと向う戦いであったが、恐らくジェイドもまた師匠だったのかも知れない。

 納得がいく結末を俺は見いだせたのだろうか、そう思って振り抜いた瞬間異能殺しの剣と不死殺しの剣が俺に何かを見せようとしてきた。

 意識が一瞬の中で古い記憶の中へと誘われていく。


 ジェイドが生まれた時代はもっと細かい国々が世界に存在しており、その殆どが不死者達によって苦しめられていたのだが、殆どの人達はそんな時代の中で隠れて過ごすような毎日を生きていた。

 それ自体は決しておかしいことじゃないと俺は、ソラ・ウルベクトは思うのだが、当時はジェイド達のように立ち向かって生きていく方が過酷だったのだろう。

 そもそも「じゃあ何故不死者達が現れたのか?」という疑問に対する答え、それは「エミルの水」を飲んだからというのが結論であったらしく、ではその水って一体何なんだという話であった。

 再生能力に非常に秀でた竜の亡骸が眠る大きすぎる池、その池が竜結晶の力で治療能力を与える水になった。

 本来の用途は体を付けることで傷を癒やす事が出来ると言うもので、それが本来の用途であったはずが、溺れてしまった人が水を飲んだ結果不死者となったという噂を聞いた人が集まってきて結果不老不死を作る水へと変貌した。

 でも俺はそんな水など聞いた事も見たことだって無い、そう思っているとどうやらジェイドが最後に不老不死に変化した後処理してしまったようだ。

 だから俺は聞いた事も見たことだって無かったのだ。

 当然の結果と言えば当然のことで、ジェイドは自分が不老不死になると言う目的さえ達成すればむしろ不老不死を増やしまくる水なんて不要な存在になり果てる。

 だからこそコッソリと処理をしたのだ。

 結果それ以上状況が悪化しないようにはしたが、それでも不老不死になる方法は実は幾らかあると言われている。

 だが、そのどれもが人を傷つける事を当たり前のように生きるようになる、

 そもそも不老不死なんてそういう風に生まれてきた特定の人間、キューティクルのような存在以外には許されていない。

 無論ボウガンの様になりたくてなったわけじゃ無い者のように「人間に戻りたい」と願う方が特殊なケースなのだ。

 殆どの人間は不老不死になりたいと願いなるので、戻りたいと願う事も少ないが、大概の不死者達は「人間に戻りたい」ではなく「死にたい」と願う者なのだ。

 もしかしたらジェイドも同じなのかも知れない。


「早く死にたい」


 そう願っていたのかも知れないと思えるようになれた。

 ではジェイドがエミルの水を処理した後で何をしたのかと言えば、その後は初代ウルベクトと同タイミングで旅に出たそうだ。

 最も世の中は不死者に対してかなり厳しい時代だったからこそ目立たないように生きていたそうだが、そんな中で出会えたのがカールだったのだそうだ。

 世界を巡っていた頃の事をジェイドはあまりキチンと覚えているわけじゃ無いらしいが、彼が不死狩りを本格的に行ないながら異世界の支配を目論み始めた切っ掛けは『始祖の吸血鬼』だったのだそうだ。

 出会えたインパクトは非常に大きく、石積みの城に住んでいたかの存在はジェイドには驚きとともに脅威を十分感じさせた。

 同時に知る事になる。


「この世界にはこんな化け物が溢れているのか? そんな化け物達が異世界では生きているのか? そんな恐ろしい事が許される世界なのか? これが人の業という奴なのか?」


 元を正せば始祖の吸血鬼もまた人間であり、人の欲望が成せる御業と言えるだろうが、ジェイドはそんな事を今まで知る事も無かった。

 不老不死になりたいという人の業、それを決して止められない欲望の恐ろしさ。

 そして、そんな化け物を前にして一体どれだけ人という種が非力なのかという事を思い知らされる切っ掛けになる。

 世界はこんなにも思い通りにならず、人はこんなにも欲望に生き様を左右されるのだと。

 幸せになりたいと願えば人は沢山の争いを自然と生み出し、それが世界の当たり前なのだと、そしてその都度そんな中で少しでも多くの平和を作り出そうと奮闘する者がでは救われるのかと言えばそれは無い。

 無かったのだ。

 いずれはそんな人達すらも忘れられるし、覚えていられる人なんて本当に極僅かなのだと。

 殆どの者は歴史に名を残せず風化していく時代に取り残されてしまう。


「戦った事を褒めて欲しいわけじゃ無い。戦った事を認めて欲しいわけでも無いが…こんなに命懸けで戦って…結局で人は戦って貰った人達に感謝もしないで、今までの鬱憤晴らしの様に生きるだけ…正しいわけが無い」


 命を賭けて戦い、そんな戦いを「当たり前」という一言で済まされては次の戦いへと向わされるという真実に気がついてしまったジェイド。

 不平等で理不尽な世界と人の有様に絶望したし、そんな中でも不老不死である不死者に運命を左右されてしまう残酷な人達を前にして「我慢してくれ」なんて言えるわけが無かった。

 耐えて欲しいとかただの理不尽で身勝手な願望なのだと、そんな事を言うなんてジェイドにはどうしても出来なかったのだ。


「なら私が世界を支配する。幸せが欲望を生み、欲望が争いを生むのなら私が世界を変えよう。人から欲望を取り除き、人に永遠の今を与える」


 だからジェイドは異世界侵略を本格化させるようになったのだ。

 しかし、同時にいずれ現れる不死者を殺す力を持つと言われている英雄「異能殺し」に一抹の期待を抱いて生きてきた。

 しかし、生きれば生きるほどそんな存在に行き当たることがないと言う真実が希望を絶望へと変えるには十分だった。


「やはり異能殺しなんて存在しないんだ」


 そんな結論を見出されるまでに結構時間が掛かってしまった。

 それだけ賭けた希望は非常に大きく簡単に払拭できる者では無かった。

 だが、正直に言ってかつて愛した世界を滅ぼすというのは心苦しいものがあったが、だがそれでも一度決めてしまうと躊躇いなど存在はしなかったが、そんな時に出会ったのが俺。

 ソラ・ウルベクトと出会った時の衝撃はジェイドに思考を一瞬で真っ白にするほど。

 初めて出会えた異能殺しという予言された英雄を前にして今すぐにで戦いを挑みたいという気持ちを抑え、同時にはやる気持ちをこれ以上抑える事はどうしても出来なかった。

 だからライツ達アクトファイブを計画に引き入れ、俺と戦わさせる事で俺の戦闘に対する経験値を稼がせようと考え付いた。

 計画を早めすぎないようにバランスを考えて敵戦力を配置するように細かい作戦はボウガンに任せておいた。

 それが一番だとジェイドは考えたようだ。

 こうして考えてみて俺はジェイドがどれだけ願いを抱きながら生き続けてきたのか、そしてそれが終わる喜びが勝ったのかも知れない。

 ジェイドはだからこそ最後に笑って終わることが出来たのかも知れない。

 例えその先が永遠の無なのだとしても…。

 きっと向ったのだろう。


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