夢幻を手に入れた者達 5
ジェイドは俺の意見を聞いて「そうか」としか答え無かったが、俺はそんなジェイドに対して「そうなんだよ」としか言わなかった。
例え誰がなんと言おうと俺の英雄譚は師匠と共に歩いてきた英雄譚なのだ。
誰よりも師匠と共に歩き続けてきた英雄譚だからこそ、ここまで俺は来れたと思う。
どんな事を誰に言われたとしてもそれだけはきっと変わらない真実で、変えようとも思わない理想なのだろうと思えた。
あの人が居てくれたからこそソラ・ウルベクトという人間はここまで来れたし、あの人が支えてくれたからこそ今がある。
きっと俺は最後までそう思えるんだ。
だって師匠は俺に「自分が生きていく中で大切だったこと」を俺に教えてくれたし、俺の前を歩こうとしてきた人なのだから。
だから俺はこう言いたい…もう大丈夫だよ。
俺は地面を強めに蹴ってから接近していきジェイドに斬りかかるが、ジェイドはギアで攻撃を避けつつ俺の首へと向って不死殺しの剣を突き立てる。
ジェイドから襲い来る攻撃を俺はギリギリで異能殺しの剣で受止めつつジェイドを力一杯蹴っ飛ばす。
ジェイドは空中で受け身を取りつつ地面に着地、俺はそんなジェイドの着地を待つ前に急接近していき斬りかかるが、ジェイドは攻撃を受止めるには非常に速かった。
だが今回俺が使った攻撃は無撃の『無我』であり、斬撃能力ではそこそこ強めの攻撃がジェイドを襲ったはずだ。
着地したばかりで上手く体がついて行かなかったジェイドは受止めつつも後ろに更に吹っ飛んでいく。
ジェイドの体が強く壁に激突し壁から砂埃が姿を現したのを確認しつつ、俺は両足に力を込めて突進していき無撃の『送り火』を突き出した。
「無撃! 三ノ型! 永延舞!」
俺が繰り出した送り火を永延舞の最初の一撃で横に向って弾き、俺はその状態で四ノ型である『剥離』に攻撃を切り替えて二撃目に攻撃の衝撃を合わせた。
俺が下から繰り出した剥離の一撃に対し、ジェイドは上から永延舞の一撃を振り下ろし結果丁度真ん中で衝突し合う。
剣が強めに弾いてしまうが、俺はそのまま知った事かと思いつつ俺は更に足を強く前に踏み込んだ。
此所で押されたら負けてしまうという気持ちが何処かから生まれ、俺は踏み込む力を強くさせてジェイドの不死殺しの剣を上に弾く。
しかし、そこで俺としても少しばかり限界で体勢を整え直そうと思ってバックしつつ距離を取る。
ジェイドも少し後ろに下がりながら体勢を整え直そうとしているようで、俺は流石にそろそろ本気を出そうと思い魔法名を口にする。
「魔法名『可能性の支配』発動! アンリミテッド!」
「ここで使うか!? まさかな!」
俺は更に強化された攻撃に更に未来予知を加味して襲い掛っていく、ジェイドは俺から来る横薙ぎの攻撃に対し更にバックで回避し、俺はそれを読んでバックするジェイドに向って異能殺しの剣をぶん投げた。
まさか投げるとは全く思って居なかったジェイドは驚きの表情と共に異能殺しの剣を右後ろに向って不死殺しの剣で打ち上げた。
俺はその瞬間空間交換をしようと俺と異能殺しの剣の場所を交換してジェイドの真後ろを取る。
その状態で俺は異能殺しの剣を呼び戻し、右後ろからジェイドへと斬りかかる。
ジェイドはその攻撃をギリギリで避けようとするが、その途端ジェイドの右腕から血が噴き出していく。
「空間交換か…まさか使えていたとは…可能性の支配で作り出していたようだな。ならこちらも少々本気を出してみようか!」
ジェイドの目つきが大きく変わっていき、俺は目の前に居るジェイドがまるで姿が変わったように見えた。
いや、本当に姿が消えたのではと思われるほどの速度で移動したジェイドは俺を正面から斬りかかってきた。
俺はその攻撃をなんとか躱そうと後ろに下がるが、俺は左腕を負傷してしまう。
「まさかまだ速度が上がるとは思わなかった。上限じゃ無かったのか?」
「あそこが上限だと君に教えたつもりは無かったが? まさか私の能力の上限があそこだと思ったのか?」
「そうだな。でも…俺はこの状態に移行してノロノロと決着を先送りにするつもりはないんだ!」
俺は剣を振り回してジェイドへと接近していきジェイドに向って剣を水平に斬りつけるが、ジェイドはその攻撃を敢えてギリギリで回避しつつカウンターとばかりに斬りつけてくるが、俺はその攻撃を余裕を持って受止める。
そろそろ活路を見出さないといけない状況で、俺は地面を軽く異能殺しの剣で擦るとジェイドの目つきが一瞬険しくなった。
流石にアンリミテッド状態を維持し続けると体が持たない。
俺は再び地面を蹴った。
「無撃! 三ノ型! 永延舞!」
「そうくるか! アンリミテッド状態を維持しつつ永延舞を一体何分維持できるかな!? 無撃! 三ノ型! 永延舞!!」
至近距離まで接近していき俺達は何度も何度も斬りつけ続け、至近距離で続くそんな戦いで次第に不利になっていく俺、もう仕掛けるかと心に問いかける度に心は「まだだ」と返す。
仕掛けるのならギリギリのタイミングで無いといけないと自らに言い聞かせ、ジェイドも俺も少しずつではあるが傷が増えていく。
痛みに耐えながら俺はその時を待ち続けていると、俺自身の体力がそろそろ限界に到達しようとしているのがわかり俺は足がもつれてしまう。
このときジェイドが微かに考える顔になるが、焦る俺を見て芝居では無いと判断したのか俺に向って容赦無く『無我』を放とうとするのを俺は確認。
俺は急いで活性化の呼吸で体力を多少回復させ、先ほど斬りつけたときに仕掛けたトラップを起動させてジェイドの体勢を微かに崩す。
崩れた体勢で繰り出された攻撃は微かに外れ、俺はその状態で残った体力を使い切るような勢いで攻撃を繰り出した。
「無撃! 五ノ型! 無限領域!!」
踏み込んだ一撃に全てを賭けるように全身の力を込める。
ジェイドは繰り出される文字通りの最後の一撃を前にして選んだ選択肢は『全力で避ける』であった。
後ろに向って半歩下がって引き下がると、ギリギリで胴体を掠めるがそれでも致命傷と成る事は無い。
「今のが最後の一撃か!? ならこちらも!!」
避けられたという認識から俺が編み出した次の攻撃、ジェイドが俺に向って無限領域を繰り出したとハッキリしたタイミングで俺は更に一歩足を前に踏み出す。
それはジェイドにとってあり得ない行動で、表情が驚きのそれに変わった。
「無撃! 六ノ型!! 夢幻世界!!!」
ジェイドは今まで乗り越えると言うことを何度も何度も繰り返してきたつもりだったが、今の今まで自分自身が本当の意味で限界を乗り越えようとしてきたのか不思議だった。
正直に言えば無撃の最後の型である『無限領域』は想像段階でどうしても攻撃を仕掛ける前に大きめの隙が存在している事は防ぎようが無かった。
だからこそ切り札としてしか使わなかったし、それ自体を不死者である彼は弱点としてあまり考えなかった。
攻撃を受けても死ぬことが無いのだから、それに後出しすれば済む話である為ソラとの戦いでもジェイドは後出しすると決めて戦っていた。
正直に言えばこのジェイドはこれについては敢えて乗り越えると言うことをしてこなかった。
しようとあまり考えなかった所でソラが繰り出した『夢幻世界』という技に驚きで表情を変えてしまったが、その後感じたのは満たされたという感覚だった。
(そうか…私の願いは叶ったのか。やっと終わるんだ。この長すぎる旅が…その行く末が…この少年は最後の最後で私をキチンと乗り越えて進んでくれた。私の願いは…叶ったよ)
ジェイドは最後の瞬間微笑んだ。