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夢幻を手に入れた者達 4

 ギア…師匠が名付けた『飛永舞脚』の正式名称がギアという名前であると言うことは実は俺は比較的最近知る事になった。

 切っ掛けは古い書物をエアロードと探っていたとき、その書物の中にそれは描かれており、それを当時師匠が知り『飛永舞脚』と名付けたという事も、だがその書物の中にはギアの扱い方や習得方法は描かれていてもそれ以上は全く描かれていなかったのだ。

 そう…ただギアという名前とそのギアがどんな効果を持つ技術なのか、重力と肉体を同時使用した短距離高速移動術であり、それを魔導機で強化し遠距離でも使用可能にしたものが『飛永舞脚』だと知る事になる。

 今ジェイドは短距離での移動術としてギアを使用し、俺はジェイドが作った本人だと知る事になった。

 最も俺が飛永舞脚に『ギア』という段階を付けたのは本当に偶然だったし、今の俺じゃ師匠のようなレベルまでは飛永舞脚を扱えないのも真実なのだ。

 無論無理をすれば飛永舞脚というレベルでは師匠と並ぶことが出来るが、あれは体付きがしっかりして居る人間が扱って到達出来る能力。

 だから俺は師匠から無理をしないようにとある程度のレベルで分けることにし、速度なので適当に「ギア」と名付けたのだが、師匠は「その名を使うか…」と呟いた。

 無論多分この皇光歴の『ギア』という名前と西暦の『ギア』では意味が異なるのだろうけれど、俺は敢えて詳しく知ろうとは思わない。

 多分そこまで詳しく聞いても多分そこまで意味のある名前だとは思わなかった。

 問題なのはこのギア…多分師匠レベルだという事だ。


「君が使ったときは流石に心臓が跳ね上がるかと思ったよ。この時代にギアを扱う者が居るとは思いもしなかったからね。正直失われた名前だと思ったし、あいつは…友はてっきり名前も技術も捨てたと思っていたよ。これは少々扱うには才能に左右されやすい」

「うん。師匠がウルベクト家に代々伝わる書物を見ないと知らなかったと思うよ。父さんはああいう性格だからウルベクト家の書物なんて見ようとしないし、継承すればそれで良いと思っているからさ。でも…」

「そう言えば君の師匠であるアックス・ガーランドは勉強家でもあったな…そう言えば。思い出したよ…。それ故に彼は当時最年少で軍の准将に選ばれたのだったな。年上のサクトや年下のアベルですらも准将スタートでは無かったと聞いている」

「そうらしいな。戦争中で功績をドンドン立てた中でも師匠は恐ろしく早かったと…でも当時それ故に疎まれていたとも聞いたけど」

「戦争中に立てられる功績なんてどんなものさ。無論だからと言って旧貴族で貴族内紛時に平民派として戦った英雄の一家の跡取り、しかも皇帝一家と親しい家柄となれば無下にも出来なかったという所か。それは君達も同じだったはずだな。だからこそサクトも含めて彼等は帝国三将と呼ばれるようなレベルにまで到達出来たのだろう…」


 そう言いながらジェイドはギアで姿を消し俺の真後ろに回り込むが、流石にもう見えないと言うことも無い。

 神経を研ぎ澄ませてこちらも飛永舞脚で対抗するように攻撃を剣で受止める。

 至近距離で睨み合う中俺はふと疑問を感じたことを聞いてみた。


「因みにその技…使うのは久しぶりなのか?」

「ああ。二千年以上に渡って色々な奴らと戦ったつもりだがこの能力まで引き出したほど私を追い詰めたのは訓練時の友を除けば始祖の吸血鬼だけだろう。あれはまさしく…化け物だ」

「アンタが言うほどなのか?」

「ああ。愛情深く、愛情のためならどんなルールもねじ曲げて、どんな命だって蔑ろにすることが出来て、その上でどんな卑怯な手段にも身を浸すことが出来る。不死者となって初めて戦ったが、あそこまで生きる事に執着する人間も珍しい。あれは正しく不死者と名乗っても良いぐらいの不死者だった」


 ジェイドは俺から一旦離れてギアで速度を上げつつ今度は右側から二連撃で斬りかかってくるのを俺は攻撃軌道を上手く逸らす事で回避、その調子で飛永舞脚で走る速度を一気に上げて今度は攻撃し終えていたジェイドの首を狙って切りかかる。

 ジェイドはその攻撃を不死殺しの剣で受止めつつ上に弾いて左側に回り込むが、回り込もうとした瞬間に俺はその場から逃げるようにダッシュで距離を取った。

 するとジェイドが走って近付いてくるので俺は襲い掛ってくる攻撃を上手く受止めながら広い空間を縦横無尽に走り回る。


「この高揚感…久しぶりに戦っていると実感できる。生と死が常に隣り合わせになっている臨場感と圧迫感こそ戦闘なんだ。不死者となってからこんな高揚感が得られたのは始祖の吸血鬼ぐらいだった。正直こんな短期間でどれだけ強くなれるか心配だったが…ボウガンめ…」

「ボウガンにも感謝しているさ。ボウガンだけじゃ無い…師匠にもジュリやレクター達だって…皆感謝して居る。戦ってきた敵ですらも。俺が唯一許さないと決めている敵は名も呼ぶことも嫌なあいつだけだ」


 怒りと不満を剣に乗せてジェイドに斬りかかるとジェイドはそれを敢えて剣で受止める。


「フフ。だろうな…あれほど自分本位に生きた人間も少ないだろう。あれは本当に自分本位で生きていた人間だ。死んで当然だったと言えるだろう。ただ…忘れないで欲しい。基本的な不死者なんてあんな奴と同じだ。例外が少ないんだ」

「だろうな。ボウガンやアンタが例外なんだろうな」

「そういうことだ。それが分かっているなら良い。君がもし万が一にも私に勝てたならこれから君が戦っていく相手でもある」


 ジェイドと俺は剣が一旦弾いて距離を取り始め再びお互いの間に距離が開く。

 お互いに剣先を真っ直ぐに相手へと向けどう攻撃するのかと悩んでいる最中でもあるが、正直一歩でも足を踏み出せばその瞬間に戦いが再スタートする。

 いや…後ろに下がろうとも攻撃が始ると思えば今動きようが無い。

 こっちから攻めるのか、後ろに下がりながら敵の攻撃にカウンターを決めるのか決める必要がある。


「流石に手練れとなれば迂闊には動かないか。まあ、お互いに即死技を持っていないし効かない以上は仕方が無い膠着だろう。ドイツの時も思ったが、君の成長レベルは目を見張るモノがあるな」

「評価どうも。未だに俺の方が何歩か遅れていると思うんだけど?」

「それが分かるだけ十分成長しているんだよ。中途半端に強い力を持っている分だけ大概は目の前にある不死力で判断能力を見誤る事が多い。不死者に戦いを挑むと言う事は本来それだけ無謀でもあるのだ」

「…勝てないと思っていても戦わない理由にはならない。勝てないのなら勝つ為に策を用意するだけさ」

「それで勝つ事が出来るのは極僅かな人間だけさ。大体の人間は諦めて生きるのさ…知っているか?」

「何が?」

「君はかつて二千年以上前の不死者達との戦争で最も猛威を振るった木竜を殺し、今私という禍根を断とうとすらしている。私が死ねば不死者達との戦争は本当の意味で終結するんだ。そう…終わるんだ。二千年以上も続いた戦争がようやくの思いで終戦へと導かれる。そして…無限に近い異世界は救われる」

「……分かっているつもりだ。それが現代を生きた人間と永遠を生きてきた人間の決着だというのは皮肉に見えるけど」

「分かりやすいじゃないか。不死者と人間の戦いで物語は…英雄譚は終止符を打たれ、時代は新たな英雄の名を刻むのか、それともその英雄譚は閉じられ世界の未来が奪われるのか。たった一人の英雄の手に掛かっている」

「一人じゃ無い…俺は何時だって師匠と共に戦っているんだ。これは俺と師匠と共に歩く英雄譚だ」


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