夢幻を手に入れた者達 1
ジェイドは自分自身の身の回りで起きている出来事に対して一切運命のようなモノを感じなかった。
人の出会いには必ず意味があるとジェイドはずっと信じ続けており、出会いは必然であり運命的なものなど一つも存在しない。
物事に必然性以外には存在せず偶然など一つも無い。
人が行動する事で出会うのならやはりそれは必然と言うことだとジェイドは本気で思っているのだ。
出会い人は強くも弱くもなれる生き物だとジェイドは考え、それ故に人は出会いを恐れることもある。
人は変化する生き物で、人は他者と関わる事で変わることも変える事も出来るのだ。
何時だってそう言い聞かせてきたつもりで、自分自身それに納得して生きてきたが、同時に失う事もまた偶然である人を変える出来事でもある。
大切な人を失った時ほどショックが大きく耐え難いものがあるが、それを乗り越えたとき何かが変わるだろう。
だが、それを殆どの人は乗り越えることは出来ないもので、ジェイドは乗り越えるのに随分時間が掛かったし、だからこそジェイドは「人には幸せなんて要らない」と判断したのだ。
人は幸せを追い求めることで堕落していき、人は幸福を得ようとすれば貶めようとすると。
なら平和を本当に求めるのなら人から幸せと自由を奪えば良いと、永遠に生きたいと願うならそれを与える代わりに変わらない日常を与える。
「それが貴方の願いなの? ジェイド。私を失って貴方が出した答えなの?」
「そうだよ。私はね…こんな世界に、そこに生きている人々には幸せや自由は必要ないと思うんだ。それを求めるから人は堕落して滅びに向うんだと。人を貶めないと生きる事の証明が出来ない、弱肉強食という言葉が正しいのだと信じることも出来ない者達が生きている世界では平和なんて手に入らないんだよ」
「でもそういう優しい人達がいるからこそ世界は存続しているのだと思うわ」
「それも一理だよ。でも…そんな事を言っていたら変わらないだろう? 結局でそんな優しい人間はやっぱり弱いし、そんな弱い人達を容赦無く利用して食い物にしてしまう人間が上に立っている。それが真実だよ」
ジェイドはそれを知っている。
弱い人間は強い人間の影に隠れて生きていくしか無いし、なら結局で強い人間だけが目立つと言うことになる。
強い人間同士が意見をぶつけ合えば先に犠牲になるのは結局で弱い人間なのだと。
かつて不死者との戦いの中でジェイドはそれを思い知った。
虐げられる人達とそれ故に助けを求める者達がどれだけ悲惨な末路を迎えるのか、助けられた者も助けられなかった者も決して陸な結果にはならない事が多い。
罵詈雑言を浴びせる者達、感謝を述べる者達だって居るが、大体が大勢に巻き込まれるように自分の意見を引っ込める。
「結局は弱肉強食だ。なら私は永遠の強者になると決めたんだ。永遠の平和を作り出す強者に成ろうと。君は嫌がるだろうけれど…」
「私の願いは出来る事なら貴方がこの苦しみから解き放たれること…」
ジェイドの耳元に何時だって語りかけてくる不死者達の魂の叫び、それはジェイドを何時でも苦しめようとしてくる。
生き延びたいと、永遠に生きたいという彼等の強すぎる欲望が今でもジェイドの体を乗っ取ろうと試みる。
そんな想いを背負って二千年以上も生きてきたジェイド、それが何を意味するのかジェイド自身分かってはいない。
楽になりたいと思っているわけでも無い。
それを誰が成すのかは分かりきっていた。
俺はジェイドの元に向おうと階段を降りていく中、ジェイドが何を思ってこの二千年間を生きてきたのか少し気になってしまった。
苦しい事も悲しい事だってあっただろうに、きっと自分本位に生きていれば自分勝手に生きていればどれだけ楽だったのだろうか。
それでもジェイドは世界を平和にするという目標に向って突き進んで生きたのだろうし、同時に今目の前にある目的はきっとそこにゴールがある。
平和にする代わりに人々から自由を奪う。
自由と平和を奪って代わりに平和をもたらそうとするが、それが決して正しい事だとは俺には全く思えない。
やはり人は自由に生きる権利も夢や理想を追うことも必要な人らしさだと思う。
「人らしく…か」
それが難しい事ぐらいは自分で良く分かっている。
誰だって生きる過程で沢山の命を奪うものだし、それは仕方が無いことなのだろう。
生きるとは奪う事だから。
それはどうしようも無いのだ。
分かっていても理解したいわけじゃ無いし自分で理解出来る気がしないのも事実。
きっとジェイドだってそんな気持ちが強かったのかも知れない。
「生きていく過程で苦しくなったのかな?」
誰も言っているわけでも無い自分の独り言、誰かが誰かを奪い奪われている世の中で苦しい事も悲しい事も存在している。
それが当たり前だと誰もがきっと理解しながら恐れ生きていく。
不幸な人がいれば幸福な人間が居ることもまた事実で、それ故に幸福な人間は不幸な人間を哀れみ見下そうとするだろうし、不幸な人は幸福な人間を妬み目指して生きるのかも知れない。
「俺の場合疲れそうで嫌だけどな…」
でもそんな人間達の醜い部分を見続けたら希望を奪われる事もあるだろう。
人という種に絶望してしまったのかも知れない。
それこそ最初っからこんな計画を立てていたわけじゃ無いし、最初はあくまでも目標の一つ程度で、人を信じて見たいという気持ちが多かったのかも知れない。
大切な人を奪われたことだって、今の仲間達と出会った時だってそんな理不尽や不条理を何時だって見守ってきたからこその結論でもある。
ジェイドとしてももう人に対して希望を持ち続けることが難しいのだろう。
だからこそ、これを最後だと決めたからこその計画。
「でも…俺はやっぱり嫌なんだ。失う事だって俺にとっては大切な思い出になるんだ。死んでも誰かに意志を託して行けばきっとそれは生きている事と同じだと思うから。辛い事は誰かと分かち合い、嬉しい事も分かち合って生きる事が出来たならそれはきっと幸せな事だって思える」
今までだってそうだったじゃないか。
三十九人を失った時も、それを奪った人達と戦った時も、今まで失った人達と奪った人達と戦った時ですらも俺にとっては大切な思い出である経験だって言えるんだ。
憎んでばかりいたら疲れるし、誰かを見下していても寂しいだけだろう。
やっぱり俺はそう思えるんだ。
一人じゃ此所に来る事だって俺には絶対に出来なかった。
一人で出来る事なんてしれているんだって、誰かが居て誰かが居るって思える世の中がある世界だからこそ俺は大切な人にだって出会えた。
失ったことを辛い事だって思えたし、嫌な事でも理解し有ればきっと別の道だって見えた。
時に争う事でしか見えなかった道もある。
奪い合わないといけなかったときも、悔しい思いをした事だってある。
でも……そんな中で出会い別れた人達はやっぱり俺にとって大切な人達なんだ。
例え陸でもない人間だとしてもだ。
「出会わないで済めば良かったと思ったことだってあるけど…それでも今になってみれば人として大切な何かを掴めた気がする。思想が違う人間や別の正義を掲げる人間だって自分を省みる良い機会になる。それが人なんだろうな…」
なら俺はやっぱりこの世界にはこのままでいて欲しい。
それが平和から遠ざける行為なら俺はその平和を作るために意志を残して生きていく。
いつか俺の意志を託す人物だって現れるだろう。
俺の気持ちを理解する人だって現れるだろう。
俺はジェイドの部屋のドアを開く。