無間城の戦い 30
ケビンがドアを開けて中へと入って行くと一番奥に鎮座してあるエネルギータンクの前に座り込んでいるキューティクルを発見した。
階段になっている段差にそのまま腰掛けているキューティクル、着ている豪華でかつ簡単なドレスが汚れる事も厭わない。
というよりは自分が着ている服に全く拘りなどが無く、基本汚しても良いと思っているのだろうと思えた。
キューティクル自身自分が悪いとは全く思って居ないからこそ、そう思うからこそケビンは何処か彼女を憎めなかったのかもしれない。
自分の両親の死にすら関わったキューティクル、だが同時に感じる両親の自業自得感やキューティクルの暗躍なんて所詮は背中を押した程度のレベルでしか無い。
トドメにはなっても、きっと両親はいずれは誰かに殺されていただろう事は間違いが無い。
キューティクルは導いたのでは無い、彼女は背中を押したのだ。
崖下目掛けて突き落として見せただけで、彼女がしなくてもいずれは誰かが押しただろうし自分で落ちていくことは間違いが無いのだ。
そう…彼女は自ら恨まれようとはしていても、実は『いずれは』と思われるような出来事を多少なり早めているだけ。
「ようこそ。このエネルギータンクを破壊しに来たのね? しかし、カールはともかくボウガンに関しては意外な決着があったみたいね」
「そうのようですね。ギルフォードが中々話してくれないので少ししか聞いていませんが」
「さっき会いに来たわよ。で…貴女は私が許せないから戦いに来たのかしら?」
キューティクルは何時でも思うこと、それは「自分はきっと色んな人に恨まれて生きている」と、実際にそう思って居るからこその問いなのだが、ケビンは首を傾げてかえした。
「いいえ。とくには…何故です? 貴女が勝手な事をしなくても私の両親は死んでいたでしょう。貴女が殺さなくても…誰かが遅かれ早かれ殺していました。私を助けるためだったとはいえあの人達もまた許されないことをした」
ケビンという娘の異能を調べるために色々な人達を人体実験という名の下に犠牲にし続け、同時にその行いの全部を「娘の為」と言い訳にし続けてきた。
両親には感謝しているが、だからと言って殺されたことそのものを恨んでいるわけでは無い。
むしろそんな自分の両親の真実を知りながらも代わりにコッソリとではあるが育ててくれた大統領の方に感謝を述べたいほどだった。
「貴女はあくまでもあの組織すら遊んでいただけしょう?」
「そう言われると反論したくなるわね。私は契約に従っただけよ。彼等は願ったの。この悪魔に…だから悪魔はそんな彼等の求める結果が出るように手伝っただけ。それを「怖くなった」という理由で逃げ出したから私は殺したの。私と契約を結ぶというのはそういう事よ」
「それが悪魔ですか? そう言えば悪魔は元々そういう生き物でしたね」
「魂と引き換えに三つまで願いを叶えてやろう…だっけ? よくある内容よね。まあ…その通りよ。悪魔は本来そういうものよ。無論例外もあるだろうけれど…基本悪魔は群れでは中々動かない。それぞれ契約を結ぶ内容も異なるし。私みたいに自由にしている悪魔が珍しい」
ケビンはある意味ハッキリと言葉にされる両親の死の真相、両親は悪魔であるキューティクルと契約し、後に怖くなって逃げだそうとして殺された。
悪魔にとっては契約は全て、それを投げ出すなんて考えられないのだ。
だからこそ殺そうとハッキリと決めて動いたキューティクル、そういう意味ではそんな存在に契約を迫った方が悪いと言われたらその通りである。
神様に願っておきながら願いが叶ってから不満を言うことは理不尽だろう。
それと同じ事なのだ。
一度悪魔に願ってから後になって「怖くなった」と言って逃げるなんて悪魔が許すわけが無い。
一度願った以上は最後まで貫き通すべきだし、契約を破棄したいのならその通りに動くしか無いが、両親はそれすらしなかったのだろう。
「因みに貴女のご両親が一体私に何を願い私が彼等に何を対価として願ったのか…興味ある? それとも無い?」
「無いです。知りたいとも思いません。どうせ陸でもない事ばかり貴女は願ったのではありませんか?」
「言っておくけど私は他の悪魔と違って魂は食べないからね。何時でも私が楽しいことを優先してきたつもりよ。まあ…聞くつもりが無いなら良いけどね。あの頃は玩具が欲しかったのよね…」
「それ以上言わなくて良いです。聞いたら本当に後悔しそうです」
「じゃあ…始めましょうか」
ニッコリと微笑むキューティクルは右手をクイっと指を折りたたむのだが、同時にケビンの足下から強烈な勢いでヘドロが姿を現す。
ケビンは急いで右側へと向って逃げ出し、ヘドロは一瞬で天上に着弾する。
そのまま勢いを失う事無くケビンの方向へと向って突っ込んでいき、ケビンはそんなヘドロに青色の光をぶつける。
するとヘドロは一瞬で凍り付いてしまった。
「面白い能力ね。光線をそんな風に改造するとはね…そうね。本気で戦ったら私も死ぬ可能性があるし…ゲームにしましょう」
「ゲームですか? 不意打ちで襲ってきた人が?」
「今のはノーカンという事で宜しく。超簡単なルール制限時間は無し。私は貴女を殺すか撤退に追い込むか、貴女は私の後ろにあるこのエネルギータンクを破壊すれば勝ち。分かりやすいでしょう?」
「貴女が楽をしていませんか?」
「まさか。これでも必死よ。だって私には終わりが無いんだもの。貴女は破壊したらいう目安があるから良いけど。私はその目安が無い訳だし」
そう言ってキューティクルは黒い球体を五個ほど作り出して、ケビン目掛けて飛ばすとケビンはそれを不可視のシールドを使って纏めて防いでみるが、キューティクルはそんなケビンに対して今度は弓を作り出した。
弓の弦を握り矢を射出するのだが、その矢は普通の矢ではない事ぐらいは見れば分かる。
真っ黒な矢を慎重になって避けるケビン、矢はそのまま壁に着弾すると壁を溶かしてしまう。
「あら? 結構慎重なのね。てっきり防いで見せるかと思っていたんだけど」
「殺すつもり満々ではありませんか…撤退に追い込もうとは全く思って居ないじゃ無いですか」
「殺さない程度に手加減をしたつもりなのだけれど? 貴女にはそれも辛かったかしら?」
ケビンはキューティクルを狙って今度は赤色の光線を飛ばすが、キューティクルはそんな光線を黒い球体で防いで見せた。
黒い球体に光線が着弾すると同時に大きな爆発を見せる。
爆発がそのまま落ち着いて消えていき、キューティクルは見えてきたケビンに対して再び黒い矢を作り出した今度は二連発で放つ。
ケビンはそれを右に移動しながら避けていきケビンとキューティクルの間に氷の山を四つほど作り出した。
視界が歪んで見えるがそれ以外は綺麗な氷の山が四つお互いの間に立ち房がり、キューティクルはふと攻撃する手を休めた。
盾代わりになりそうな氷の山、作るだけならさほど労力には成らないし、触れるだけで効果を発揮する攻撃ばかりを持っているキューティクルからすれば厄介な盾だったりする。
防ぐ分でも幾らでも換えが効くし、キューティクルの攻撃の殆どを防ぐことが出来る優秀な策。
「どうやって突破しようかしらね…その上貴女の光線攻撃は普通に貫通する訳よね。純度が高い氷って光には厄介よね…」
純度が高い氷を前に光はアッサリと貫通する。
キューティクルは「仕方が無いわね」と言いながら大量のヘドロを自分の周りからドンドン増やして行った。