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無間城の戦い 26

 ボウガンの体から離れていくコウモリのような存在は離れていくと同時にその体を大きく変貌させ、次第に形を人型へと変質させると同時にその体が女性らしいものへと変わり果てる。

 ボウガンもゆっくりとその姿を見るために振り返り、ギルフォードとボウガンは同じ人物を見るが、見つめて居る女性はそのシルエットを豊満な胸部を強調させるような姿へと変え、服装も黒と紫色のドレスへと替わっていく。

 正直に言えばその辺の男性だったら見るだけで、視界に入れるだけで惚れさせることが出来るのではと言わんばかりに妖艶さとでもいうのだろうそんな雰囲気を醸し出している。

 閉じている瞳を開けると碧眼の綺麗な眼が二人をしっかりと捕らえ、ボウガンの表情が数割増しで引き締まる。

 ボウガンが世界の誰よりも恨み続けていると言っても良い人物、ボウガンを吸血鬼に変えてしまった張本人でもある始祖の吸血鬼。

 ボウガンにかけられた呪いを切り取った瞬間彼女は現れたが、これは決して彼女の封印が解かれたわけじゃ無い。

 彼女の封印はボウガンが誰よりも良く知っていることで、その場所も知っているが少なくともボウガンから出てくるような封印では無い。

 それが出来るなら彼女はさっさと実行しているはずで、実際幾ら形をそのまま再現しようが彼女には生気を感じない二人。

 生きているっという気配をまるで感じさせない彼女だが、実際視線もどこか虚ろな感じで二人を見ており、口もただ閉じているだけという感じである。


「……これが狙いか?」

「ソラと相談した。レインも引き離せばお前にかけられている呪いを解除する事は出来ると言っている。呪いとはかけられても解除する事で元に戻すことは可能。呪いは死なない限りは解除が可能な力だと」


 ソラ達はそう言ったのだ。

 呪いは強力な分だけ解除する事が出来るし、度合いやベクトルが異なるとはいえどんな呪いも基本解除する事が出来る。

 魔属性や聖属性とは違い使用者自身で無い限り解除は可能で、実際竜達にかけられたその身を変質させる呪いは全て解除する事が出来る。

 もっとも触れれば解除出来るような簡単な呪いならソラがそうしているが、呪いそのものが体の奥底かもしくは異能そのものに寄生している場合はソラでも簡単に排除できない。

 ソラがそのままでは見えないと言うことは、そのままでは認識すら出来なかったと言う事は異能そのものに取り憑いているという事だとソラ自身が述べ、レインはそれを裏付けるように告げた。


『あの人の異能に不思議な力が混じっているのが見えたの。色が違ったのかな? あの人の異能の色は綺麗な碧色だったんだけど、取り憑いているのは朱色だったから。違いが良く分かったの。異能そのものに取り憑いてコントロールしようとしているんだよ』


 ソラ曰く。


『異能に取り憑く事は別段不思議な事でも異常な事でも無いらしい。それは珍しい方かも知れないが、全く事例パターンが存在しないわけじゃ無いんだそうだ。資料に載っているだけでも十件以上のパターンがある。その全てが解除するのに解呪師と呼ばれている人達が苦労している。それだけ分かりにくい。そもそも異能そのものに取り憑くパターンの呪いは基本強くは無いそうだ。基本弱くさほど脅威にはならないと言う。異能に取り憑くと言うことは隠したいという現われだ。そういう呪いは基本精神面に強く影響を出す。例えば酔えば殺人衝動がやってくるとか夜になったら別人格が目覚めるとか。そんな感じだ。そして、今回の場合は死にそうになると誰かを殺人衝動に襲われると言う事だ。恐らくその衝動が動いている間は異能が発動出来ないんだろう。喰って奪うという異能はそもそも彼自身の異能が変質したもの。普通の人間時代から何らかの異能を持ってはいたんだろうが、それが吸血鬼になった際に『喰って奪う』というモノに変貌した。その原因は呪いであり吸血鬼化なんだ』


 ソラは言う…吸血鬼は人を主食とする。

 人の生き血を飲んで生肉を食い生活するのだと、そして吸血することで眷属を増やして数を増していく。

 恐らく遙か昔二千年近く前西暦世界にはこの吸血鬼が現われ世界を滅ぼそうとしたのかもしれない。

 その始まりであり、全ての吸血鬼を従える元凶でもある『始祖の吸血鬼』その存在を模して呪いが具現化させた存在。

 だがあくまでも具現化させただけで、それ以上の能力は基本持たないとソラは言っていた。

 ブライトも同じ意見であるらしく、分離した呪いが術者が存在しない状態で自律的な攻撃が出来るわけが無く、ましてや操る事は出来ない。

 だって始祖の吸血鬼は未だに封印状態なのだ。

 封印状態で封印の外側に干渉は絶対に出来ないというルールが存在し、それは例え神の如く力を持つ存在だとしても超えることは絶対に出来ない。


「これはあくまでも呪いそのものが分離した状態に過ぎないんだろうな。だから攻撃出来ないはずだ。襲い掛ることも出来ない」

「………呪いが掛かっていると言う事はボスから聞いた。あの男は異能にも精通した知識をもっていたから。だが、ボスは…ジェイドは俺にそんな解除方法があるとは教えてくれなかった」

「敢えて教えなかったんだろうさ。利用しようとしているなら教えなかったはずだし、例え教えたとしても吸血鬼から人間に戻るわけじゃ無い。不死者として衝動が無くなるだけ。それは人を食うと言うことに躊躇いを躊躇いが保てるという事。我慢が出来る。それ自体にあの男はメリットを感じなかったんだろう?」


 だから黙っていた。

 隠していたし敢えて知られないようにと上手く会話などを誘導していたのだろう。


「……なるほど。だから俺は生き残る可能性が高いと言ったのか。全く…何処までが予想通りなんだか…」


 きっと全てが予想通りに動いているし、全てが予想通りでは無いのだろう。

 何もかもを、一から十までの全てを完全に予想して生きる人生なんてジェイドは面白いとは感じないのだろう。

 彼は侵略している間も相手に勝てるという可能性を残していた。

 それは決して余裕からくる行動でも無いが、余裕が無ければできない事ではある。

 相手にチャンスも与えたいという気持ちがあれば、同時に予想外を楽しみたいというのもあるのだろう。

 ジェイドは決して完全無欠の侵略者に成ろうとは思っていないのだ。

 だからこそ侵略していくのに二千年もかけたのだ。


 ボウガンは異端の弓を呼び出し弦を引き絞って照準を始祖の吸血鬼へと向けると、そのまま何の容赦も無く異能で作った矢を解き放った。

 始祖の吸血鬼の頭部を完全に破壊しボウガンは自らを呪い続け、愛する人すら奪った存在をようやく否定することが出来た。


「結局はジェイドの言う通りか…」


 ギルフォードはボウガンの脇を通り過ぎてエネルギータンクを破壊する。


「これで俺の役目も終わりだ。どうするつもりだ? お前」

「俺はまだやるべき事がある。ジェイドからの頼まれ事がな。あの少年は勝つだろう。ジェイドは全力で挑むが、この状況ではジェイドが勝つ可能性はかなり低い。あの少年にはジェイドですら知りようもない切り札を幾つか持っている。多分勝てる。手を出すつもりは無い。ジェイドは自分が負けた時に俺達に別の役割を与えている。俺はそれを実行するだけだ」


 立ち去ろうとするボウガンにギルフォードはハッキリと告げる。


「卑怯な道に逃げるのでは無く人として当たり前で過酷な道を選んで欲しい。愛する人を探して、そんな人と一生を過ごせるように諦めないで欲しい。それがベルの一生に一度の願いだと。それ以外は私は求めないと。だから…私に対して埋め合わせをしようとか、私をこうして拘束して居ることに罪悪感を抱かないで欲しい。私は今この瞬間も幸せだと。だって…貴方と一緒に死ぬ権利を持っているのだから……これがベルがお前に伝えて欲しい事だそうだ」

「勝手だな………分かったよ」


 一筋の涙を流し戦いは終わった。


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