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無間城の戦い 19

 カールは血を流しながらも上空を舞い、下で二本の杖を構えているアンヌが見下ろすが、その表情はどこか無表情に近かった。

 一体何を考えて、何を思って今空中を舞っているのかを考える余裕も無いアンヌはカールの一挙一動に全神経を集中させる。

 カールは両手から光の球体を作り出してからそれをアンヌ目掛けて飛ばしていき、アンヌはそれを氷で道を作って滑るように回避していく。

 着弾していく地面が大きな爆発を起こしているところを見て移動する速度を少し上げていきながらアンヌはカール目掛けて氷で出来たモーニングスターの様な棘の着いた球体を複数体飛ばす。

 アンヌが作り出したその氷の攻撃をカールは光の球体で迎撃していきながら攻撃する手を一切休めない。

 先回りされたように光の球体がアンヌの近くで爆発して体が軽く吹っ飛んでいく。

 それでようやく攻撃の手を休めたカールだが、アンヌはなんとか受け身を取りながら痛みに耐え忍んでから光線をカールに浴びせる。

 カールはそれを右手で防いで見せた。


「人の身で私に勝つのなら少なくとも殺気を纏う必要があるでしょう=当然。貴方の攻撃には殺気があまりにも少ない=これでは致命傷にはならない。実際これだけの傷でも不死者としてはともかく一般人でも即死には至らないでしょう=致命傷はさけている」


 アンヌが攻撃する瞬間に手を緩めてしまった事は認めざる終えない。

 実際あの時の一撃で決着を付けることだって出来ただろうし、これがソラ達なら恐らくこの一撃で決着を付けていたはずだ。

 しかし、実際は血こそ流れているが不死者としては幾ら再生能力を阻害されても、時間経過で治っていくだろう。

 瞬時に直せないだけでそれ以上もそれ以下でも無い中途半端な攻撃手段。

 正直身に受けたカールとしては生きていると言うことが同時にアンヌの覚悟不足でしか無いと指摘するしか無かった。


「そんな殺気の籠もらないような攻撃では私を倒すことは絶対出来ない=不可能です。戦う相手に対して同情する、戦う相手に対して非情に徹する事が出来ない=そのような覚悟では無理」


 アンヌがソラ達に対して恐ろしく劣っている部分があるとすれば、それは戦いに対する非情さである。

 敵を殺すと言う気持ちや戦いに対してどうしても何処かで躊躇してしまう。

 それはアンヌ自身が酷く優しくどうしても同情してしまうからであり、それは例え自分の大切な友人を殺したような相手でも非情にはなれない。

 誰かを想うからこその優しさがいざ戦いとなるとどうしても足を引っ張ってしまうのだ。

 それこそ今ですらもカールに対して何処か同情しているのは事実、あんな不幸な現状に対してどうにかしてあげたいと言う気持ちは否定できない。


「貴方は戦うには優しすぎる=非情に徹しきれない。生まれたての優しさ=戦いに全く向いていない」

「それは貴方も同じなのではありませんか? 先ほどから貴方の攻撃にも殺気がそこまで籠もっているとも思えません。今思えば貴方は戦うときに何処か心でセーブをしているように見えるのです。それも先ほどの話を聞けば分かりそうな気がします」

「貴方のような恵まれている人間に何が変わるのですか=理解したふりをしないでください。私は閣下の為に戦うと決めているのです=絶対」

「それです。なら貴方は最初から本気で戦うべきでは無かったのではまりませんか? 京都での一件でもそうですが、貴方はいざとなるまで奥に引っ込もうとする」


 カールはアンヌに向って光の球体を飛ばすが、その攻撃はアンヌの左方面に向って大きく逸れてしまう。

 爆風だけがアンヌの元へと届くが、まるでアンヌは恐怖すること無く真っ直ぐにカールを睨み付ける。

 ここで逃げては一生カールに勝てないと分かっているからこそなのかもしれない。


「私は元来戦うのが苦手なのです=逃げているわけではありまえん」

「それは嘘です。例えそうだとしても貴方の本来の能力を考えれば戦闘用にでも能力を作り替えることも、作り上げる事だってできたはず! なのに貴方は一切それをしようとしない!」

「黙りなさい!!」


 カールは今度はアンヌの右側へと向って威嚇するように光の球体を飛ばすが、アンヌは一瞬だけ目を瞑ってしまうが再び覚悟を決めたような目でカールを睨み付ける。

 明らかに動揺からのアクションであり、吐き出す息も微かに激しくなっていることが分かってきている。

 アンヌは確信した。

 カールも心のどこかでは戦うという事を否定しており、ジェイドに付き従うという理由から心に無理をしているのだと。

 それがジェイドにも分かっているからこそいざとなるまで戦いを強制はしない。

 無論戦うという側面だけで言えばカールにはボウガンもジェイド自身もいる。

 困る事が無いという事でもあるが、それは決して『=』で戦いに参加しないで良いとはならないはずなのだ。

 アンヌとていざ戦いになれば戦いの場に赴く事は決してやぶさかでは無いが、それで乗り気にはどうしてもならない。

 似た匂いをハッキリと感じているからこその問い。


「黙りません。貴方も私と同じで心では戦いから逃げている。本当は戦いたくないと否定している。それを『ジェイドから言われたから仕方が無い』と言い訳している!」

「黙りなさい!!!」


 今度こそアンヌ目掛けて飛ばした光の球体を敢えて避けないアンヌ、すると白虎がアンヌの目の前に現れて氷の分厚い壁を作り出して攻撃を防ぐ。

 玄武も同じように目の前に現れてジッと睨み付けるのだが、その目も然る事ながら何もよりもカールが怯んでしまったのはアンヌの問いである。

 ジェイドだって本当は分かりきっていたことだが、それをジェイドも敢えて問おうとは想わなかったのだ。

 だが、それをカール自身理解しながらでは何故戦わないのか、戦いを恐れるのかはアンヌには何となく分かった。

 不死者の今までの情報を照らし合わせて考えればカールが何に恐れているのかは分かる。


 不死者の傾向としては本来人を襲うというのは本能に近い行動であり、それは決しておかしいことでは無いのだ。

 でも、ジェイドやボウガンはそれに逆らおうとする傾向がある。

 それはジェイドとボウガンでは考えの差があるので全く違う理由にはなるが、カールは二人と比べて少しばかり後ろめたい理由なのだ。

 と言うのもカールはジェイドに殺されたくないのだ。


『人間に危害を加えたらジェイドに殺されるのでは?』


 それは初めて出会った時に植え付けられた感情だったのかもしれない。

 当時ジェイドは『人間に危害を加えようとする不死者を殺す』という目的で旅をしており、初めて出会った時もカール自身を殺そうとしていたのだ。

 その時に『死ぬ事で救われたい』と願っていたことも事実だが、そんな時不死者としての本能の一つでもある『生きたい』と願った事も事実なのだ。

 怖い、死にたくない、もっと生きたい。

 そんな願いがあり、同時にもしジェイドの前でドンドン人を殺していけばいずれ自分は不死者としての本能に逆らうことが出来なくなるのでは?

 そんな気持ちが彼女を何処かで戦うという行為に否定的にさせていた。


 ジェイドはあくまでも不死者を恨み憎む存在であり、それが不死者のような発作的な行動を抑える。

 ボウガンは嫌悪感と罪悪感で「全く人を襲いたいとは思わない」という気持ち故。

 メメントモリはそもそも機械なだけあって基本人を襲うと言う行動に命令以外にはあり得ない。

 キューティクルは人を襲うことが楽しいことなら実行するかも知れないが、殺す事が同時に楽しいことであるとは限らない。


 だから恐怖する。


『この中で私だけ不死者に近いのでは?』


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