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無間城の戦い 10

 幼い頃ボウガンは何度も死にかけた。

 その原因だったのは彼が生まれつき病弱な体質で、取り立て免疫力が非常に低く風邪を引いてもそれが原因で更に重たい病になるなんて日常的なことだったのだ。

 当時のことは全く覚えていないのだが、それでも今思えばよくも五歳まで生きられた者だと思う。

 当時は今ほど治療という分野が発達しているわけも無く、治療なんて半分以上は運であり、その上基本治らないことが前提でもあったのだ。

 重たい病にならないようにといつもボウガンの両親は祈っていたし、毎日が綱渡りのような人生だったボウガンとその両親の目の前にその女性は現れた。

 美しいという言葉をこれでもかと体現している女性、長すぎる髪を決して纏めようとはしていないのに、なだらかな金髪は纏まっているのにサラサラ。

 豊満な胸に引き締まったウエストなど正直羨む要素しか存在しない女性、だが同時にその目は正直人を人として見てないような感じの蔑むような目をしている。

 中国人には見えないその風貌とは違い、王宮にでも済んでいるような感じのドレスを着込んでいる美しい女性。


「その子…妾が救ってやろうか? 妾なら救ってやることも出来るぞ」


 女性はそう言って両親に一歩詰め寄ったが、両親は全く考える事は無かったとボウガンは薄らとして記憶している。

 今思えば例え両親が嫌がっても彼女は両親を殺してボウガンを吸血鬼に変え、その死んだ両親の遺体を喰らわせたはずだ。

 そうだ…あの女性には最初っからボウガンを吸血鬼に変える以外の方法なんて一つも存在しなかったのだ。

 当時に彼女は不死皇帝に追われていた時期で在り、とにかく勝つ為の戦力探しをして居た頃だ。

 そして、ジェイドもまた当時はまだまだ今のように強力無比な異能を持っては居なかった時期だったし、五百年の間両者の戦いは互角でもあったのだ。

 その状態で女性が見つけた三人目の眷属こそがボウガンで在り、彼女の人生の中で現状唯一裏切った吸血鬼でもある。


 ボウガンは結果から見れば救われたわけだが、人として見た最後の光景は悪そうな、どす黒いような感情を全く隠そうとしない彼女の…始祖の吸血鬼の顔だった事は間違いが無い。

 そして、ふと意識を取り戻した時、ボウガンは両親を…村に生きているあらゆる人達を全員食っていたのだ。

 正直に言えば絶望した。

 同時に感じる満たされたという感覚はボウガンに「自分は化け物だ」と認識させるには十分すぎる。

 人を食べて満たされる。

 そんなもの化け物しか存在しないじゃ無いかという想いが彼をたった一人の人物への怒りと憎しみを抱かせるには十分だった。

 そして、ボウガンは一人になった。

 探そうと村を降りて人の居る集落へと向った時、とにかく聞いた事は「この世の者とは思えない女性を見なかったか?」だ。

 無論多くの人は見ていないとハッキリと言われ、ボウガンは次の集落へと向う。

 そんな中ボウガンは軍隊の手によって捕まってしまった。

 軍隊と言うほど近代的な者達では無く、当時は槍や小さい剣を持つ者達ばかりだったが、それでも彼を捕まえに現れた。

 理由は簡単で彼がとある村を滅ぼしたという噂を聞いたからだったのだが、それ自体ボウガンは決して否定しなかった。

 これで死ねるのだという想いも彼にはあったのかもしれない。

 当時はボウガン自身不死性という自らの身に宿った吸血鬼としての能力を全く理解して居なかったのだから。


「化け物!」


 そんな罵倒が聞えてくる中での処刑は首を切り落とすというシンプルなものだった。

 切られた感覚と当時に感じる激しい痛みに決してのた打ち回ることはしないが、正直に言えばボウガンが死ぬ事は決して無く、意識がなくなることも無かった。

 それどころか切り落とした首が自然と元通りになっていき、目の前で「化け物狩り」を果たしたと公言する男の後頭部目掛けて口一杯に食いついたのだ。

 何を食べても美味しく感じないのに、人を食べたときだけは美味しいと感じるこの体。

 一心不乱に頭を食べている中静寂が場を支配するのだが、誰だろうか。


「キャー!! ば、化け物―!」


 そんな悲鳴がハッキリと聞えてきてボウガンは正気に戻るのでは無く、彼が取った行動は『生きる』というシンプルな行動であった。

 即ち…彼は場にいた全員を殺して食ったのだ。

 そして正気に戻った時ボウガンは苦悩した。

 ハッキリに言って…自分自身に失望したのだ。


 生きるというシンプルな行動を植え付けられている故に、逆らいようも無く彼が死を経験する度に周囲に命を奪う事で彼は生きようとする。

 圧倒的なまでの生存本能。


「おお…これは酷い酷い。お前さんが食べたのか? 酷いことをするものだ…」

「好きで食べたわけじゃ無い! あの女が…あの女だけは!!」

「女? ああ…最近眷属造りをしているというあの女の事か。そうか貴様もまた眷属の一人か? どれ?」


 突然のように現れた男はボウガンの頬を力一杯掴んで口の中から舌を取り出して見せた。

 それまでの行動に全く躊躇いが存在しなかったのだが、男は「ふむふむ…3か」とだけ言って手を離した。


「お前は3番目の眷属か…と言う事は結構前に作った眷属だな…。と言っても2が作ったのが確か今から百年前だったからな。そうでも無いか。あいつが眷属を本格的に量産したのはここ最近という話しだしな。と言うかお前…話聞いているのか?」

「アンタなら俺を殺せるのか?」

「殺せる。だが…それがどうした?」


 全く言葉に迷いを持っていない。

 むしろその言葉には力強ささえ感じてしまう訳だが、それがかえって希望のように感じてしまえた。

 この男に殺されればいっそ楽になるのに。


「だったら…!」

「断る。私に全くメリットが存在しない。要するに得だ。得が無い。お前を殺してあの女へのダメージになるとも思えないしな。殺されたいなら他を当たれ。それに…死ぬ方法に他人を求めるんじゃ無い。自分が何故生きているのか、自分の死に場所は何処かなんて生きていく過程で分かっていくモノだ」

「生きていく過程…?」

「それにお前はどうして死にたい? 人間に戻りたいとか、誰かを殺したいとか無いのか? 下らん奴だな。生きがいを見つけろ。不死者なら…永遠を生きる事が出来るのなら時間は無限だろうが!」


 男の罵倒の前に屈してしまったボウガン。

 両親を殺し、村を崩壊させ、そして今目の前に居る多くの人達を殺し尽くした自分にこの男はそれでもそんな言葉を言うのか。


「死なないというのならお前は今時間だけは在るはずだ…そして、諦めないと言うことはどんな手段よりも厄介だぞ。時間が許す限り策など幾らでも生まれてくる。お前は何だ? お前は不死者…死なない者だ。なら生きて答えを出せ。このまま下らない死を選ぶのか、それとも己の生きがいを見つけ見出してから死ぬのか。どうせ不死者になろうがなるまいが、死ぬときは死ぬ。俺もお前もな…」

「俺達のような存在でもか? 殺されるのか?」

「いずれはそんな奴が現れると…私は信じているよ。何百年、何千年経ってもなお…な」

「殺したい奴が…いいや不幸にしてやりたい奴がいる…」

「ほう…誰だ?」

「あの女だ! 俺を…俺を吸血鬼にしたあの化け物!」

「良いだろう…俺についてこい! 殺す事は出来なくとも封印する事は出来るぞ」


 ボウガンに手を伸ばす男、その手を握り立ち上がるボウガンに男は名を名乗る。


「私はジェイドだ」

「俺は…名は無い…! 名は失った…」

「そうか…ならボウガンだな。理由は無いぞ…強いて言うなら適当だ。名がないとつまらんからな。つい来い…ボウガン」


 それが彼にとってのはじめの一歩。


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