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無間城の戦い 9

 何を願い、何を思い、何を移ろいで生きていくのかは誰も知りはしない、その人の人生はその人にしか決められないと誰もがきっと知っており、他者に従って生きるか、他者に抗って生きるかもその人にしか決められず、現状はあくまでも選択肢を選ばせる切っ掛けに放ても言い訳にはなりはしない。

 人生の選択をした事を例えどんな悲劇が待ち受けていても、それを他者の所為になど本当の意味では出来やしないのだと。

 ジェイドはそれを金で装飾された豪華な椅子に座って思いふける。

 何時だって自分の人生は選択の連続だったのだと、親友と出会い分かれ、不死者となり、カールと出会って部下にし、吸血になったボウガンを引き入れ、メメントモリの計画を潰して、キューティクルを屈服させた。

 そして、今もなお自分の人生には選択肢が迫っているのがハッキリと分かってしまうが、それが例え自分の破滅でもきっとジェイドは後悔なんて一つも存在しない。

 それは彼が不死者になった時に既に覚悟していたことで在り、自分の死が世界には良い結果もある事ぐらいは理解している。

 だがここ数百年ジェイドは半分自分の死を諦めてきた。

 自発的にしてきたことだったとはいえ、彼は自らの異能を弄り回し結果無敵に最も近い力を得てしまったのだ。

 それこそ奇跡を否定する奇跡という矛盾を極めたような異能でも無い限り勝ち目の無い能力を身に宿し、その上で鍛え抜き、勝ち続けてきた。

 あまたの異世界を支配していくジェイド、その目的は何処かに居るかも知れない自分を殺す可能性を持つ人物を探し出す事。

 だが、何処を探しても見つからない毎日に彼は次第に絶望感に満ちあふれ、同時に覚悟も決っていった。


「この世界は支配しないと平和にはならないのなら私が支配する」


 例え世界から疎まれようとも、世界から排除されようとも、それが平和という答えに辿り着く方法ならジェイドは容赦無く実行すると決めた。

 そんな時、それを実行すると覚悟したその時その少年が現れた。

 どんな過酷な運命すら立ち向かい、どれだけ勝てないと思った相手にすら立ち向かう人間なら死ぬほど見てきた。

 それこそ殺すほどに見てきたが、それでもそんな相手に本当に勝つかも知れない相手なんて死んでも見てこなかったのだ。

 だが、あの日ニューヨークの街でそれに出会った時ジェイドは本当に運命という言葉を信じてみても良いと思えた。

 師匠の死を乗り越えようと必死で、何もかもを諦めないと決めたような目で、目の前にある自分の運命に押しつぶされそうになりながら、それでも仲間達と共に歩こうとするあの少年を見て。

 それはかつての自分が放棄した姿でも在り、同時にかつての親友を思い出させたのだ。


「フフ。なあ…これもお前の予想通りだと思うのか?」


『ジェイド! それでも俺は『繋ぐ絆』こそが永遠に勝る唯一の方法だと思っているんだ! お前はそんな俺を「甘い」というかも知れないが、いつか…俺達の子孫がそれをなしてくれるって本気で信じている』


「甘いか…私は確かにそう言ったな。それを…それでもお前は『信じたい』と言った。それを私は「だからお前は…」とだけしか言わなかったのに、お前はそれを約束だと本気にしたのか?」


 ジェイドは親友と約束なんてしたつもりなんて一つも無かったのだが、それでも初代ウルベクトはそれを約束だと信じ、ずっと貫いてきた。

 それこそ十年、百年、千年続く繋ぐ絆を繋ぎ続けてきた。

 それをジェイドに証明し続けるために、それが結果的に見れば多くの人に不幸を押しつける結果になっても、自分の一族に不幸を与えてもそれすらも乗り越えると。

 ソラ・ウルベクトという少年を形作っている源なのだろうし、その血肉には多くの人達の繋いできた『想い』があるのかもしれない。


「想いか…そんなモノ考えた事も無かったな。いくつもの時代を見つけてきたよ。その都度見えてくるのは知性を持つ存在の世界すら滅ぼす欲だった。知性を持つ存在に『明日』を与えると滅ぼすことしか考えない。それを阻止しようと新しい滅びを選ぶ。矛盾に気がつかない矛盾。ある意味愚かな側面しかな…」


 ジェイドの前に立ち塞がってきた者達も誰もが綺麗事を吐き出すくせにそれを貫き通す強さも持っていなかった。

 勝てない存在を前にして屈してしまったモノばかりだ。

 取り立て自らを最強だと思い込んでいる存在こそ屈しやすく、落しやすいと分かってしまうのだ。

 他者と一緒に戦えば勝てるだとか、自分が支えるんだとか、そんな甘ったるい綺麗事をジェイドは死ぬほど見てきたし、その綺麗事が最後には文字通り綺麗事だけで終わる瞬間視か見てこなかった。

 世界の汚い側面を理解して居ながらそんな綺麗事を吐き出し、そんな側面に手を差しのばそうとすらしない者達ばかり。


「君や親友が見つけたかった明日なんて何処にも無かったんだ…この二つの世界以外にはな…ここはあの少年が…少年達が支えようとしている世界だ」


 この世界だってきっと同じだとクライシス事件の時にそう思った。

 世界の政治を破壊してやれば、きっと世界には醜い側面が溢れかえるのだと、誰もが知る事になる。

 そんな時に自分が現れて『世界の敵』を演じればそんな人達には目もくれず自分に襲い掛ってくるとそう思って居た。

 だが、あのソラという少年は目の前に居る敵一つ一つに立ち向かい、時に心を救い、時に計画を阻止し、時に彼等の思いすらも背負ったのだろう。

 クライシス事件の時、あの少年を発見していればもしかしたらもっと違う結末でも用意されていたのかも知れない。


「あの少年は…その少年を支えてきた者達は世界を今もなお支えようとしている。あのニューヨークの事件の時あの少年とその師であるアックス・ガーランドが変えた世界。そうか…聖竜これもお前の目的通りなのか?」


 あの時聖竜が本当に成し遂げたかったモノはきっとこういうことだったのかも知れない。

 自分の命すらも明日への糧にして見せた。

 あの少年と出会えたインパクトに全部持って行かれてしまったが、自分の死もアックス・ガーランドの死すらも利用して世界という存在を変える起爆剤にし、同時にジェイドを世界の敵と見据えさせることで一つにまとめ上げる。

 その先頭にソラ達を置くことで世界を変える切っ掛けにする。


「全く…回りくどいやり方だ。だが…そのやり方では私に勝つ事が前提だな。言っておくが…わざと負けるつもりなんて一つも無い」


 ジェイドは誰も無いなか誰かに話し掛ける。

 それはジェイドの親友なのだろうか、それとも先代の聖竜なのだろうか。

 きっとその両方なのだろう。

 ソラ・ウルベクトを全力で迎え撃ちその上で自分の正しさを証明して世界を変える。

 どっちが勝っても世界はきっと変わるだろう事は間違いが無い。

 もう元通りには戻れない。


「元通りの世界に戻りたいという馬鹿な者達も現れるだろうが…そんな者達は変革の中で消えていくだけさ。今まさに此所で起きている変革に立ち向かえる者だけが世界の変革の主導権を握ることが出来るのだから。やはり負けられないことは間違いが無いな…」


 全力で迎え撃ち、その上で自分勝つ事を絶対に諦めない中で、もし自分が負けた後の事もしっかり考える。

 だからこそ二人ほど自分の死後を任せて居る。

 今ジェイドが頭の中で思い描いている事、ジェイド自身はかなりの確率で当たると思っているのだ。


「恐らくあいつなら動く…それにあの少年が気がつくとは思えない。もしそうなれば…だからこそのあの二人だ。あの二人の性格と目的と周囲との状況を考えれば生き残る可能性が高い」


 ジェイドは願うこの戦いの先を。


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